25:夜はまだ明けない
2021/2/25 更新(1/2)
「――うるさい、うるさい! 黙れよ! そんな風に宣えるのが自惚れてる証拠だ! 何も現実が見えてない愚か者の言葉だ! 何が血だ、何が誇りだ! そんなものが今この状況を招いた全てだろう! 全て塵芥だ! ゴミは何を言ってもゴミ、何をしてもゴミ! 間違ってるこの世界を僕が正してやらなきゃいけないんだよ! 頭を垂れろ? それはこっちの台詞なんだよォ!」
グサヴィエが唾を吐き散らしながら叫ぶ。そんなグサヴィエの様子も彼の周りにいる兵士は何も反応しない。ただ虚ろにグサヴィエの号令を待つだけだ。
そこには何もない。まるでただの虚飾のようだ。それが彼自身が招いた末路、彼が選んだ道によって生み出された光景だ。
テルヤはそんなグサヴィエを哀れむように目を細めた後、意を決して杖を構え直す。
「ならば、命を賭してでも貴方の野望を食い止めさせて頂きます。この国は貴方の言うゴミでもなければ、貴方が好き勝手に弄んで良い玩具でもありません!」
「やって見せろ! こいつ等はお前たちの言う通り僕に操られてるだけの操り人形だ! そんな可哀想な兵士をお前たちは殺すのか!?」
グサヴィエが再び嘲笑を浮かべながらテルヤへと言い放つ。その言葉にテルヤは眉を顰め、隣に立っているクロヴィス王子も苦悶の表情を浮かべる。
そして――私はオーギュスト王子を蹴り飛ばして壁際へと押しやってから、そのままグサヴィエへと一直線に走り出す。
「なっ!? お、おい、聞いてなかったのか! お前! こいつ等は操られてるだけで――」
「――知るか、操られる方が悪い」
国を守る兵士だと言うのなら、国を守るためなら操られてようが命をかけるべきだ。
そして、そんな彼等の命を理不尽に奪わないためにも最速で真っ先に潰すべきはグサヴィエだ。だから私は迷わない。
「ぼ、僕を守れ、お前たち!」
「邪魔ァ――ッ!!」
兵士が私の進路を塞ごうとするけれど、私は壁や天上を蹴って兵士を躱す。そのまま後ろへと下がろうとしたグサヴィエへと跳び蹴りを叩き込む。
「ぐへぁっ!?」
そのままグサヴィエの胸へと刀を突き刺そうとするも、反転した兵士たちの魔法が飛んで来て飛び退るように回避する。
グサヴィエはその間にも起き上がり、忌々しそうに私を睨み付けてからじりじりと後ろへと下がる。
「くっそ……! この野蛮な女め! 全部、お前のせいで狂ったんだ! お前がテルヤと出会わなければ! お前がテルヤなんぞに力を貸さなければ!」
「幸運と不運なんてそういうものでしょ。誰かの幸せは誰かの不幸で出来てる。私たちの幸運はお前の不幸だった。ただそれだけよ」
「だったら不運に見舞われたらずっと不運に呪われ続けるしかないのかよ! たかが数年生まれたのが遅かっただけで! 兄より目立つ才能がなかっただけで! ただのスペアとして扱われて、比べられ続ける不幸に! 僕は永遠と苛まれ続けなければならないのか! 巫山戯るな! だったらお前たちの取り分を奪ってやるしかないだろう!」
「――だからお前は私から奪われるんでしょうよ、私が得た幸運を奪おうとするから。奪われたくないなら向かってきなさいよ、他人の背に隠れるだけがお前の力なの?」
刀を構えて再びグサヴィエを狙おうとするも、また兵士が私へと魔法が放った。
それを迎撃しようとすると、そこに光の矢が無数に放たれて魔法が掻き消していく。
光の矢を放ったのはテルヤだ。次々と魔法を相殺していく中、テルヤに加勢するようにクロヴィス王子が炎の蛇を放って兵士たちの杖を狙って焼き尽くしていく。
「ふん、幾ら操ろうとも指揮官がその様ではな! 杖がなくなれば魔法は封じられる! テルヤ、杖を狙うぐらい貴様もやってみせろ!」
「わかりました!」
クロヴィス王子とテルヤが並んで魔法を連射していく。たった二人なのに兵士たちの迎撃が追いつかず、次々と脱落していく。
あまりにも圧倒的だった。意志を奪われ、操り人形で本来の力を発揮しきれていないのだとしても凄い。これが王族の力なのだとしたら、この二人は上に立つ責任に応えようと努力してきたのだな、と思ってしまう。
「くそ……! こうなったら……!」
数で勝ろうとも形勢は不利。まるでそう判断したかのようにグサヴィエが背を向けて勢い良く駆けていき、風を纏いながら窓から飛び降りていく。
「逃げるだと!?」
「イスタ、追ってください!」
クロヴィス王子が驚愕に叫び、テルヤが私の名を呼ぶ。その声を聞いて私は――反転して兵士たちへと襲いかかる。
懐に飛び込んで杖を切り飛ばし、刀の峰や手刀、はたまた蹴り飛ばすなどして兵士の意識を刈り取っていく。
次々と兵士が呻き声を上げながら倒れていく。そして最後の一人の意識を奪って、私は息を吐いた。
「イスタ! 何故、グサヴィエを追わなかったのですか!?」
兵士たちが行動不能になってすぐにテルヤが私に掴みかからんばかりの勢いで私に迫ってきた。私がテルヤの指示を無視したからだろう、その顔には何故と問いかけていた。
私はテルヤの問いに答えず、倒れている中で意識を保って苦しげに呻いているオーギュスト王子へと近づいた。
「オーギュスト王子、悪いわね。少し痛いかもしれないわよ」
「おい、貴様! 兄上に何を――」
オーギュスト王子を抑え付けるように踏んでから――私は刀をオーギュスト王子へと突き立てた。
狙ったのはオーギュスト王子の胸に埋め込まれた晶魔の石。軽い抵抗の後、刺した刀に魔力を込めていく。
「貴様ぁッ! やめろぉッ!
