04:最強無双の落ちこぼれの刃
なんだか綺麗なお姉さんを助けてしまった。
テルヤさんは一目見て綺麗な人だなって思ってしまうような人だ。夜を濡らしたような黒髪に古月のような金色の瞳。肌だって白くて綺麗で、同性なのにドキドキしてしまいそうだ。
それに見た目だけじゃなくて心も綺麗な人だって思う。割と人嫌いの自覚がある私が、素直にこの人を助けてもいいかなって思ったぐらいには。
そんなお姉さんと一緒に付いて来た人たちは疲労困憊だけど、私を怪しんだり警戒するような目で見ている。きっとお姉さんが大事だから得体の知れない私が気になるんだろう。居心地はちょっと悪いので、正直このまま去りたい気持ちはある。
だからといってこのまま去るのもなぁ。この一帯の主は倒しても晶魔はいる訳だし。ここで帰ったら中途半端な気がして、それはそれですっきりしないので周囲の視線は我慢することにする。
「あの、イスタさん。わざわざ怪我の手当まで手伝って貰ってありがとうございます」
「別に良いよ、ここで見捨てたら中途半端だし。はい、終わりだよ」
「……すまない、ありがとう」
どこか血の気が引いてしまっているお兄さん、アルダインって名前を名乗ってたかな? その人がお礼を言ってくれた。
結構傷も深かったし、死にはしないだろうけど暫く安静にさせた方がいいかな。となると、この人たちを森の外に連れて行くのはちょっと無理かもしれない。
「うーん、テルヤさんだったよね? ここだと応急処置しか出来ないし、安静に出来るかって言われるとそうじゃないから私が寝床にしてる拠点に案内しようか?」
「ね、寝床……? 待ってください、イスタさん。それでは貴方はこの森で生活をしているということですか?」
「うん、一年ぐらい前から住み着いてたよ?」
「は? 一年……?」
信じられない、といった表情を浮かべてテルヤさんが私を驚愕の目で見てくる。
いや、常識で考えたらそうだよね。誰も好き好んで晶魔がうろついて魔法の効果が減退する森なんかに住みたがる筈がないし。
「……イスタと言ったか、君は」
すると厳ついお爺さんが私に声をかけてきた。その目には不審な色がありありと出ているのがわかる。
「君は何者だ?」
「何者と言われても、えーと、晶魔を理由があって狩ってるだけの人だよ」
「……晶魔を狩る、か。あのように武器で首を落としてか? 君のその武器はなんだ? 魔法もなしに一体どうやって……」
「一応、マナは使ってるよ?」
マナはこの世界の力や生命の源だと言われていて、世界に存在する者は皆、マナを持ってる。
星の神に与えられた力だとは言われているけれど、これを消費することで人は魔法を使うことが出来るのが一般的だ。
「私のこの刀は皆さんの持ってる杖と同じだよ。自分のマナを扱うための媒体」
「素材は一体なんだね? 見た所、鉱石にも思えるが、それにしても晶魔をあのように簡単に引き裂くなど出来るとは思えないのだが」
「うーん、説明が難しい。師匠ならもっとうまく言えるんだろうけど、私の力って魔法とは言えないのかな。マナは使ってるけど」
「……魔法じゃない? では、一体……?」
「ちょっと勢い良く動けるようになって、ちょっと晶魔でも簡単に切り落とせるようになるだけだよ」
「……あれで、ちょっと? クリスタル級を一撃で沈めて……?」
テルヤさんが信じられない、と言ったような顔で私を見つめてくる。それよりももっと厳しい顔で私を見つめているお爺さんは、少し間を開けてから聞いてきた。
「……もしや、素材は〝石屑〟か?」
「え? よくわかったね?」
「君の力が魔法と言えない、と言われれば思い浮かべるのは〝石屑〟だろう」
人が魔法を使うためには自分と親和性のある素材で杖を作らないといけない。
別に杖の形に拘る必要はないんだけど、大事なのは自分と相性の良い素材を使わなきゃいけない点だ。それは人によってそれぞれ違う。
そんな中で唯一、魔法という奇跡が起こせない素材があった。それが〝石屑〟だ。
石屑は無能者の象徴であり、それが判明した次点で捨てる親だっている。……私の親みたいに。
「石屑について研究している知り合いから聞いたことがある。石屑は奇跡を起こせないのではなく、その奇跡の効果がわからないだけではないかと。だから何か秘められた謎があると思って研究を進めているそうなのだが……」
「へぇ、そんな変わった人もいるんだ」
「君は石屑の力を活用する術を見つけたと?」
「見つけたのは私じゃなくて、私の師匠だよ。石屑は魔法を使えないけれど、代わりに武器として扱うなら晶魔の魔法減退の効果を受けないんだって。あぁやって飛び跳ねたり、武器として使うしか出来ないけど」
「なんと……」
お爺さんが驚愕したように目を見開いた。武器なんて前時代のものだと言う人は多いもんね。
マナの発見から、それを魔法として活用出来るようになった人類は武器を過去のものとしつつあった。
そしてもう少し時代が進むと新月が浮かぶようになり、晶魔が出現するようになった。
石の突起物を表皮や内部に形成する晶魔にただでさえ廃れ気味だった武器の効果は薄く、誰もが魔法を発展させることで対抗した。
それに対抗するように晶魔も魔法を減退させるような特性を得るようになって今に至る。
そんな中で一切、魔法減退の効果も受けず、前時代の武器で晶魔と戦える私は異質な存在だろうな、って思う。
「それで、どうしてイスタさんは晶魔を狩っているんですか?」
「それはこの武器が晶魔の結晶から作られてる武器だから。石屑と晶魔の結晶を砕いて鉄と練り合わせて出来たものなの。だからその素材集めのために晶魔の結晶を拝借してたんだ」
「晶魔の結晶だと……?」
お爺さんが信じがたい、と言う目で私の刀を見つめた。テルヤさんもまじまじと私の刀へと視線を向けている。
「石屑って晶魔の結晶に近い成分なんじゃないかって、だから魔法が使えないし、使える力も……こう、なんていうか、反発力? みたいな形でしか使えないんだって師匠が言ってた。だから詳しい話は師匠に聞いて欲しいかな? 教えてくれればだけど」
「その師匠もこの森に?」
「いや、師匠は別の場所。私はあの巨大晶魔の結晶をかすめ取って師匠に届けてただけだし。あの巨大晶魔から良い結晶が取れるから、こう、結晶が育つ度にえいって切って、それを師匠の所に運んでたの」
「……まさか、この森がクリスタル級の晶魔がいても侵蝕が進んでなかったのって」
「あー……それって私のせいだね?」
晶魔による土地の侵蝕は、晶魔が己の結晶を育てた余波の副産物でもある。
それを私が横からかすめ取っていたせいで晶魔自身はクリスタル級になる程に育っていても、土地への影響は進んでいなかったということだ。
「もしかして、それでお姉さんたちは自分で討伐出来ると思って来ちゃったの? それは申し訳ないことをしちゃったな」
「いえ……もしクリスタル級だと知っていても、ここに来なければならなかったでしょう。この土地の浄化が私の役目でしたので」
「そうなの? そっか。じゃあ、師匠に言って狩り場を変えないと。なんにせよ、お姉さんたちが死ななくて良かったよ」
そう言うとテルヤさんが何か言いたげな表情を浮かべたけれど、何か言うことはなかった。その変な仕草がちょっと気になったけれど、まずはとにかく負傷者を安全な場所まで運ばないと。
そうして動ける人に負傷者を抱えてもらって、私は自分が使っている拠点に彼等を導くのだった。