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17/28

17:運命を感じた、それで十分だ

2021/2/17 更新(2/2)

「テルヤも言っていたが、君はテルヤの力を借りることもなく単独でクリスタル級の晶魔を討伐出来る力を有している。それだけの力を持つ者はこの国には存在しない。どんな有能な魔法使いであれ、晶魔というのは魔法の力を著しく弱めるものだからだ」


 淡々とオーギュスト王子は私に告げる。その瞳からはやっぱり何の感情も感じられず、ただ事実を羅列しているだけのように聞こえる。

 しかし、だからこそ真実とも言える。私の力は私によるものであって、そこにテルヤが何も関わっていないと言われたら否定は出来ない。


「それが石屑持ち……いや、最早屑と呼ぶのも相応しいかもわからないが、君は自分の価値を知らしめた。それは我が国にとっても無視出来ない価値がある」

「だから評価されるべきなのはテルヤじゃなくて私だって?」

「テルヤは君の力を借りただけだろう? そこに相違はないな? テルヤ」

「……はい。それはオーギュスト兄上の仰る通りかと」


 テルヤは感情を隠してしまったような無表情でオーギュスト王子に返事をした。


「テルヤも口にしたが、石屑持ちとして君たちを苦境に追い込んでしまったのは罪と言えるだろう。ならば、その贖罪として君には相応の地位を与えたいとも考えている」

「相応の地位……?」

「君の価値や功績に報いるなら貴族になることだって夢ではないだろう」


 オーギュスト王子の告げた言葉に家臣たちがざわめき出す。誰もが驚き、しかし何とも言えない表情で私へと視線を向けている。煮え切らない視線の温度に思わず眉が寄る。


「……今も見下されてるような私を貴族にするつもりがあるって?」

「それは長らく我が国が植え付けてしまった価値観だ。だが、君はそれを塗り替えるだけの力がある」

「そうだねぇ。それなら、いっそ王族入りでもしちゃうのも手じゃないかな?」


 オーギュスト王子の言葉の後ろを繋ぐようにグサヴィエ王子が言葉を発した。

 その言葉に流石にテルヤから驚きの声が漏れる。家臣たちの動揺はもっと大きくなっている。


「王族入りって……」

「流石に兄上……次の国王になる人の妻だと煩いかもしれないけれど、それなら婚約者もまだ決まってない僕とかどうかな? イスタちゃん」


 ニコニコと笑みを浮かべながらグサヴィエ王子が私の手を取って、手の甲に口付けをしてくる。

 突然のことに思わず手を振り払って、一歩後ろに下がってしまう。


「グサヴィエ、戯れが過ぎるぞ」

「これは申し訳ありません、オーギュスト兄上」


 咎めるようにオーギュスト王子が言うと、グサヴィエ王子はあっさりと頭を下げた。

 けれど、すぐに顔を上げて私へと熱い視線を向ける。まるで、その紫水晶のような色の瞳が私を搦め捕ろうとしているかのようだった。


「いきなりな話かもしれないけれど、政略結婚としてはこの上ない都合が良い話だと思うんだよ。王族に迎え入れられれば君には注目が集まるだろう。そして君が実力を示せばその地位は自然と上がる筈だ。何せ、あのクロヴィス兄上をあっという間に蹴散らしてしまうんだからね」

「……だから私に妻になれと?」

「会ったばかりでお互いの事を知らないけど、僕は君の力には惚れた。そして君自身だって好きになれる自信があるよ?」


 どうかな? と言うように視線に熱を込めたまま、グサヴィエ王子は私に告げる。

 私は一度目を伏せてから深く息を吐く。目を開いて、視線をテルヤの方へと向ける。

 テルヤは感情を押し殺したような表情で私を見つめていた。けれど、その瞳には不安の色がこれでもかと渦巻いている。


「――どうでも良い話だわ。何の魅力も感じないわね」

「……へぇ?」


 グサヴィエ王子は私の返答に少しだけ眉を動かしたけれど、すぐに笑みへと戻る。


「何を勘違いしているか知らないけど、私はお前たちに頭を下げる理由もない。別にお前たちに認められるとか、この国に認められるとかどうでも良い。王族入り? 妻になれ? どうせ貴方たちが見てるのは私の力だけでしょ。使えるとわかったから使おうとしてるだけ。掌返しもいい加減にしなさいよ、今まで私を石屑持ちだからって虐げたのは他でもないお前等でしょうが」


