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14 公爵と子爵令嬢(ヘンリック過去・学生期)

「私には婚約者がいる…。大切な人だ…。なので、貴女の好意には応えられない」

 ヘンリックが王立ジョンブリアンアカデミーの二年生へ進級したとき、リンネアが入学してきた。

 スィーリは卒業をして、ヘンリックの婚約者としてスプルース公爵邸で暮らしており、公爵夫人の実務を手伝っていた。

「…。好きなのです…。だから、諦められません…。ヘンリック様の婚約って、お互いの気持ちは関係なく政略なのでしょう?学園にいる間だけでも…。友達で構いませんから…」

 ヘンリックの婚約者への愛は周知されていたが、気持ちを伝え思い出作りをしたいと望む女生徒は後を絶たなかった。

 特に新入生はスィーリへ対するヘンリックの溺愛ぶりを知らないため、スィーリが在学中のときよりヘンリックへ告白する生徒は確実に増えていた。

 リンネアもその一人だ…。

 柔らかな萌黄色の大きな目は好奇心旺盛に艶めき人を惹きつける。瑞々しく張りのある肌は明るく、表情の豊かさが愛らしい。

 ヘンリックの学年でもリンネアは有名で、男子生徒が恋人にしたい女生徒の一番人気なのらしい…。

 肩先でふわりと揺れる栗色の髪の毛先から、花のような甘い香りが届き鼻先をくすぐる。

「生憎、私は婚約者を愛している…」

 もちろん、ヘンリックの返事は誰であっても変わらない。冷たく言い放ったが、リンネアには挫けずヘンリックを見つけては友人で構わないからと付き纏った。

 ヘンリックは女性を邪険にすることができず、いつも紳士的に接する。それがまた、リンネアの行動を助長した。


 あれは、スィーリがまだアカデミー在籍していたころだった。ヘンリックが余りにも女生徒へ素っ気ない態度をとるのでスィーリは見咎めた。

「もう少し令嬢たちに優しくしてやってはどうだ?泣いていたではないか?」

「…。貴女はそれで良いのか?」

「もちろんだ…」

 スィーリは何の躊躇いもなくヘンリックへ告げた。スィーリはヘンリックとの未来を互いに支えあえる良い夫婦になるだろうと信じていた。

「私はヘンリックのことを信頼している…。ヘンリックが私のことを信頼してくれているように…」

 ヘンリックはスィーリの交友関係に思うところがあったものの見守ることにした。たまには干渉することもあったが最小限にとどめた。スィーリに嫌われたくなかったからだ。

「将来の旦那様には老若男女問わず優しい人がいい…」

 それは、ヘンリックから大切にされていることをスィーリは感じており、裏切られるようなことは決してないと確信していたから言い切ったのだ。


 ヘンリックはリンネアのことが嫌いではなかった。最初は鬱陶しく思っていたが、何度断ろうともめげずに明るく挑んでくるリンネアへいつからか賞賛を送るようになっていた。

 スィーリへの気持ちを募らせていたヘンリックは自身の姿とリンネアが重なった。

 現在、スィーリはヘンリックを弟のようにしか見てくれていない。婚約者という確立した関係があるからこそ、スィーリはヘンリックの傍らにいてくれるが…。


 もし、そうでなければ…。スィーリに別の婚約者がいたとしたならば…。

 考えたくはないが…。それでも、オレはスィーリを好きになって…。きっと、オレも諦めきれずに何度だって想いを打ち明けていたはずだ…。


 ヘンリックはある種の同志のような気持ちをリンネアへ抱いていた。だからといって、リンネアとの間に恋心が芽生えることはなかったが…。


 そして、一年後…。

 

 リンネアは一つ下の王弟の嫡男ヴァイヌと愛を紡ぐ。

「ヴァイヌ様、大好きです。ずっと、貴方と一緒にいたい…」

「私もリンネアといることで満たされる…」

 どことなく儚さを感じる淡い金色の髪、長身のものの華奢な身体つきは中性的な雰囲気があり、繊細な輪郭の横顔へ浮かぶ涼しげな蒼色の眼差しは奥に濃い黄金色が宿っている。人々の感嘆を集めるほど、ヴァイヌは美青年だ。

 ヴァイヌはアカデミー卒業後に神殿へ仕えることが決まっている。そうなれば、婚姻は許されず、神へ身も心も尽くさねばならない。

 ヴァイヌは王位継承へ興味がない姿勢を第一王子へ見せるべく、神殿へ奉仕する道を選んだのだ。

 ヴァイヌは第一王子、第二王子、王弟に継ぐ王位継承第四位だ。第一王子は粗暴が目立ち、第二王子は病弱だ。王弟は病を患っていた。

 王は第一王子へ王位を譲ることに難色を示しており、王太子は定まっていない。

 それでも、第一王子は自分が王太子になると自負しており、邪魔者を排除することに迷いはない。第二王子は度々命を狙われている。

「私の人生はままならない…。学生でいるときだけで構わない…。私も人を愛したいのだ…」

 ヴァイヌは愛らしいリンネアへ初めての恋をした。溺れるような危うい恋を…。

 あれほど熱心に告白してきたリンネアの心変わりへヘンリックは呆れたものの、自分からヴァイヌへ恋心が移ったことに非難することはなかった。寧ろ、自分への関心がなくなったことにヘンリックは安心したほどだ…。


 自身に当てはまらないが、人の心が移ろいやすいことはよく知っている。


 だがしかし…。リンネアとヴァイヌの間へ新しい生命が宿るとは、ヘンリックの考えも及ぶことがなかった…。

誤字報告ありがとうございました。

修正いたしました。

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