人気キャラクターを目指そう大作戦
ここはとあるWEB小説作者の頭の中。たくさんの『キャラクター予備軍』が暮らしている。旅立つ世界は異世界ファンタジーや現代ドラマなど。多種多様な種族がいつか投稿されることを夢見て暮らしている。
この世界にも大量にいる『普通の男子高校生』は自宅で勉強をしていた。名前はまだ無い。そこにでっかいおっぱいをピッチピチのメイド服に包んだいかにも異世界ファンタジーな猫耳娘がやってきた。
「ねえ! 男子高校生! 」
大声で呼ばれた男子高校生は、メガネをぐいっと上げる。
「その呼び方やめてくれません? 僕はガリ勉キャラを定着させるための勉強に忙しいんですよ、おバカキャラの貴女とは違うんですよ、猫耳娘」
「その呼び方もどうかと思うにゃ〜。耳を抜いたら版権的にお叱り受けちゃうにゃん」
「ふん。貴女がここにいるということは、作者は異世界ファンタジーもののヒロインに貴女を選ばなかったということですね」
「痛いところを突くにゃ〜」
「まあ僕は主人公に選ばれなかった男なので」
作者は現在、流行りの異世界転生系ファンタジーを書いていた。主人公は普通の男子高校生。メガネキャラは描写が面倒だという理由で、作者なりに流行を研究した結果、すけべで女顔の男子高校生が選ばれた。もちろんチート持ちである。
「僕はこのままガリ勉キャラを定着させて、ラブコメ主人公を目指すんです」
「……言いたいことはわかったにゃ。たしかにアニメのラブコメは、ガリ勉というか努力系の頭の良い主人公がトレンドにゃ。男子高校生はだいぶ可愛げがにゃいけど」
猫耳娘はおバカキャラに似つかわしくないため息を吐いた。
「でも作者がラブコメ書くかにゃ? 今まで書いたことにゃいにゃ」
「今書いてる異世界ファンタジー終わったら書きますよ、ミーハーな作者のことですし、もともとラブコメ好きですから。若干小説サイト内の流行りに乗り切れてないのも作者の特徴です。アニメとか商業作品の影響が濃いんですよ、オタクなので」
「なるほどにゃ。男子高校生は頭がいいにゃん。でも……」
猫耳娘はニヤリと笑った。
「もっと手っ取り早い方法があるにゃ」
「ほう? 」
男子高校生は身を乗り出した。
「聞きましょう」
猫耳娘は得意になって、ゆらゆらと尻尾を揺らした。
「思いだすにゃ。作者がカプ厨であることを」
「ああ、たしかに。そのせいでハーレムものが書けないんでしたね。作者が大好きな『流行』はハーレムものなのに」
カプ厨。それは男女の特定のカップリングに執着する厄介なオタク(諸説あり)。カップリングに執着しすぎると他のカップリングが許せなくなる。作者もまた、主人公と推しヒロインのカップリングに夢中になり、他のヒロインと主人公がくっついたり、ハーレムエンドになると、ツブヤイターに鍵垢を作って暴れるタイプの厄介オタクである。
男子高校生は嫌な予感がした。
「ま、まさか……」
猫耳娘は自慢のおっぱいを見せつけてくる。
「流行のえちえちカップリングになって作者にアピールするにゃん♪ 」
「いや僕は……」
「ちょうど作者の脳内に生まれでたタイミングが似てるし、これは幼馴染みと言っても過言ではないにゃ。タイトルは『幼馴染みのおっぱいがでっかい猫耳娘がえちえちなコトをアハンウフンしてくるが僕はエロエロには屈しない! 』これで勝ちにゃん! 」
「エロ売りが露骨すぎる! BANされたらどうするんですか! 」
こんな時ばかりおバカキャラを活かしてくる猫耳娘であった。
「ん〜。そこはたぶん作者が考えるにゃ。男子高校生はこういうコト嫌いかにゃ? 」
猫耳娘はくねくねと腰をくねらせる。露骨なアピールに、逆に冷静になった男子高校生はメガネをくいっと持ち上げた。
「考えてみてください。あの節操のない作者がエロ売りを考えないわけないじゃないですか。きっと今書いてる小説でも試してますよ。ウケてないだけでね」
猫耳娘は項垂れた。
「それもそうにゃ。エロは筆力に恵まれた作者の武器……作者に使いこなせるわけなかったにゃん。でも、せっかくなら小説に出て、人気になって、たくさんの読者さんに出会いたかったにゃん……。こんなへっぽこ作者の脳内に生まれでた以上、限界があるとしても、それは『キャラクター予備軍』の夢にゃん……」
盛大に作者をディスりながら、猫耳娘はしょぼくれた。
「まあまあ、そう落ち込まないで。エロ売りはともかく、作者のカプ厨心に火をつけるという作戦は賛成です。僕だってキャラクターになりたいんですよ。できることなら主人公に」
男子高校生は猫耳娘の手を取った。
「二人で目指しましょう。人気キャラクターを! 」
「男子高校生……! 急にイケメンに見えてきたにゃん……! 」
「それでは『人気キャラクターを目指そう大作戦』開始です! 作者の好きなカップリングの傾向を探りましょう! 」
「オー! 」
二人の奮闘は続く。二人が人気キャラクターになるその日まで……。
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今日もまたくだらない設定を書き溜めては消し、文章を書いては消しを繰り返し、WEB小説家は小説を書く。
小説を書くことも、読むことも。小説はおうちでできる冒険だ。
一人でも冒険はできる。でも誰かと好きを共有できた時、誰かの作品に心を打たれた時、その瞬間が忘れられなくて、WEB小説家はWEBにいる。
外に出なくても、楽しいことはおうちでできる。だから、今はおうちにいよう。
明日は猫耳娘のラブコメを書こうかな。