16:波乱を呼ぶ報告
2021/2/17 更新(1/2)
※前回の内容でグサヴィエの年齢認識に過ちがあったので前回の内容を微修正しています。
「畏まりました。では、領地に向かった所からご説明します。まず、事前に頂いた調査結果よりも現地の状況が明らかに悪かった為、私は晶魔の主を撃破し、侵蝕の速度を遅らせてから領地の立て直しに着手することを決めました」
「調査結果よりも状況が、な。まるで俺たちが手を抜いたかのように言うな」
早速、テルヤの報告に難癖をつけるかのようにクロヴィス王子が口を開く。
けれどテルヤは澄ましたような表情を崩さずに言葉を続ける。
「いえ。恐らく調査結果の誤差はあれど特殊な状況下でしたので、正確な調査は不可能だったと判断致します。実際、私も侵蝕の規模からメタル級だと判断していた晶魔の主はクリスタル級へと至っていましたから」
「なっ、クリスタル級だと……!?」
そこで初めてクロヴィス王子が驚いたような表情を浮かべ、周りにいた家臣たちもざわつき始める。
「クリスタル級……それが本当ならテルヤがクリスタル級を討伐したって事になるよね? 流石に嘘じゃないかなぁ?」
周囲がざわつく中、変わらぬ笑みを浮かべたままグサヴィエ王子がテルヤに向けて言った。
テルヤに報告を命じたオーギュスト王子もただ感情が感じ取れない瞳でテルヤを見つめている。
「実際、私どもだけでは討伐は不可能だったでしょう。ですが、そこにイスタが助力してくれたことでクリスタル級を討伐することが出来ました」
「……イスタとやらは、そこの平民か?」
オーギュスト王子の視線がテルヤから隣に立っていた私へと移る。不気味な人だな、と思ってオーギュスト王子の顔を眺めているとクロヴィス王子の怒声が響き渡った。
「貴様、王族に問われているのだぞ! 返事もしないどころか、跪いて礼を取ることも知らんのか!」
「お前等に下げる頭なんてない」
一瞬にして謁見の間の空気が凍り付いた。
オーギュスト王子はただ無感動に、クロヴィス王子は信じられないと言わんばかりに目を見開かせ、グサヴィエ王子も笑ったまま私に視線を向けた。
そしてクロヴィス王子と同じように傍に控えていた家臣たちがいきり立ち始めた。
「なんと無礼な!」
「一体、誰を前にしていると思っている!」
「学がない平民だとしても、あまりにも無礼だぞ!」
「はいはい。返事すれば良いんでしょ、イスタは私だけど?」
「き、貴様……! テルヤ! 貴様、この無礼者をよく王城に踏み入れさせたな!? このような者を連れてくるなど、貴様の品格もたかが知れたと言うものだ!」
「――お言葉ですが、兄上方。……少々、口を閉ざして頂けませんか?」
クロヴィス王子を始めとしていきり立っていた者たちがテルヤのたった一言で制止した。
隣で聞いていた私でもゾッとするような冷たく、鋭く、それでいて激情を押し隠した一声だった。触れれば爆ぜてしまいそうなテルヤは周囲を見渡し、改めて言葉を続ける。
「この方は私にとって、そして国にとっても大恩ある御方です。身分に拘る必要もない程の功績を上げたのですから。クリスタル級を討ち取ったのは彼女の独力によるものですよ」
「……は? なんだと? その女が?」
「流石に冗談が過ぎるのではないですか? テルヤ様。何せ、その平民の女が腰に下げているのは――武器ではありませんか!」
誰かが蔑みの感情を込めて言った。武器が廃れ、魔法が尊ばれるようになってからこの反応は当然だろう。
けれど、それでもテルヤは一切揺るがない。ただ淡々と事実を突きつけていく。
「えぇ、その通りです。彼女はこの武器でクリスタル級の晶魔をたった一人で撃退したのです」
「……世迷い言を。テルヤ、笑えぬ道化師ほどつまらぬ見せ物もないぞ?」
