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14:王都からの召集

 その日、私はやけに張り詰めた空気の中にあったテルヤの執務室に呼び出された。

 特にここ最近は大きな事件などもなく、子供たちは健やかに過ごして開拓も順調に軌道に乗ってきていたように思う。

 それなのにどうしてテルヤたちが難しい顔をしているのかわからず、私も眉を寄せてしまった。


「テルヤ、何かあったの?」

「イスタ、来てくれてありがとうございます」


 私が声をかけるとテルヤが少しだけ表情を綻ばせた。だけどすぐに表情が曇ってしまう。

 ここ最近は執務室で見かけることも少なくなっていたバーラシュさんも、テルヤの秘書として付き添っているリエルさんも表情が固い。

 何か良くないことが起きたのは間違いなさそうだった。


「実は、王都から召集を受けました」

「召集? 王都に出てこいってこと?」

「はい。領地の開拓が順調なので、その進捗を聞きたいという話ではあるのですが……」

「……話を聞くだけじゃすまなさそうって話?」


 言いにくそうにしているテルヤに確認するように聞くと、テルヤは眉を寄せたまま小さく頷いた。


「名ばかりの王女の私ですが、兄たちには疎まれているので……」

「疎まれてるって聞くけど、テルヤが何か悪いことをした訳でもないんでしょ? なんでそんなに目の敵にされてるの?」

「それはテルヤ様が光の魔法を扱えるからです」


 私の質問に答えたのはバーラシュさんだった。視線をテルヤからバーラシュさんへと視線を移し、私は小首を傾げる。


「光の魔法を使えるのが理由なの?」

「アークライト王国の開祖である初代国王は圧倒的な力の光の魔法で国を築いたと言われています。なので王家にとって光の魔法というのは些か特別視されるのです」

「ふーん? つまりテルヤは特別だから注目を集めてるってこと?」

「私自身には何の力もありません。今となってはアークライト王国の王が光属性であることは必須ではありませんし、王族といっても名ばかりです」


 テルヤは力なく微笑を浮かべて首を左右に振る。特別だと言われるとテルヤはどこか卑屈な気配を出しているような気がする。

 テルヤに代わって説明を引き継いだのはリエルさんだった。普段は澄ました表情が多いリエルさんだけど、今は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまっている。


「テルヤ様がそう仰っても、そうとは受け取らぬ野心を抱く者もいます。今こそアークライト王家の栄華を復活させる時と宣い、テルヤ様を担ぎ出そうとする輩が」

「担ぎ出すって?」

「……つまりテルヤ様を次の女王とするという事です」

「なるほど、だから面倒なことになってるんだ」


 私にはよくわからないけど。王様になるってことはきっと王族の人たちにとっては大事なことだから、その邪魔になりそうなテルヤは目の上のたんこぶ扱いされてるってことか。


「でもテルヤは王様になる気はあるの?」

「まさか、ありませんよ。私の母は平民ですので、政治的に後ろ盾になってくれる勢力などないのです。それでも私の後ろ盾になると言う方は私の肩書きを利用して王家を乗っ取ろうと目論む方々ばかりなので……」

「だからお兄さんたちはテルヤが死ねばいいと思ってこの領地に送ったんだ?」

「……そうですね」

「王族って血も涙もない人ばっかりなんだね。なんか失望したな」


 私と違ってテルヤは価値がある魔法を使えるのに。テルヤ自身は王様になるつもりもないのに、勝手に敵視してテルヤを死ねば良いと危険な領地に放り込んだ。

 はっきり言って気に入らない。そんな人が国の王様だなんて、見捨てられるのが次に自分かもしれないと思えば気分が良いものじゃない。


「晶魔の危機がある以上、国を割っている場合ではないのですが……目先の利益にしか意識がいかない人もいます。こればかりは仕方ないことなのですが」

「私にはわからない世界だけど、とにかく王都に向かうとテルヤが色々と面倒になるんだよね? 戻らないって断ることは出来ないの?」

「そうすれば私に反逆の意志がありとされて、最悪軍が動く可能性すらもあります」

「呆れた。馬鹿じゃないの?」


 その意志もない人を勝手に祭り上げて、敵視して、挙げ句軍まで動かして殺そうとするなんて見る目がないんじゃないの? テルヤの兄たちって馬鹿ばっかなの?


