19:忍び寄る悪意
テルヤの父親、つまり国王に毒を盛ったのは本当なのか? そして盛ったのは誰なのか?
テルヤは真実を知りたいとは望んだけれど、現状知るための手段がなかった。
テルヤ自身、離宮でしか生活をしてこなかったし他の貴族と繋がりがある訳じゃない。
兄である王子たちも味方とは言えない。敵とは言えないけれど、どうすれば真実に近づけるのかその道筋は見えない。
こればかりは刀を振るぐらいしか役に立てない私ではどうしようも出来なかった。
せめて、その代わりテルヤに降りかかる火の粉を振り払うことはしっかりとしよう。政治的な問題は悪いけど、テルヤ自身になんとかして貰うしかない。
それはテルヤの方がわかっている事だと思う。だから中庭の散歩した後はテルヤはいつもの調子に戻っていた。
「王都の食事、しかも王城で食べられるって言うのは想像もしたことがなかったな」
「せめてイスタには食事ぐらいは楽しんで欲しいですね。何かと息を詰まらせるような事ばかり続いてますので」
そして晩餐の準備が整ったということで食堂へと集まる。既にリエルさんが毒味を済ませているとの事なので、私もすぐに席についてテーブルの上に並べられた料理を見る。
テーブルの上に並んでいる食事は、まだ私が捨てられる前に絵本などで語られるようなご馳走だった。
「わぁ、これは凄い」
「ふふ、それでは頂きましょうか」
テルヤが微笑ましそうに私を見てくるけれど、私はそれに気にしている余裕はなかった。
食前の祈りを捧げて、私はスプーンを手に取る。まず最初に目をつけたのは煮込み料理だ。見るからにほろほろの美味しそうな肉を口いっぱいに放り混む。
「――……ん? んん……?」
「……イスタ? どうかしましたか?」
肉を何度も舌の上で転がし、咀嚼する。暫くそれを繰り返した後、私は肉を呑み込まずに吐き出した。
突然の私の行いにテルヤの後ろで控えていたリエルは目を見開かせ、テルヤも唖然と私を見ている。
「イスタ!? どうしたのですか!?」
「ねぇ、テルヤ。王都の人たちって晶魔に汚染された土地の人たちを嫌悪してるって言ってたよね?」
「え? はい、確かに言ったことはありますが……」
「だから晶魔の侵された土地の食べ物なんて絶対口にしないとも言ってたよね?」
「……はい。その通りです」
「でも、これは晶魔の肉だよ」
私が告げた言葉にテルヤとリエルが驚いたように目を見開かせた。リエルは驚きのあまりに口元に手を添えてしまっている。
「これが晶魔の肉だとどうしてわかるのですか? 晶魔の肉と言えど、しっかりと適切な処置をすれば普通の肉と変わらないですよね?」
「そうだね。別に晶魔の肉って言っても、晶魔の石以外は元になった生き物と変わらないから」
「では、何故これが晶魔の肉だと断定するのですか?」
「この晶魔の肉を私は食べたことがあるから。これ、ただの晶魔の肉じゃないよ」
「ただの晶魔の肉ではない? それはどういう……?」
テルヤが眉を寄せながら問いかけてくる。そこには先程まで見せていた穏やかな雰囲気は一切存在しない。
「普通の晶魔の肉だったら石の部分を除けば普通の獣と変わらない。この肉だって味とかがおかしい訳じゃない。でもはっきり違うのがわかる肉だよ。リエルさんは食べたことがなかったからわからなかったのかもしれないけど――これ、クリスタル級の晶魔の肉だよ」
二人が絶句したように息を呑んでしまった。正直、その反応は理解出来る。
「これがクリスタル級の……!? ですが、流石にあれは食べない方が良いと言っていませんでしたか!?」
「別に食べられない訳じゃないんだけどね。でも、ほら、クリスタル級の晶魔って巨大化してることがほとんどでしょ?」
「えぇ、そうですね……」
「それはもう全身に晶魔の汚染が進んでる証拠だ。まだストーン級やメタル級ならいいよ、あれはまだ肉から取り除けば影響は少ないから。でもクリスタル級の肉は全身、つまり肉の部分まで汚染が進みきってしまってる。だからちょっと味というか、肉の繊維に独特の癖みたいな食感があるんだよね」
「……気付きませんでした」
「ほんの些細な違いだからね、食べたことないリエルさんだとわからないよ」
何なんだろうね、あの口に含むと感じる違和感みたいなの。師匠も気色が悪いって言ってたから、なんとなくだけどクリスタル級の晶魔の肉は避けるようにしてたんだけど。
「問題なのは、なんでそんな肉が私たちの食卓に出されてるのって話だよ」
「……確かにそうですね」
疑問は山ほど浮かんでくる。
まず、何故王都で晶魔の肉なんかが食事として出されているのか?
しかもクリスタル級の晶魔の肉だなんて、絶対に普通の手段では手に入らない。
そして誰が調理して私たちに出したのか? 晶魔の肉を食べさせようとした目的は何か?
「……不可解過ぎますね」
「嫌がらせにしてはやり過ぎてるし、普通はあり得ないよ。迷信を信じてるなら、テルヤの魔法の力を削ごうとして食べさせようとしたのかもしれないけど……どっちにしろ、善意で晶魔の肉が食事に出された訳じゃないのは間違いないよ」
「そうですね……だとすると、誰が仕掛けて、どんな狙いがあったかということですよね?」
「まず、十中八九料理人は敵だね。でも一介の料理人なんかが晶魔の肉、しかもクリスタル級の肉なんて用意出来る筈がない。まさか仕入れから全部料理人が管理してる訳じゃないでしょ?」
「恐らくは。なので裏に誰かがいると考えた方が自然です」
「じゃあ、その裏にいるのって誰?」
テルヤは唇を引き結び、眉を寄せてしまった。僅かに震わせた肩がテルヤの内に秘めた激情を感じさせる。
「……兄上たちですか?」
「貴族って可能性もあるけど、クリスタル級の晶魔の肉を調達出来そうな人いる?」
「いえ……ないとは言えませんが、それよりも疑うべきなら兄たちの方が自然です。クリスタル級の晶魔の討伐など、それこそ知られれば栄誉を賜れます。秘密裏に城に運ぶのだとしても兄上たちの誰かが手引きしたと考えた方が自然です。もしくは、兄たちと並ぶほどの権力を持つ貴族という線もありますが……」
「どの道、王城にいる王子たちや貴族たちは怪しいってことだね」
やっぱりまだ何も終わってないし、何か企み事は裏で動いてるってことだ。
何の目的があってクリスタル級の晶魔の肉を食べさせようとしたのかはわからないけれど、こんなのを仕込むぐらいだから何か大きな目的があるような気がしてならない。
そして仕掛けてきたと疑うならテルヤの兄である三人の王子たちだ。その三人の顔を思い浮かべてから私は思案する。
「……とりあえず私が一通り毒味するから、食べられそうなものだけ食べて。携帯食になっちゃうかもしれないけど、そこは我慢して」
「構いません、気にしないでください」
「うん。腹ごしらえが終わったらちょっと乗り込みに行こうか」
「……乗り込む? まさか、直接ですか?」
「その人は直接乗り込んで真正面から聞けば性根が知れると思うんだよね。そこで白か黒かハッキリする」
思い浮かべるのは――私とテルヤに向けて炎を放ってきた苛烈そうな王子の顔だ。
「謹慎されているクロヴィス王子に直接問い質してみよう。もし黒っぽいならそこから問い詰めれば良いし、白だったとしたら――上手くやれば敵にはならないかもしれない」
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