「見せ物にしたくて彼女をここに連れてきた訳ではありません。私たちの重ねた罪を贖う時が来たのだと、その進言をするためにイスタと兄上たちと引き合わせたのです」
「罪だと……?」
「イスタは石屑持ちです」
……しん、と場が完全に沈黙する。
そして、次に響いたのは――笑い声だった。
誰もが笑っている。巫山戯た冗談だと言うように。
唯一、笑い声を上げていないのはオーギュスト王子とグサヴィエ王子だけだ。
そして――ひとしきり笑った後にクロヴィス王子が激昂して叫んだ。
「テルヤァ! 貴様、遂に狂ったか? それとも俺たちを馬鹿にしに来たのか!? 石屑持ちだと、奇跡も扱えぬ者にクリスタル級を独力で討伐する力などがあるものか! そんな常識も忘れたか!?」
「だからこそ、これは私たちの重ねた罪だと申し上げました。イスタは間違いなく石屑持ちです。彼女の武器も石屑を素材とし、特殊な加工して作り上げられた物になります。つまり、彼女の武器は私たちにとっての杖にも等しいのです」
「その武器が杖だと……? 時代遅れの骨董品でどうやって晶魔を討伐すると言うのだ!?」
「え? 首飛ばせば死ぬけど」
……しん、と再び場が沈黙した。
さっきと同じような沈黙だけど、今度は笑い声は聞こえて来ない。
誰もが私を信じられないといった視線で見つめてくる。大変、不愉快だ。
すると、グサヴィエ王子が貼り付けたような笑みを浮かべたまま問いかけてくる。
「……えーと、イスタちゃんだっけ? 首? 首って言った?」
「首飛ばせば晶魔だろうと死ぬでしょ」
「……クリスタル級ってその多くが巨大化してるよね? そんな武器だと届かないんじゃないかなって」
「だったら跳べばいいでしょ」
「……跳ぶ?」
「蹴って跳ぶ」
「けってとぶ」
グサヴィエ王子が繰り返してから首を傾げた。私が言っていることが理解出来ないと言っているかのように。
なんで理解しないんだと、私の方がお前たちを理解出来ないんですけど?
「イスタの言っていることは事実です。実際、私はクリスタル級の晶魔の首が彼女の一撃によって落とされたのを目にしています」
「一撃……?」
「馬鹿な、武器だぞ?」
「ましてや奇跡を持たぬ石屑だ!」
遂には罵声まで飛び出してきた。結局、どうせこいつらも石屑持ちってだけで無条件に虐げても良いと思ってることがよくわかる。
それが私たちの生きてきた現実だった。何も変わることなんてない。変わることを期待しても意味なんてない。
「――私が今ここで、このような嘘を吐く理由があるのですか?」
――テルヤを除いては。
場を圧倒するようにテルヤは気迫を込めて問う。その問いに家臣たちは口を閉ざして、隣の人へ視線を向け合ったりしている。
なんて醜いんだろう。テルヤが嘘を言っていると思うならそう言えばいいのに、誰も何も言わないなんて。
「――信じられるものか」
ただ一人、クロヴィス王子を除いて。
彼は真っ直ぐ、私に挑みかかるような視線を向けていた。その手にはいつの間にか杖が握られている。
「わぁ、ちょっと、クロヴィス兄上? それはちょっと不味いんじゃないの?」
「黙れ、グサヴィエ! お前は下がっていろ! おい、イスタとか言ったな! その大言が嘘ではないと言うのならば、その実力を俺に示すが良い!」
「はァ? 何一人で盛り上がってんの? なんで私がアンタになんか従わないといけないのよ?」
……クロヴィス王子がぴたりと動きを止めてしまった。
その顔からゆっくりと表情が消えていき、クロヴィス王子の傍から人が一気に離れていった。
「――この不敬者がぁッ!!」
室内の空気が一気に熱される程の炎が吹き荒れた。それはクロヴィス王子の杖の動きに合わせて蛇のように揺らめき、私へ向けて杖が振り下ろされた。