 私は沸々と沸き上がる怒りをそのまま叩き付ける。その怒りに反応してグサヴィエ王子が僅かに笑みを歪ませる。

 オーギュスト王子は何も動揺した様子もない。ただ無感動な瞳で私を見つめているだけだ。


「この国がどうなろうかなんて知ったことじゃないわ。なんで私が虐げてきた奴等のために力を使ってやらないといけないの?」

「き、貴様! それでも我が国の民なのか!? た、確かに石屑持ちは虐げられてきた、その事実は変わらぬ! だがお前たちが生きる糧はこの国が用意して――」

「――晶魔が蔓延る土地で生きてきた私に、お前たちが一体どんな恩恵を与えてきたって言うの?」


 言葉を荒らげて詰め寄ろうとした家臣の男に向けて私は刃を突きつけるかの如く言い放つ。

 一瞬にして私が殺気を向けた家臣の男は青ざめ、その場に尻餅を付いてしまった。


「住む人すらも立ち去った土地で、国の領土というだけで国が、王族が、貴族が、何をしてくれたと言うの? 街に住むことすらも許されず、働くことも出来ない。出来たとしても人以下の奴隷扱い。帰る家なんてなかった。風雨を凌ぐ場所も獣と取り合う程だった」


 口にしていけば私が味わった過去が鮮明に蘇ってくる。石屑持ちと知られて街の住人と軋轢を生むぐらいなら人が寄りつかぬ土地で生きる方がずっと楽だった。

 それでも辛い暮らしだった。生きるためには毎日、力を振り絞らなければいけなかった。今ほど実力がなかった頃は死にかけた事さえある。


「生きるために泥水を啜ったことは? 火も起こせなくて、生肉に齧り付くことしかなかった日は? 毎日の食事が安定して食べられる訳でもなかった。そんな生き方しか出来なくしたのはどこの誰の仕業だ? 誰が見逃した? 国を統べるお前たちでしょう?」


 奇跡が起こせない無能者として、誰も救ってくれなかった。親も、街の人も、国も。私に手を差し伸べてくれたのは師匠だけだった。


「価値を認めてやる? 何様のつもりよ、お前たちに敬う気持ちなんて一つも湧いて来ないわ。だから私の価値を認めてやるって言うなら、テルヤを認めてやりなさいよ」


 私の言葉に弾かれたようにテルヤが顔を上げた。その顔にはどうして、と言わんばかりの驚きの表情が浮かんでいた。


「私は王族だからって頭は垂れない。身分なんて私にとっては何の価値もない。私は自分の力で今日まで生きてきた。それを真っ直ぐに認めて、私という人間の価値を拾い上げたのはテルヤだから、私はテルヤに私の価値を預けていいと思ってる」

「……テルヤがただ認めただけで良いって? それに一体何の価値が――」


 理解に苦しむ、と言った様子でグサヴィエ王子がテルヤへと視線を向けている。

 その言葉を遮るように私は告げた。



「――運命を感じた。私たちは心を預け合って、一緒に未来に生きていけると思えた。私の捨てていた願いを形にしてくれると、テルヤなら信じられた。それが彼女に力を預ける価値の全てでいい」



 テルヤなら、師匠のように私を見捨てないでいてくれると思えたから。

 そんな彼女が私を気遣いながらも、必死に自分が尽くすからと求めてくれた。

 私に居場所をくれると誓ってくれた。私が私らしく生きていける、そんな世界を感じさせてくれた。


「私はテルヤ・アークライトという女の子に全部賭けてもいいと思えたんだ。王女だとかじゃなくて、ただ彼女が一人の人間として私を思ってくれた。それだけで私には十分だし、それ以外の価値なんて要らないぐらいに満たされてる。私がお前たちに価値あるような存在として認められても、それを認めさせたのはテルヤの心一つだ。それだけが私を動かすんだ」


 価値を求めて生きていた訳じゃない。

 ただ、死にたくなかったから。生きて行くために強くなってきただけだった。

 その力の使い方をテルヤが示してくれた。私はその未来を素晴らしいのだと思えた。

 

 私の価値の中心には――テルヤがいる。

 ただ、嬉しかったんだ。一心に私を求めてくれたのが。ありがとうとお礼を言ってくれたことが。

 そう。それはまるで、ようやく人になれたような気がしたから。



「――テルヤの心以上に、お前たちの言葉には何の価値も感じなかった。ただそれだけだ。ここに私がいるのは全部テルヤのお陰だ。私の功績は全部、これからテルヤに上げたって良い。私の心も、力も、願いも、全部テルヤに預けてある」



 私は彼女のための力であれば良い。価値を求めるのなら、彼女のためにありたいと思う。

 それが私の望む未来に繋がった道標の光だから。



「だからテルヤの事を認めてあげてよ。この子だって、ただ生きて望みを叶えたかっただけの女の子なんだ。大切な人を守りたい、この国を助けたい。そう思っただけだ。なのにそれすらも疑って、理由をつけて虐げようとするなら! 私はお前たちになんか一切、力を貸すものか!」 

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