第3話
「あら、これって……」
「PMですね」
建物の入り口近くには、大きなデジタルアート。令和の武蔵野の『新しい芸術』のつもりだろうか。
面白いとは思うけれど、感動は覚えなかった。古き良き武蔵野に対する期待感が強くて、デジタルというだけで「何か違う」と思ってしまう。
おそらく僕だけでなく、それはユカさんも同じだろう。
昔の特撮ヒーローと仏教を混ぜたような金色像。
中華街を思わせる雰囲気の赤い門。
妖怪のイラストが左右に続く回廊。
地方の神様を表現した藁人形。
「わあっ、すごい!」
「ええ、全くです」
話には聞いていたが実際に目にするのは初めてのものばかり。僕たちは何度も立ち止まり、感嘆の声を上げていた。
大勢の見物客がいる中、ここまで大袈裟に騒いでいるのは僕たち二人だけ。少し周りの視線が気になるけれど、仕方ないだろう。
僕とユカさんは、武蔵野ミュージアム見学ツアー2021の真っ最中。他の来訪者たちとは感激の度合いが異なるのも当然だった。
武蔵野ミュージアムには、マンガラノベ図書館というものも併設されている。
吹き抜け構造の大きな空間で、壁一面に並べられた無数の書物。まさにラノベや漫画でしか見たことがない世界であり、
「……!」
僕もユカさんも絶句して、思わず顔を見合わせるほどだった。
手を繋いだ男女が無言で見つめ合う様は、傍から見れば、それこそカップルに見えたかもしれない。
気づいてしまえば恥ずかしくなり、僕は口を開いた。
「……凄いですね。壮観な眺めです」
「ええ、本当に」
ユカさんは僕から視線を逸らして、再び本たちに向けていた。
「いつも電子書籍で読んでいる小説も、元々は、こうした紙の本でしたのね……」
うっとりとした彼女の横顔は美しく、まるで性的な恍惚感を浮かべているようにも見えるくらいだった。
武蔵野ミュージアムという名称だが、武蔵野そのものに関する展示物は案外少なかった気がする。
もちろん皆無ではなく、武蔵野ギャラリーと称する区画も用意されていた。武蔵野の神話や、この辺りの森の古い姿などが描かれている。
だが期待していたほどではなく、あまり僕の印象には残らなかった。
むしろ、一面にススキが広がる秋色のイラストを前にして、ユカさんと交わした会話。
「ススキ野の武蔵野も、本物をこの目で見てみたかったですわ」
「ははは……。贅沢言っちゃいけません」
そちらの方が、心に深く刻まれたくらいだ。




