22:暴かれたもの
2021/2/23 更新(1/2)
「お、お待ちくださいクロヴィス殿下! 貴方は今、謹慎を命じられた身でございます! 部屋にお戻りください!」
「そうも言ってられぬ話が舞い込んできたのだ。通らせてもらうぞ!」
交渉を経てクロヴィス王子を引き入れた私たちはそのままオーギュスト王子の下へと向かっていた。
その道中、先頭を切って進むクロヴィス王子を止めようと兵たちが諫めようとするもクロヴィス王子は力強く振り切ってずんずんと進んで行く。
クロヴィス王子の私室から離れた場所にオーギュスト王子の私室がある。私室の前では警備と思わしき兵が立ち塞がっており、私たちの行く手を阻んだ。
先程までの兵とは少し雰囲気が違う。ただ淡々とした目で私たちを見据えながら彼等は言った。
「クロヴィス殿下、貴方は謹慎中の身の筈です。どうしてオーギュスト殿下の私室に? それにテルヤ殿下まで。如何なるご了見でございましょうか?」
「兄上に話がある。そこを退いて貰おう」
「部屋にお戻りください、クロヴィス殿下。貴方は謹慎中の身でございます」
「俺の言葉が聞けぬというのか?」
「部屋にお戻りを……さもなくば」
警備の兵たちは腰に下げていた杖へと手を伸ばす。それにクロヴィス王子が少しだけ目を見開かせるも、剣呑な雰囲気を出して自らも杖に手を伸ばそうとする。
そんなクロヴィス王子の前に進み出たのはテルヤだった。クロヴィス王子が杖を握ろうとした手に自分の手を重ねて諫め、兵たちを静かに見据える。
「さもなくば、どうするというのでしょうか? クロヴィス兄上を連れ出したのは私の一存です。私は謹慎を命じられておらず、ただ兄を尋ねて来ただけです」
「……既にオーギュスト殿下はお休みになられております。また、謹慎を命じられたクロヴィス殿下を連れてのご訪問の意図を図りかねます」
「事は国家の一大事にもなりかねません。次期国王と目されたオーギュスト兄上にどうしても問わなければならぬことがあります。この場で起きたことの全ての責任は私の身で贖いましょう。通して頂けますね?」
テルヤが静かに、けれど確かに威圧しながら兵へと問いかける。それでも兵たちの顔に動揺は見られない。まるで感情が一切動いていないみたいだ。
暫し沈黙が流れる。その状況を動かしたのは扉を開きながら顔を見せたオーギュスト王子だった。
「……話は聞かせて貰った。そこまで言うのであれば話を聞かない訳にもいかないだろう」
「オーギュスト兄上」
「それで何があった? 国家の一大事と口にしていたようだが……」
「オーギュスト兄上、単刀直入に聞きます。私の食事に晶魔の肉を供せよと命じたのは貴方の仕業なのですか?」
テルヤは臆することなく真っ直ぐオーギュスト王子に問いかけた。しかし、オーギュスト王子は訝しがる訳でもなく、ただ淡々としたままテルヤを見返した。
「……一体何のことだろうか? まさか、たかが晶魔の肉を振る舞われたことで国家の一大事に繋がると世迷い言を言いに来た訳ではあるまい」
「えぇ、普通の晶魔の肉を出されただけでは私もここまで危機感を募らせることはなかったでしょう。――その肉がクリスタル級の晶魔の肉でなければ」
そこで始めてオーギュスト王子の眉が僅かに動いた。その変化をテルヤも見逃してはいなかったのだろう。問い詰めるために一歩、足を前に踏み出して睨むようにオーギュスト王子を見据えた。
「何故、王城での食事に晶魔の肉が供されたのか? それもクリスタル級の晶魔の肉が、です。クロヴィス兄上にも確認しましたが、食用も可能なクリスタル級の晶魔の肉など一体どのように仕入れたと言うのでしょうか? あまりにも不可解の一言に尽きます」
「言いがかりというものではないだろうか? それが本当にクリスタル級の晶魔の肉だと言う証拠はあるのか?」
「実際にクリスタル級の晶魔を討伐出来て、その肉を食べたことがある私の証言だよ。逆に私以外だったら私の師匠ぐらいしかクリスタル級の晶魔の肉を食べたことがある人はいない筈だ。それに王都だったら魔法の力を弱めるっていう迷信から晶魔の肉は食べないんでしょう? 貴方こそ晶魔の肉の区別なんてつけられないんじゃないの?」