「うるさいな、気が散る。――砕けろ」
私が低く呟くと、オーギュスト王子の晶魔の石が刺した部分から亀裂が走るように罅が入っていく。
そして――鈍い音を立てて晶魔の石が砕けた。
石が埋まっていた部分が抉られたような痕になっているけれど、出血などはなさそうだった。
「……うっ……? 身体の、自由が……身体が自由に動く……?」
「兄上!」
先程まで苦悶に震えていたオーギュスト王子は疲労困憊といった様子だけど、先程まで苛まれていた気配が消えて身を起こそうとした。
すぐにそこにクロヴィス王子が駆け寄り、オーギュスト王子を支えた。クロヴィス王子の支えを受けてオーギュスト王子は壁に背を預けるようにしながら座った。
「……これは、晶魔の石が砕けて……? 一体何をしたんだ……?」
「単純にその石より強い力を込めて自壊させただけよ」
「……そんな事が出来るのか?」
「出来るわよ」
但し、出来るのは石屑と晶魔の石を素材とした道具を持っていることが前提だけど。
やってる事は晶魔の石を切り裂く力を内部から圧力を加えるように変えただけだ。戦闘中にやるとなると隙が大きくて使えないから、私は滅多にやらないけど。
この破砕方法に関しては私より師匠の方が上手だ。あの人は常日頃、この方法で晶魔の石を素材へと変えているのだから。
「……すまない。本来であれば謝罪もせねばならない所、多大なる恩を受けてしまったようだ」
「恩を感じてるなら、さっさと操られてない人を集めて指揮を取って。見た所、意識までは奪われなかったんでしょ? だったら操られてる人も少なからず顔がわかるんじゃないの?」
「あぁ、君の言う通りだ……」
「だったら晶魔の石に操られてる人はどんどん拘束して。それからテルヤが連れてきた侍女が私と同じ石屑持ちだから、同じ方法で晶魔の石を取り除けるわ。でも戦える訳じゃないから、必ず意識を奪ってから処置をさせて」
「……まさか、それを伝える為にグサヴィエを追わなかったのか?」
「必要以上にテルヤの手を汚させないためよ」
操られた奴をそのまま放置してたら拘束しておくか、最悪殺すしか出来ない。
でも石を砕いてしまえば洗脳が解けるなら、それに越したことはない。だから足を止めてそっちを優先した。
「テルヤだったら、絶対に見捨てたくないって言うと思ったから」
正直、被害者を減らすならグサヴィエを追うべきだったのかもしれない。だけどそのためにテルヤが手を汚さなきゃいけなくなるなら、私が優先すべきことはこっちだ。
テルヤは綺麗なままでいい。正直、私は邪魔をされるなら殺しても仕方ないと思ってしまう。そんな人でなしが罪を被る分には問題ないだろう。その点、テルヤの心と立場は私と代えることは出来ない。
障害を切り開くのは私の役割、人を導いて守るのはテルヤの役割だ。そして私はテルヤが役割を果たせるように動く。それが結果的に私の役割を果たすことに繋がるから。
「殺さないで済むならその方がいいでしょ?」
「……イスタ」
テルヤの方へと顔を向けて言うと、今にも泣きそうな表情を浮かべた。けれど必死に泣くまいと堪えるように目を閉じて、頭を下げた。
「……ありがとう」
「どういたしまして。でも、まだ終わってないからね。テルヤは王子たちを守ってリエルさん達と合流して。そっちは洗脳された人たちを解放して、私はグサヴィエを追う。それでいいわね?」
「はい、それでお願いします。どうかお気を付けて」
テルヤが滲んだ涙を拭ってから表情を引き締めて頷く。そんなテルヤに私は片手を掲げる。
私の掲げた手にテルヤが不思議そうにキョトンとする。私が軽く手を振って手を上げるように伝えると、おずおずと手が上がった。
その手を軽く打ち合わせるように叩いて、私はテルヤに言ってやる。
「さぁ、務めを果たしに行こう」
「――はいっ!」
そして私たちはそれぞれ動き出す。グサヴィエが飛び出した窓から私も追いかけるように飛び出す。
夜空には二つの月が浮かんでいる。今はただ、この夜を乗り越えるために力を尽くす時だ。
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