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10/28

10:順風満帆な開拓

2021/2/10 更新(1/2)

 師匠がテルヤさんの勧誘に応じてから、早三ヶ月。

 テルヤさんが治めている領地は三ヶ月前からは想像も出来ない変化を迎えていた。


「たーおーれーるーよー!」


 私が大きな声で叫ぶのと同時に、大きな木が音を立てて倒れていく。その木に潰されないように距離を取っていた人たちが素早く木に群がり、運ぶための準備を進めていく。

 私はその光景を眺めながら肩に担いでいた師匠製の斧を地面に降ろして息を吐く。


 私が切り倒した木には晶魔による汚染の影響で石が生えてしまっているけど、私が師匠製の斧を使えば一撃で木を切断出来る。いや、それにしたって一撃はおかしいだろう、とか突っ込まれるけれど切れるんだからいいじゃん。

 これは正式にテルヤさんから依頼されたお仕事だ。なのでちゃんとお給金が出ているって聞いてるけど、別にお金なんか使う宛てもないから聞き流している。


 私の仕事は木を切り倒す以外にも、晶魔の石によって掘り起こすのが難しい木の根を粉砕したり、土地を耕す際に掘り起こしてしまった石を粉砕したり、とにかく開拓に邪魔な晶魔の石を粉砕することで忙しかった。