人を呑み込むのに十分過ぎる程の炎の蛇が私に迫る。それを見て私は小さく呟く。
「……加減しないからな、このクソ野郎」
石屑と晶魔の結晶を素材としたこの刀は、奇跡なんて華々しい力を使える訳じゃない。
ただ跳んで、斬るだけ。それだけだ。だけど斬ると思ったものは、何でも斬る。
――例え、それが魔法であっても変わらない。
テルヤが傍にいても、下手したら怪我するかもしれないのに魔法を放つような相手に加減する理由なんてない。
刀を鞘から抜き、抜刀と共に迫った炎の蛇へと水平に振るう。晶魔の首を落とすのと変わらない、魔法だって〝真っ二つに両断する〟。
「――は?」
掻き消えていく炎の蛇、それを呆気取られたように見つめるクロヴィス王子。
その隙を縫うように私は地を蹴って、一気に間合いへと飛び込む。加減はしないと言ったけど、殺すのは不味い。
だから――首を掴んでそのまま壁へと勢い良く叩き付けた。
「がはぁっ!? はな……せ、ぁっ、がぁ……っ!」
「お前たちの言う奇跡ってのは、自分の鬱憤晴らしに使うためのものなの? だったら私だって、さっきから苛つかされてるお前等に報復ぐらいしてもいいよね?」
クロヴィス王子が私の腕を掴んで引き剥がそうとするけれど、その分だけ力を込めて首を握り締める。
足をばたつかせて藻掻いているクロヴィス王子だったけど、だんだんとその顔色が悪くなっていく。それでも私は力を緩めず、その顔を睨み付ける。
「――その手を、離せ」
そして、初めて感情が篭もったような声を聞いた。
私の首にひやりとした刃が突きつけられる。それは水の刃、突きつけているのはオーギュスト王子だ。
相変わらず感情が読めない無表情だけども、その瞳の奥に初めて彼の感情を見た気がする。
「……こいつは私を殺そうとしたどころかテルヤまで巻き込もうとしたんだけど?」
「……クロヴィスの非礼は代わって私が詫びる。ここで弟を殺せば、君が罪を負い、結果的にテルヤが罪人になるぞ」
「脅すつもり?」
「そうだ。ここで手を引けば、この不敬は私の名において許そう」
「……殺すつもりなんてないわよ。私は貴方たちと違うから」
吐き捨てるように言ってから私はクロヴィス王子の首から手を離した。
激しく咳き込むクロヴィス王子を静かに見つめた後、オーギュスト王子はまた感情を感じさせない目に戻ってしまった。
……なんだろう。やっぱり、この人なんか不気味だな。
「イスタ!」
「テルヤ、怪我してない?」
「それはこちらの台詞です! なんという無茶を……!」
テルヤが慌てて駆け寄ってきて、私に怪我がないかどうか確認してくる。
その様子に荒んだ心が少しだけ和んでしまった。まぁ、和めるような状況じゃないんだけどね。
さっきまで私を蔑んでいたような目で見ていた家臣たちが、得体の知れない化物を見るような目で見ている。
「……改めてクロヴィスが大変失礼をした。国王代理として私が判決を下す。暫しクロヴィスには謹慎をして貰う。念のため、医務室に連れて行ってから私室へ送り届けろ」
「は、はい!」
クロヴィス王子のお付きの家臣だった人が、未だ咳き込んで苦しげに呻いているクロヴィス王子を抱えて謁見の間から退室していく。
それを見届けてから、オーギュスト王子は私へと向き直った。
「君の力は理解した。石屑持ちがかのような力を持てるようになるとは、正直驚きである」
「……どうも」
「だが――だからこそ、それはテルヤの功績ではなく、君の功績とすべきではないか? イスタ」
……この王子は何を言い出すんだ?
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