疑いの言葉を発したオーギュスト王子に今度は私が口を開く。そこで初めて私に興味を向けたというように視線を向けたオーギュスト王子だけども、すぐに溜息を吐いた。
「口だけではどうとも言える。このような下らない疑惑を立てるために私の元を訪れたのか?」
「下らない疑惑ですか? どこがどう下らないのですか?」
「ただお前たちは勘違いしているのではないか? 王都で晶魔の肉が供される筈もあるまい。テルヤ、お前の客人が言ったように晶魔の肉の食するなど王都の住人であれば避けて当然だろう」
「私たちが勘違いしたという根拠は以上ですか? であれば、料理人や仕入れ先、備蓄した肉から全て調査しても構いませんよね?」
「何故そこまでする必要がある。それとも、お前たちには何か目論見があって押し通そうとしているのではないだろうな?」
「オーギュスト兄上こそ、何か後ろめたいことがあるのではないですか?」
テルヤが瞳に意志の光を揺らめかせて、オーギュスト王子はただ淡々と視線を交わし合う。どちらも譲ろうとする気配は見せず、空気だけが張り詰めていく。
敢えて私はその空気を無視するようにオーギュスト王子へと声をかけた。
「ねぇ、オーギュスト王子」
「……何だろうか?」
「貴方ってさ、なんで反応が違うの?」
「……何?」
突然の私の問いかけにオーギュスト王子が私へと視線を向ける。その何も感情が浮かんでない瞳を見つめながら私は問いかけた。
「なんかさ、貴方ってすごくちぐはぐなんだよね。前評判と今の印象と、やってる事と言ってる事、全部がバラバラ。あぁ、根拠はないよ? ただ勘でしかないからね」
「……何が言いたい?」
「じゃあ聞いてもいい? ――貴方、誰に操られてるの?」
……しん、と場が静まり返った。
クロヴィス王子は何を言っているんだ、と言うような目で睨んでくるし、テルヤも不安げに私を見つめている。
オーギュスト王子は何も変化を見せてない。感情を浮かばせない瞳で私を捉えたままだ。
「……操られる? 一体何のことだ?」
「ずっと考えてたんだ。なんで晶魔の肉を、しかもクリスタル級の肉なんてわざわざ食べさせなきゃいけないのか。それは誰のメリットになるのか。色々と見て聞いてきたこと、それから考えた。以前の貴方はとても優しかったって。そして実際、私に殺されようとしたクロヴィス王子を庇ったから、そういう人なんだなって思う。でも、貴方は今、テルヤの邪魔をしてるし、晶魔の肉なんて供されてないって頭から否定してる。行動と考えが一致してないよね?」
「……私の何を知っていると言うのだね? 君は」
「知ってるよ、貴方は家族の命に危機でも迫らないと感情も出せない人だ。それは自分を律してるからなの? それとも――何かされたんじゃないの?」
「――不敬であるぞ、首を跳ねられたいのか?」
「――跳ねられると思ってんの?」
――オーギュスト王子が杖を抜いた。そして〝ほぼ同時に〟警備の兵も杖を抜いて私に杖を向けようとする。
傍にいた警備の杖を私は抜刀と同時に斬り飛ばし、そのままオーギュスト王子へと斬りかかった。繰り出されていた水の刃を紙一重で回避して、私の振るった刀がオーギュスト王子の衣服を掠めた。
「――ッ!」
はらりとオーギュスト王子の服が開けて露出する。オーギュスト王子が慌てたように服を手で引き寄せるようにして肌を隠す。
けれど、それは無駄な抵抗に終わる。オーギュスト王子の覗かせた肌を見て悲鳴じみた声を上げたのはテルヤだった。
「――嘘……!」
「……兄、上?」
テルヤに遅れて信じられないと言わんばかりに声を漏らしたのはクロヴィス王子だ。
オーギュスト王子の露出した肌、そこには――宝石のような結晶がまだらに埋め込まれていた。
「……もしかしたら、なんて思ってたけどさぁ。動物が晶魔に侵蝕されるんだ。――〝人間が晶魔に侵蝕されても〟おかしくなかったよね」
――そう、オーギュスト王子の肉体に埋め込まれた結晶は、紛れもなく晶魔の結晶であった。
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