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獣になっても君が恋しい  作者: 礼三


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21/30

21 公爵の杞憂(ヘンリック過去)

 離婚後早々とヘンリックはトイヴォを公爵家の正式に後継者だと認めた。

 ソフィアの悪意を逸らすためであり、今後トイヴォは王家の後継者争いへ関わることはないとソフィアに向けてヘンリックは宣言したのだ。

 跡取りを紹介するため、ヘンリックはトイヴォを従えて国王に謁見した。続けて王太子夫妻へ挨拶へ向かう。

 形式な挨拶を終え、速やかにトイヴォを連れてヘンリックは退室しようとする。不躾にソフィアはトイヴォへ言葉を投げかけた。

「貴方は父親と愛人の不義の子であり、本来ならその地位も与えられなかったと…。認識してられるのかしら?」

「申し訳ありません…。トイヴォはまだ子供でございます。そのようなことを仰っられては…」

 ヘンリックがソフィアを牽制するも、聞く耳を持たず、ソフィアは抗議する。

「私はスプルース小公爵に尋ねているのです…。スプルース公爵は黙っていてくださらない?」

「なっ!」

「父上…。いいのです…」

 ヘンリックはトイヴォを背に庇うも、トイヴォは首を横へ振る。

「だが…」

 ヘンリックの心配そうな眼差しへトイヴォは苦笑いを見せ、すぐにソフィアへ向きあい、臣従の誓いとして跪く。

「私めに発言をお許しください」

「よい…。許す…」

「確かに私の出自は…。父上…。スプルース公爵閣下と愛妾リンネアの不貞の結果、生まれてきた子供であることは違いありません…。本来であれば小公爵など恐れ多い…。ですが、父上…。スプルース公爵閣下が跡継ぎと認めてくださったのです。私はスプルース公爵家を盛り立てていきたいと覚悟いたしました。スプルース公爵家の後継者として若輩ながらセレスト王国を統べるゼニス王家に忠誠を誓います」

 トイヴォは力強い口調で告げる。その答えにヴァイヌが父であることを知らずに育ったことをソフィアは悟った。

「そう…。今後のスプルース小公爵を期待いたしますわ…。精進なさい…」

「あぁ…。スプルース小公爵…。私も君の未来を…。君の主君として見守っていこう…」

 トイヴォにとって、初めての実父との対面であった。息子の成長した姿にヴァイヌは感極まり声が詰まる。

 トイヴォは気に留めることもなく深々と頭を下げた。

 ソフィアは冷たい眼差しで夫の様子を一瞥すると、ヘンリックへ視線を移した。

「けれど…。スプルース公爵…。スィーリと離縁なさったのだから…。私はスィーリを専任騎士として採用したかったわ…。本当に残念…」

「私に言われましても…。決めたのは彼女です…」

 スプルース公爵夫妻の離婚後、ソフィアはまたもやスィーリを護衛騎士にと望んだが、スィーリは辞退した。


「王宮へは聖騎士団とはいえ団長なのですから…。スプルース公爵閣下は王宮へ赴くこともあるでしょう…。公正証書の内容から鑑みて、万が一、スィーリ様と閣下が出くわすと非常にまずいのです…」

 公正証書を違えれば、強制的に魔法で厳罰が下される。

 例えば、妻が夫との面会を拒否した場合、一般的に多い処置は出会った瞬間、転移魔法が発動され夫は家など予め決めていた場所へ送還される。

 ばつが悪そうな顔でマッティから説明を受けて、スィーリはグルナディーヌで暮らすことを決意した。

 実家へ戻れば、ヘンリックと顔を合わせることもないはずだ。

 詳細な理由はソフィアへ告げられていないが、その原因はヘンリックにあるのだろうと推測していた。

 そのため、ソフィアは更にヘンリックへ嫌悪感を持つようになったのだった。


 その後、ヘンリックはソフィアがトイヴォを危めることのないよう、ジョンブリアン学園へ進学するまで、後継者教育と称して常に側へ置いていた。

 ヘンリックはヴァイヌから無理矢理にトイヴォを押し付けられたようなものだった。

 トイヴォが誕生したときは我が子でもない赤子へ何の感情も湧かなかったが、スィーリと別れてから息子と共に過ごす時間はヘンリックにとって不思議と慰めになった。

 スィーリと暮らしていたためか、トイヴォの言動の随所にスィーリの存在を感じる。

 幼い頃は大人しかったトイヴォは、ハキハキとした物言いをする好奇心旺盛な子供へと成長した。ヘンリックは子供の頃の草原を駆け回ってきたスィーリをトイヴォの中へ見出した。

 息子として慈しんでいるトイヴォの血統のせいで王妃から虐げられることないよう、細心の注意を払っていたヘンリックだったが、それは杞憂であった。


 ソフィアはトイヴォとの初見の際、血の繋がった親子ではないのに、トイヴォへスィーリの面影を重ねた。

 やはり、ソフィアもはっきりとした発言するトイヴォへスィーリを重ねた。

 トイヴォへ王位継承問題が浮上する可能性も鑑みたが、トイヴォはすでにヘンリックとスィーリの息子である。トイヴォが夫の心へ今だに棲みついている女との間にできた子供だという認識がソフィアから消えていた。

 ソフィアはトイヴォを暗殺しようとして、それが切っ掛けとなりスプルース公爵夫妻は離縁した。

 それはソフィアの本意ではなかった。スィーリへ罪悪感を覚えていたソフィアはそれ以降、刺客をトイヴォへ送ることはなかった。

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