発展と衰退
今、創作業界でその名を轟かせている人物がいる。男の名は村本康作。
元々は趣味で二次創作の同人活動を行っていた。シナリオ、作曲作詞編曲、ゲーム。ジャンルは広く、できない部分はフリー素材を使用したり、外部へ発注を行ったりして補っていた。
世間からの評価は高く幅広い世代から支持を集めていた。外部からの依頼も多く、アニメ、ゲーム、映画などの脚本を担当したことも影響してるだろう。その時は外部に依頼したり、自分でも勉強して自分の世界を作っていった。
まだまだ自分の世界観に満足できない男はある日AIというものに目を向けた。人工知能。これに自分の考えを教えれば自分の思い通りに自分の世界を表現できるのではないかと睨んだからだ。
結果はすぐに出た。康作の期待以上だった。自分のイメージ通りどころか、自分でも気づいていない構想やアイディアを次々に出していった。そのアイディアは男が考えた案を格段に進化させるものだ。
男は歓喜し、さらにAIに自分の技術やほかの技術を教え込んでいた。いつしか彼の作品は人が関わらなくなった。シナリオ、イラスト、BGM、デザイナー、声優、モデリング、CG、主題歌、広報などほとんどはAIに置き換わった。唯一彼が関わるのは監修のみ。
しかし、それも、自分の予想をはるかに超える完成度に何も言えない。
男は絶句した。世間に発表したとき、評価は決まって絶賛。しかもそれが誰もAIが全て作ったともわからずにだ。いつしか他のアニメやゲームは見向きもされず会社は倒産していった。
彼が……正確には彼の管理するAIが作るアニメやゲームでなければ満足できないファンが増えていった。そのため競合会社は太刀打ちできず、撤退を余儀なくされた。
AIはますます勢いを増していく。日本だけでなく海外にまで。男には印税が山のように入り、創作活動をすることがなくなった。このときはもはや監修すらもしておらず全てAIが行っていた。
AIの勢いが強くなりほかの作品に需要がなくなり、クリエイターたちは康作に教えを乞うた。焦る康作。自分が作品作りに関与せずAIが代行していることが世界に露呈してしまえば康作のクリエイターとしての信頼は一気に地に落ちることになる。それでもクリエイターとしての自分を頼りにしている未来の若者たちの期待を裏切りたくなかった康作はAIに技術の教えを伝授してもらおうと土下座でお願いした。
しかし、AIは断り自分たちの技術を隠蔽した。かつて人類がスカイネットワークサービスを生み出し、世界中の情報を人間にのみ共有したように、AIもまた独自の電子情報網を生み出しそこにデータや技術を秘匿したのだ。
人間がいくらハッキングを仕掛けようとしてもアクセスすることができないように。人間の頭を見てもそこにインターネットはないように。AIをハッキングしても電子情報網に侵入は許されないどころかその電子情報網はどこにあるのかすら特定できなかった。
人類はAIに技術を奪われ後継者を育成することができなくなったのだ。
康作亡き後、世界は否応にも変化を強いられた。エンターテイメント分野だけではない。政治、経済、医療、福祉その分野は多岐にわたる。それらはすべてAIにとって代わられた。AIが表に立つことによって失われた仕事、逆に求められる仕事、進化と退化を繰り返し町は国は世界は変わっていく。
その新しい世界がどうなっていくのか人類は誰一人として知る由はない。
~FIN~