表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/28

11:埋まらない距離感

2021/2/10 更新(2/2)

 開拓も順調に進んでいたある日、私は師匠と一緒にテルヤさんの執務室に呼び出されていた。

 執務室で自分の席に座るテルヤさんは何か思い悩むような表情を浮かべていた。私たちが来ると笑みを浮かべて迎え入れてくれる。


「イスタさん、ラグマさん。来て頂いてありがとうございます」

「用件は何だ?」


 相変わらず愛想のない師匠がド直球にテルヤさんへと訪ねる。隣にいるバーラシュさんが何とも言えない表情を浮かべているけれど、何かを言うことはなかった。

 不敬な態度をテルヤさんが許しているのだから何も言われないと思うのだけど、もうちょっと師匠は人間関係を気にして欲しい気もする。


「近々、石屑持ちの方々を受け入れることが決まりました」

「あぁ、ようやく来るんだ」


 師匠を迎えたテルヤさんだったけど、いざ石屑持ちを領地に呼び寄せようとしたらバーラシュさんと師匠から待ったがかけられてしまった。

 バーラシュさんはアークライト王国では価値なしと思われる石屑持ちを大々的に呼び出そうとしても集まるとは思えないし、他の王族に目をつけられかねないことを懸念して。

 師匠は石屑持ちは村や町に定住している可能性は限りなく低いので、呼びかけや告知などしても集められるとは思えないと助言していた。


 なのでこの三ヶ月、テルヤさんは石屑持ちの捜索に人員を割いていた。連れてこれる人数は少ないだろうけど、目立たず石屑持ちを集めることが出来るだろう、と。

 けれど師匠も懸念していた通り、石屑持ちはそう簡単に見つからなかったらしい。やはり私や師匠のように生きていける者なんてなかなかいないという事だ。


「何人来るの?」

「二十代の女性が一人、それから子供が五人です。子供たちは教会の洗礼から石屑に選ばれた子供を捜し当てて保護しました」

「なるほど。二十代の女性というのは?」

「……ある貴族の家の娘でしたが、石屑持ちだった為に養子に取った子供と入れ替えられて、下働きとして働いていたそうです」

「正体がばれないように辻褄合わせか」


 師匠が不愉快そうに小さく呟いた。石屑持ちだったからといって、養子の子供と立場を入れ替えられて育てられたのか。

 師匠ほど不機嫌にはならないけれど、あまり聞いていて面白い話じゃない。


「その方は私の侍女として引き抜きたいと交渉しました。メイドは付いて来てくれた人たちがいますが、私が出向く際のお付きとして連れ回すのは酷だったので……」

「じゃあ、その女性の人は侍女として働くの?」

「えぇ、ただ希望を聞いてから詳しく仕事の内容を決めたいと思っています。引き抜くのに多少お金はかかりましたが、元々食料に回す予定だったお金があったので、結果としては良い雇用が出来たと思います」

「そこら辺の事情に興味はねぇ。つまりはガキ共とその娘に仕事を教えろって事だろ?」

「はい。後は、人間関係の構築に協力をお願いしたいのですが……」

「俺はそこまで気は回せねぇぞ」

「師匠……」

「うるせぇ」


 私が抗議するような目で睨むけど、師匠は腕を組んで息を深く吐き出しながら言葉を続ける。


「そんなもん俺たちが頑張った所でどうにかなるようなものかよ」

「いや、そこは歩み寄りが大事って話で……」

「俺は仕事以上の付き合いをするつもりはねぇ。依頼されて、金が貰えるから働く。それだけだ。ならアンタ等もそうすれば良い」

「それじゃダメって話じゃないの?」

「だったら俺たちだけじゃなくて姫さんの部下にも言えよ。同情されてんだか、腫れ物扱いされてるんだか、落ち着かねぇって」


 師匠は睨むような鋭い目でテルヤさんを見る。師匠から視線を向けられたテルヤさんは少し気まずげに身を揺すった。


「俺たちがどんなに気を使おうが、そっちが俺たちとの距離に迷ってるようならどうしようもねぇだろうが」

「……率直に聞きますが、やはり居心地は悪いですか?」

「最悪だな。気が滅入る」

「イスタさんも?」

「……うーん、正直仲良くしてるとは言えないかなぁ」


 早くも三ヶ月、されども三ヶ月。

 アルダインさんのように声をかけてくれて話を出来る人はいる。だけど、その人たちとさえも距離が心地良いものかと言われると、とてもじゃないけど言えない。


「いきなり格下だった最底辺が姫さんに認められて自由にやってるんだ。内心、何を考えてるのか俺には読めねぇな。面白くない奴だっているだろ」

「それは穿ちすぎじゃないかな、師匠」

「お前のせいでもあるんだぞ。クリスタル級を真っ二つに出来るような奴と比べられて、無能と誹られても否定出来なくなったんだ。穏やかじゃいられねぇのは当然だ」


 師匠に言われて脳裏に浮かぶのは複雑そうなアルダインさんの顔だ。それを言われると私だって何も言えなくなっちゃう。


「……だって、出来るんだから言われたって仕方ないじゃん」

「そういう事だ、俺たちは別に何も気負っちゃいねぇ。元々、一人で生きていくのに十分で、別にアンタ等に求められなくてもどうでも良いんだ。前に戻るだけだからな」

「変わるべきなのは我々の方だと言うことか?」


 今まで沈黙を保っていたバーラシュさんが問いかけてくる。その視線は師匠へと向けられ、目は探るように細められている。


「アンタたちが変わってくれなきゃ俺たちだって身の置き場がねぇ。そして俺たちは別に与えられなくたっていい。アンタたちが拾った子供を持て余したからって俺の知った事か」

