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獣になっても君が恋しい  作者: 礼三


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外伝 ネモフィラが咲く頃に…。1

 リンネアが初めてスィーリと対峙したのはグルナディーヌ侯爵家の庭園だ。

 目の覚めるような青空の下、朗らかに声をあげてスィーリは笑っていた。思えば、スィーリの開放的な笑顔をリンネアが見たのは後にも先にもその時だけだ。



「はっ!」

「まだまだ!」

 リンネアは耳へ届いた活気のある声に屋敷の廻廊から中庭を望んだ。

 すらりとした人影が、指導者であろう大男から指南を受けているようだ。

 人影は厳つい顔をした大男の攻撃から華麗に身を翻す。大男が脇腹へ目指して薙いだ木剣を、一寸のところで躱したのだ。

 かと思うと、大男の頭上を飛び跳ね彼の後ろへ回り、一瞬で大男の喉元へ木剣を突きつけた。あっという間のことだった。

「参った!腕をあげたな?」

「父上にそういわれると、感慨深いですね…」

 一つに結んだ後ろ髪が揺れている。太陽に煌めいた金波なような髪が振れるたび、白いうなじが覗いた。

「あの金髪の髪をまとめたお方…」

「素敵な騎士様ね…」

 リンネアと共にグルナディーヌへ訪れた少女たちがさんざめく。

 リンネアたち一行はその日、グルナディーヌ邸へ採寸に来ていた。



 王立ジョンブリアンアカデミーには伝統がある。

 入学を果たした新入生たちのために、歓迎を込めて舞踏会が開かられるのだ。

 貴族令嬢のデビュタントと匹敵するほどの格式高い催しであり、王国の少女たちは憧れを抱いていた。

 アカデミーの門をくぐれば、参加する名誉は誰しも与えられる。無論、平民もだ。

 だが、ここで問題が発生する。

 麗しい女子たちは白のドレスを身に纏いダンスホールを舞うのだが、下位貴族や平民にとってドレスは安くない買い物であり、彼らは歓迎会の準備に憂慮した。ダンスとは無縁の平民は男女問わずステップを踏むのも困難だ。

 また、高位貴族の中には地位の低いものを蔑むものもいる。

 それ故、アカデミーを創立したセレスト王国の王が高位貴族を自ら選出し、彼らは国王の代わりに平民や下位貴族の生徒らの救済する役目を担うことになった。

 国王から指名された高位貴族は礼服の制作管理、ダンスの指導等を任される。予算は全て持たなければならないが、国民へ王の信任を得られたことを知らしめれる名誉な役目であった。

 それまでは、平民の参加に分不相応だとドレスが破られるなどの嫌がらせもあったのだが、少なくともこの方法をとってからは、何事もなくアカデミーの新入生は舞踏会を迎えられた。

 犯行が発覚すれば、国王が選んだ家門への悪意を向けたと見做され、家門自ら処罰を下しても良いとの制裁が許されたからであった。



「彼の方は…。グルナディーヌ侯爵様のご子息様かしら?」

 目を輝かせながら両手を胸の前で組んでいる少女が呟いた。

「あら?ご子息様は二人いらっしゃったけど…。確か…。もう成人なされているわ…。それに、あの方は小柄でいらっしゃるし…」

 近くにいた背の高い少女が首を傾げている。

「ふふ…。あのお方はご息女のスィーリ様でらっしゃいますわ…」

 先頭で女生徒たちを案内しているグルナディーヌの使用人が彼女たちの疑問に答える。世間話に反応した使用人の様子に少女たちは顔を真っ赤にして恥じた。

「サーシャ!この方々はジョンブリアンへ入学する乙女たちか?」

 使用人の声にスィーリが振り向く。

 スィーリは若葉色に萌ゆる瞳を弓形にして、颯爽と少女たちの前まで闊歩する。足が長いスィーリは瞬時に距離を縮めた。

「さようでございます」

 サーシャと呼ばれた侍女はにこやかに返答した。

「我が家門へようこそ!皆、晴れやかで美しくいらっしゃる…。お迎えできて光栄です。このような不躾な格好で申し訳ない…。私はグルナディーヌ侯爵の長女スィーリと申します!以後お見知り置きを…。何か不便なことがあれば…。サーシャ!」

 白い歯を惜しみなくみせ、スィーリは少女たちに話しかける。少女たちは一陣の風が吹いたように感じた。

「はい、お嬢様…」

「この者に何でも言ってください!助力いたしましょう。サーシャ、大変であろうが…。お嬢様方のため、尽力してくれるか?」

「もちろんでございます。皆様、何かございましたら、私にお声がけください。恐れながら、私めがお嬢様の代理として皆様をお助けいたします…」

 リンネアはスィーリをとても素敵な女性だと思ったのを鮮明に覚えている。



 二度目にスィーリと対峙したとき、あのような形で会わなければ…。

 リンネアはずっと悔いていた。

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