20:正面突破
クロヴィス王子と接触するとテルヤに提案すると、そこからテルヤの行動は早かった。
「堂々と正面から面会を申し込みましょう。止められる可能性はありますが、そこは王女としての強権とイスタの力で押し通ります。食事に毒にも等しい晶魔の肉を仕込まれて我を忘れた、という体にすれば多少の無理は出来るでしょう」
「それでも妨害された場合は?」
「それだけ私たちとクロヴィス兄上と接触させたくない〝誰か〟がいるのがわかります。それがクロヴィス兄上本人なのか、それともまた別の人なのか……それはわかりませんが、いると知ることが大事だと思います」
そして私たちは王城へと乗り込み、クロヴィス王子の部屋へと向かって進んで行く。
私たちが武器に出来るとすればテルヤには隠し立てすることが何もないこと、そして武力においてクロヴィス王子すら退けることが出来る私がいることが強みだ。
だからこそ、逆に堂々と罪を明らかにしようとする姿勢を見せるべきだと言われた。辺境でならともかく、王都で晶魔の肉を仕入れて王族に供しようなんて大問題だ。誰が仕組んだとしても公表すれば波紋を起こすことになる。
私たちの目的は起きるだろう混乱に乗じて敵が誰なのかを見定めることだ。このまま受身で待っているだけでは私たちに取れる手段は限られている。
違法な手段に手を染めているのは間違いなく仕掛けている側なのだから、それを糾弾して罪の所在を求める権利はこちら側にある訳だ。
テルヤはそれで誰が仕掛けてるのか絞れると言っていた。法的には被害者としては正当な訴えとして起こせる。
それを法ごと覆せるとしたら王族しかいない。或いは、誰かがトカゲの尾切りをされるだろうから、最悪それを拾うしかない、と。
今の私たちの利点は身軽さだ。なら、動ける内に動いてしまった方が良い。
「テ、テルヤ王女? こちらはクロヴィス王子の私室でございますが、何用ですか?」
「クロヴィス兄上に話があって参りました。道を空けて頂けますか?」
「クロヴィス王子は現在、謹慎中ですので……」
「話があって来た、と。そう言いましたが……? おかしいですね、聞こえなかったのでしょうか? どう思います、イスタ?」
「話が通じないなら……こうかな?」
やけに冷酷な演技をしているテルヤから話を振られたので、首を手で叩いてみせる。
すると道を塞いでいた兵士が途端に顔を真っ青にさせた。私が開いた片手で刀に手を添えているのも見ちゃったからかな。
そんな兵士の方に手を置いて、テルヤは妖しく微笑みながら囁く。
「通して頂けますね? えぇ、貴方は口を閉ざしているだけでいいのです。脅されたと言っても良いですよ? 今は少々、怒りで我に忘れているので。どうかそのように、ね?」
兵士は何も言えずに何度も頷き、私とテルヤから視線を逸らした。テルヤに無言で促されながら、私たちはクロヴィス王子の私室へと入った。
ノックもそこそこに、相手からの反応がある前にテルヤは勢い良く扉を開けて中へと入る。すると椅子に腰掛けていたクロヴィス王子が立ち上がろうとした姿勢で固まっているのが見えた。
私は手早く扉を閉めて、扉の鍵を閉めた。私が鍵を閉めた音でようやくクロヴィス王子が意識を取り戻し、私たちを睨み付けた。
「テルヤ……貴様、ここに何の用だ?」
「それはこちらの台詞です、クロヴィス兄上。よくもやってくれましたね、最早私の我慢も限界と言うものです。王族にあるまじき汚い手段に手を染めようとは、失望致しました」
兵士に対峙した時も思ったけど、テルヤの演技は辛辣だな。反応を見極めるためにある程度、態度を装うとは聞いてたけど威圧感がある。
そんなテルヤの演技に気圧されたようにクロヴィス王子が一歩足を引くけど、すぐに烈火のごとき怒りを目に宿して睨み返してきた。
「王族にあるまじき、だと? 言いがかりも甚だしいぞ! 俺がいつ王族として失望されるような真似をしたと言うのか!」
「力で直接叶わぬからと陰謀を描き、姑息な真似をしたのはそちらでしょうが」
「だから、何の話だと言っているのだ!? 言いがかりも大概にしろ!! それに俺は負けなど認めていない! ……侮っていたことは認めるがな!」