「なので、この召集に応じないという選択肢はありません。ですが、王都で私がどのように難癖をつけられるか……」

「具体的にどう状況が悪くなるの?」

「……予測出来る中で一番有り得そうなのは、やはり石屑持ちの方を徴兵しようとすることでしょうか。その力を利用するための武器や道具を作れるのは現状、イスタとラグマさんだけですから」

「私は師匠ほど立派な道具は作れないけれど、まぁ今は私たちだけだね」


 将来的には師匠の仕事に興味を持ってるファリドが後を継ぐかもしれないけれど、それはまだまだ先の話だ。


「なので貴方たちを差し出せと迫ってくるかもしれない、という危険はあります。そこで私が応じなければ、やはり国に背いたと……」

「何も背いてないじゃん。言いがかりなら言いがかりだって言い返せば良いと思うけど、そんな簡単な話じゃないんだよね?」

「国王であるお父様が倒れられてからは、兄たちが代行として権力を握っています。ですので兄たちが黒と言ってしまえば、私は黒になるしかないのです。勿論、そうなるとは決まっていません。ですが兄たちは私が力を持つことを容認はしないでしょう」


 ……面倒な話だな。そう思ってしまい、ついつい頭を掻いてしまう。


「私は別に国に働いて返すような義理はないと思ってる。テルヤが私たちの上に立たないならこんな国、どうだって良い」

「……はい」

「邪魔をするなら王族だろうと何だろうと私は躊躇しないよ。それを相手は知らないから勝手なことを言うんだろうけど……でも、テルヤはどうしたいの?」


 肝心なのは結局そこだ。テルヤは色んな危険があることを承知しているけれど、それでテルヤはどうしたいと思ってるんだろう?


「まさか私たちを差し出すつもりでもないでしょ?」

「それは有り得ません。……そうですね、私は兄たちと和解出来れば良いと思っています。仲良くは出来なくても、国の不利益にならない程度には関係を保つことは必要なことでしょうから」

「落としどころとしてはそれが一番じゃないかな」

「なので貴方たちを引き渡さず、かつ兄たちを説得して領地を開拓し、そこに石屑持ちを集めて将来の布石とする。それが私の望みとなります。なのでどうにか兄たちを説得しなきゃいけないのですが、兄たちは簡単に耳を傾けることはしないでしょう」

「うんうん。それで?」


 私は相槌を打ちながらテルヤに話の続きを促す。彼女は彼女なりにもう考えを纏めていたんだろう。その答えを告げるために、ゆっくりと口を開いた。


「イスタ」

「うん」

「私を守って、兄たちの説得するための力になってくれませんか? 兄たちが武力で訴えてくる可能性もありますし、実際にイスタたちがどれだけの力を秘めているか知れば迂闊なことは出来なくなると思うんです」

「うん」

「……それでも兄たちが権力を振りかざし、貴方たちを利用しようとするなら」


 何かを必死に堪えるように、けれど堪えたものを振り切るようにして顔を上げたテルヤの顔には今まで以上の決意と覚悟が定まっていた。


「その時は、兄たちと決別します。反逆者と呼ばれても私は貴方たちを見捨てたくないですし、理不尽に利用されたくない。けれど私の力だけでは貴方たちを守ることが出来ません。だから、こんなことをお願いするなんて我ながら本当に酷いと思いますが……」


 呼吸を整えるように大きく息を吐いてから、私を真っ直ぐに見つめてテルヤは告げる。


「いいよ」

「……そんなあっさりと」

「力を貸したい、そう思ったから。だからいいよ」

「……人を斬れ、とお願いするかもしれませんよ?」

「晶魔を斬るのと何が違うの? 〝私たちの敵〟でしょ? 王族だろうと、国だろうと、そんなの私にとっては晶魔と何も変わらない」


 この国は私を何も助けてくれなかった。この国の王族が私にしてくれたことなんてなかった。

 晶魔だって同じだ。生きるために戦ってきた。強くなって、生き延び続けるためだけに。その敵に人が加わるというだけだ。

 そんなの、今までと何も変わりはしない。変わるとすれば、理由が増えたことだ。


「私はテルヤにだからこそ力を貸すと決めた。だから例え相手が人であろうと、晶魔であろうと私たちのために振るうよ」

「……イスタ」

「だから、そうだな。……せめて忘れないで欲しいかな。こんな人でなしを育てたのはこの国だ。私はもう染まりすぎてるから、手遅れだ。きっとそう簡単に変われない。でもなりたくてなった訳じゃない。だから、その上で私という存在を忘れないで」


 私という人として誤った存在が胸に刻まれ続けているなら、きっと貴方は間違えない。

 貴方は私が信じた正しい人だから。だからテルヤ、胸を張って欲しい。貴方が負えない過ちは私が全て切り伏せるから。


「大丈夫。テルヤが信じられないような女になったら、その時は責任を取って貴方を殺してあげる。だから心配することなんてない。貴方は貴方の思う正しさのために私を導いて」


 バーラシュさんとリエルさんが何とも言えない表情で私を見たけれど、前言を覆すつもりはないよ?

 テルヤは暫し目を閉じて私の言葉を噛み締めていたかと思うと、ゆっくり目を開いて微笑を浮かべた。


「貴方に恥じないように生きることを誓います。改めてお願いします、イスタ。私たちの未来のための力となってください」

「私の力と命を貴方の意志に預けるよ。共に生きる未来が見られる限り、必ず私は貴方をそこに連れていく」


 これは誓いであり、約束だ。そうして私たちは視線を交わし、お互いに確かめるように頷き合った。



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