 お陰で最近は色んな所に引っ張りだこになってしまっている。私は何でも屋じゃない筈なんだけどなぁ。


「まったく、師匠も手伝ってくれればいいのに……」

「ラグマさんは道具を揃えるのに忙しいから仕方ないじゃないか」

「あれ? アルダインさん、もう今日の哨戒は良いの?」


 地面に降ろした斧を支えに頬杖をついていると、声をかけてくるのはアルダインさんだった。

 アルダインさんは明るい茶髪に青色の瞳、地味で素朴だけど顔立ちは悪くない青年だ。元々はテルヤさんの護衛だったけど、今は晶魔を警戒する哨戒隊として働いている。

 私がテルヤさんを助けた時に手当した人で、何かと私にも声をかけてくれる良い人だ。


「あぁ、どうやら晶魔の数も大分減っているみたいでな。もしかしたら別の汚染区域に移動したのかもしれない」

「それは良いことだね。別の区域の人には悪い気はするけど」

「言っても仕方ないことだ。なるべく俺たちも数を減らせるように哨戒範囲を広げて晶魔を警戒していくつもりだ」

「無理しないでね。汚染の影響も少なくなっても、晶魔に魔法が通りづらいのは変わらないし」

「肝に銘じているよ。情けない話だけども、俺たちは君のように戦える訳ではないからね」


 アルダインさんは少しだけ苦みを含んだ笑みを浮かべてしまったので、私は自分の失敗を悟ってしまう。心配するあまりに余計なことを言ってしまった。

 私は晶魔の哨戒には参加していない。時には討伐隊が組んで森の奥深くに入ることもあるけれど、そっちにも呼ばれていない。


 とはいえ、師匠が道具を作るのに必要な分の素材を狩る必要があったので、その時には手伝いを申し出ていた。

 ただ、それからというものアルダインさんを除く哨戒隊とはうまく距離感というものが掴めていなかった。アルダインさんと話してる時でさえ、どうにも失敗してしまう。


「えっと、ごめん」

「謝る必要もないって。……こればっかりは生まれ持った才能なんだろう? それに俺たちだって、本当は君に謝らないといけないんじゃないかと思ってるよ」

「謝られることなんてないと思うけど?」

「君はそうなのかもな。……ただ、兵士として働いていた者としては思うことがあるんだよ」

「そういうもの?」

「そういうものなんだよ」


 うーん、人間関係は難しい。これまで師匠としか碌に話して来なかったし、やっぱり苦手だ。嫌いだと思うのが少なくなっただけマシかな。

 こうしてテルヤさんの下で働くようになったけれど、石屑持ちの私や師匠を遠巻きにしている人はいるし、あっちも私たちをどう扱って良いのか戸惑っているみたいだ。


「そりゃ、今まで何の価値もないって思われてた人がいきなり重要人物扱いされてたら複雑だよね」

「……そうだね。本当に申し訳ない」

「いや、謝って欲しい訳じゃないんだけど……」


 なんだかなぁ、謝って欲しい訳じゃないんだけど。これなら遠巻きにされていた方が気が楽だったな。

 嫌われるのも、疎まれるのも慣れてる。逆に今みたいに腫れ物扱いされる方が厄介で気が滅入る。

 生活は良くなったけれど、こういう所は煩わしいなと感じてしまう私なのだった。



   * * *



「いやぁ、今日もよく働いた!」


 あれから何本か木を切り倒して、もう十分だと言われてしまった。

 けれど、今度は畑の予定地にまた大きな晶魔の石が見つかったから取り除きにいったりとそれなりに忙しかった。


 お腹は空腹を訴えていて、今の住まいであるテルヤさんの屋敷へと駆け込むように戻る。

 ちなみに師匠はテルヤさんの屋敷では世話にはなってない。王族なんかと一緒に住めるか、と言ってテルヤさんに与えられた工房で一人暮らしをしている。


「今日のご飯は何かなー!」


 今、生きている中で何が一番楽しみかと言えば食事だ。お腹いっぱいに美味しいご飯を食べられるのは幸せなことなのだ。


「あ、イスタさん。お疲れ様です」

「テルヤさん。休憩中?」

「えぇ、食事ぐらいゆっくり食べなさいとバーラシュに追い出されてしまいまして」


 食堂に入ると食事の手を進めていたテルヤさんが声をかけてくれた。師匠を連れて帰ってからテルヤさんはいつ休んでいるのかと思う程に働いている。

 私と顔を合わせるのもこうして食事時ぐらいで、その食事時ですらも会えないこともある。それだけに目元にある小さなクマが少しだけ気になってしまう。


「無理しちゃ駄目だよ。テルヤさんの代わりはいないんだから」

「えぇ、大丈夫ですよ。ここの食事は本当に美味しくて、つい食べ過ぎてしまう程ですから」


 そう言ってから料理を口に運ぶテルヤさんは、いつもの笑顔とはちょっと違って綻んだ笑顔を浮かべている。

 領地を開拓する上で悩みが尽きないテルヤさんだけど、その大きな悩みの一つに食料問題があった。


 私も最初に聞いた時は驚いたんだけど、王都を始めとした国の中心部に住まう人は晶魔に汚染された土地の動物や作物を食べないのだとか。

 晶魔の肉や晶魔に汚染された土地の作物を食べると身体に毒が溜まるとか、魔法を使う力が弱まってしまうと信じられていたそうなのだけど、別にそんなことはない。


 だから領地を開拓出来ても食料というのは晶魔の影響がない土地から仕入れなければいけないかもしれないと覚悟していたのだとか。

 だけど私が普通に晶魔のお肉食べないの? って聞いたのが切っ掛けで、悪影響がないかどうか調査された。

 最初はテルヤさんについてきた護衛の何名かが食べ、問題がないことが確認されてからテルヤさんも普通に領地で取れたお肉や野菜を食べるようになった。


「お腹いっぱい食べられることは本当に幸せなことです」

「意外だよね、王族だからしっかりとしたもの食べてると思ってたんだけど」

「私は王族といっても名ばかりでしたから……」

「あっ、ごめん」

「いえ、気にしてませんよ」


 そうは言いつつも、テルヤさんの表情は少しだけ暗い。何か思い悩むように目を細めてしまった。


「臣下や領民を餓えさせる訳にはいきませんが、やはり迷信というのは根強いものです。私たちは実際に食べることで迷信を払拭出来ましたが、王都の人たちはそうではないでしょう」

「安全な所で暮らしてる人たちに私たちの生活を理解しろって言っても無理でしょ」

「えぇ。本当に私は知らないことばかりです。これからも多くのことを学んでいかなければならないのでしょうね」


 最後の一口を口に運び、水を飲んで一息を吐いたテルヤさん。それを見てから私も自分の料理を勢い良くかき込んでいく。

 食べるのに夢中になっていると生暖かい視線を感じた。正面に座ったテルヤさんが食後のお茶を楽しみながら私を見ていたからだ。


「何?」

「いえ、何でも」

「気になるって」

「ごめんなさい」


 力を抜いたようにテルヤさんは笑う。その顔を見て、少しでもこの時間が安らぎになってくれればいいと私は思った。

 

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