「……同じ境遇の同胞ではないのか?」

「――本気で言ってるのか?」


 師匠はバーラシュさんの言葉に気分を害したように眉を寄せた。空気の悪さが一段上になった気がする。


「俺たちは人以下の存在なんだよ。人情だとかそういうものはない。だから仲間なんていねぇ。同じ境遇だから? だからなんだってんだ。心底餓えてる時にアンタは自分の空腹を我慢してパンを差し出せるのか? アンタは出来ても、俺は出来ない」

「……だが、君は彼女を助けたのではないか?」


 バーラシュさんが戸惑ったように私を見てから師匠に問いかける。すると師匠が鼻を鳴らした。


「同胞だから助けたんじゃねぇ。何の力もねぇガキだから気まぐれで助けたんだ、勘違いするな。こいつが俺を脅かすような存在だったらさっさと捨てたぜ。拾った当時は俺の方が明らかに強かったからな。拾うのも、育てるのも――そして捨てるのも、殺すのも自由だったから拾ったんだ」

「……それは」

「俺たちに仲間なんていない。ただ都合がいいからお互いが生きる道が重なっただけだ。都合が悪ければ進む道を共になんてしねぇ」

「師匠は言い過ぎだって。……まぁ、その、師匠の考え方はわからなくもないけど」


 結局の所、私は師匠とは同じ境遇を持ってるけれど、同胞かって言われると違う気がする。お互いに役立てるから一緒にいただけで、それ以上の理由もないと思う。

 例えるなら共存だと思う。私と師匠は共存が出来たから一緒にいた。お互い気が楽だし、互いに利益がある。そんな関係で繋がっているのが私たちだ。


 ――逆に言えば、私たちにはそれしかなかったから。


「でも、私は師匠の考えが良いとは思わないよ。こう、うまく言えないけど……私たちは育った常識とかが違いすぎるから、皆の気持ちとかよくわからない。嫌われてもそれは前に戻るだけだから、別にどうともない。ただ寂しく思うだけ。だから結局、嫌いたいのか、好きになりたいのか、それすらもわからない曖昧なのが一番困るかな」

「曖昧なのが困る……ですか」

「テルヤさんははっきりと私を求めてくれた。私の力が欲しいって。そして私たちに居場所をくれるって言った。私はそれを信じたいと思って、見定めるためにここにいる。でも、それは私とテルヤさんの関係であって、他の皆との関係じゃないというか……」

「……結局は俺たちは姫さんのお客さんだから文句を言われてないってだけの立場な訳だ」

「そうだね、まだお客さんでしかないんだよ」


 私たちに帰る場所なんてなくて、生きていける場所しかなかった。だから定住の地っていうのはあるようでない。だから国だとか故郷だとかもわからない。

 はっきり言って、王女様だからってテルヤさんを敬っているかと言うと私は敬えてないと思う。でも、皆はそうじゃないからテルヤさんのお客さんである私に対して何も言えないのかもしれない。


「それって結局、私たちは関係が何も出来てないってことなんじゃないかな? なのにこれから来る子たちの人間関係もどうにかして、って言われても何も出来ないよ?」

「……成る程、お話はわかりました。ただ、これから来る子たちに関しては不安も大きいと思います。親に捨てられた子ばかりですし、優しくしてあげたいと思います。ただ、そこは同じような経験を持っているイスタさんたちの方がわかってあげれるのではないかと思うのです」

「……ガキの面倒を見ろって言うなら従ってやるさ。最初は俺の仕事でも手伝わせればいい。集めた資材の晶魔の石を砕くだけでも助かるだろ。だが、そのガキ共が生きていく場を整えるのは俺たちじゃどうしようもねぇ。俺とイスタは、別にここじゃなくても生きていけるんだからな。ここに執着なんてまだ持てねぇよ」

「……そうだね。ここじゃなきゃいけない理由ってテルヤさんがいるって以上の理由がないからね」


 ご飯は美味しいし、ベッドは快適だ。風雨にさらされることもないけど、それはテルヤさんありきだ。それ以上の理由は師匠の言う通り存在しないんだ。

 私たちの言葉を受けたテルヤさんは何か思い悩むような表情を浮かべてしまっているけれど、でもこれが私たちの正直な気持ちだ。


「……率直な意見をありがとうございます。私たちも今一度、考えを打ち明け合うのが必要なのだと思います。貴方たちとこれからも歩むために」

「うん。私はその言葉を信じたいと思ってるよ」


 仲良く出来るなら……多分、それはきっと良いことなんだろうと思うから。


面白いと思って頂けたらブックマーク、評価ポイントをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