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満月の夜に
綾香、満月の日は、絶対に早く帰ってくるのよ。
母は何度もそう言っていた。
「どうして?」
とそう問いかければ、
「怖い人が綾香を連れて行ってしまうから。」
「怖い人?」
そう言って自分で思う1番怖い顔をしてみせる。
母は困り顔で、怖い顔をしてない怖い人。
とっても、綺麗な怖い人。
そう言って、もうすぐ満月になる月を見上げる。
私は母が大好きだった。
だから、いっぱい聞きたいことはあったのに、母が困るのがわかっているから、それ以上聞けなかった。
「どうして?」
そう、聞くべきだった。
そうすれば、あいつに捕まる事なんてなかったかもしれないのだ。