最後はかなり悔しそうに歯を噛みしめるようにクロヴィス王子は言った。
その言葉を聞いてテルヤが私へと視線を向けてくる。無言の確認に私は頷いて見せた。 ――やっぱり、この人は〝白〟だ。
「……では、クロヴィス兄上は私たちの食事に晶魔の肉を盛るような真似はしていないと、そう確信しても良いのですね?」
「……何?」
突然、声を潜めて先程までの怒りが嘘だったかのように問いかけるテルヤにクロヴィス王子が眉を潜めた。
それから周囲を警戒するように視線を回してから、苛ついたように舌打ちを零した。
「……まさか、貴様。えぇい、大胆不敵にも程があるぞ」
「耳があろうとも正当性はこちらにあります。王都で晶魔の肉を、それも王族の食事に供するなど許される筈もないでしょう? どの道、私には後ろ盾はありませんが隠すこともありません。正面突破しかないなら意を決して飛び込むしかないと思いませんか?」
「こちらは火だるまのままで駆け込まれたようなものだ、クソッ!」
掻きむしる勢いで頭を掻いたクロヴィス王子は舌打ちを零す。それから何度か大きく深呼吸をして、落ち着きを取り戻してから私たちと向き直った。
「宣言しておく。俺はそのような愚劣な真似に手を出した覚えはない」
「信じます。クロヴィス兄上、貴方は味方ではありませんが、敵の敵として見ることが出来ます」
「ふん、敵の敵か。間違ってはいないな」
「私たちは情報が欲しいのです。そしてクロヴィス兄上にも把握していて欲しい。敵は食事に供しても違和感がないクリスタル級の晶魔の肉を仕入れることが出来る相手なのですから」
そこでクロヴィス王子が目を見開かせた。そして何かを考え込むように口元に手を当てたかと思えば、厳しい表情を浮かべた。
「……馬鹿な。クリスタル級の晶魔の肉だと? 仮に長期保存の加工が可能だとして、それでもここ最近の討伐でなければ供することなど不可能だ」
「私も同じ意見です。だからこそ、敵の規模や裏が深すぎて見えないのです。なので敵の敵であるクロヴィス兄上と敵対するのは危険だと判断しました」
「いや、待て。そもそも何故、お前たちはクリスタル級の晶魔の肉だと判断出来たのだ?」
「私が食べたことがあるから。それで判別した」
私がテルヤの代わりに答えると、クロヴィス王子は驚きと嫌悪の表情で私を見た。信じられないものを食べている時のような反応だ。昔、蛇とか虫とか食べてた師匠を見た私と同じ反応だったので、その驚き具合は手に取るようにわかる。
「……癪だが、お前の力は本物だ。クリスタル級を単独で討伐出来るというのものな。そのお前が言うのだから信憑性は高い。本当にクリスタル級の晶魔の肉だったのだな?」
「間違いないよ」
「ならば、その肉はお前たちに供されるもっと前からこの王城で食されていた可能性が高い」
「……どういう事ですか?」
「わからんのか? 誰かが意図を持って、この王城で晶魔の肉を食わせようと暗躍しているものがいると言っているのだ。それもかなり前からな。だから俺は王城で調理された食事は食わん。必ず俺の配下が監視して調理させたものしか口に入れていない。お前たちのせいでさっきから腹が鳴って堪らんのだ」
忌々しい、と言わんばかりにクロヴィス王子は舌打ちをした。それに対してテルヤは口元に手を添えて顔色を青くしていた。
「もしや、父に毒が盛られたというのは同じ犯人が……?」
「ふん。恐らくは、な。そして真っ先に消しやすいお前から排除しようとしたのだろう。お前が如何に政治的に無力であろうとも存在そのものが目障りだからな」
「……クロヴィス兄上は誰が黒幕か、見当がついているのではないのですか?」
意を決したように拳を握り締め、テルヤはクロヴィス王子へと問いかけた。
するとクロヴィス王子は何かを堪えるかのように瞳を伏せた。少し間を置いて、重く息を吐き出すように言葉を発した。
「――オーギュスト兄上だろうな、黒幕は」
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