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偶然の再会

作者: 光井 雪平

 里木良哉は一人教室に残っていた。彼は目の前にあるほとんど空白のプリントを見ながら唸っていた。

「まったくわからん」

 彼は一人つぶやく。彼はこの目の前にあるプリントをあと一時間ほどで終わらせる必要があった。だが、その進捗率は一割いっていればいいほうであった。彼は頭を抱える。

「俺はどうしてこんなに馬鹿なんだ」

 彼は馬鹿であった。この高校に入れたのも奇跡に近かった。そんな彼が特にできないのが数学であった。そのできなさは折り紙付きで、一学期の期末テストで先生からも苦言を呈されるほどのひどい点数をとったのだった。先生はとりあえず課題はやっているし、授業もでてないわけではないので、と単位は出すとは言われたのであった。ただもし希望すれば多少の余裕はあるから夏休みに補習をやってやると言われたのであった。

「やべえよ、先生が来る前にせめて半分は回答できてないと」

 里木はそう言いながら、目の前のプリントの問題を見る。先生はパソコンがないとできない仕事があるとか言って、このプリントを渡してやっていくように言われたのであった。

 長い時間がたち、里木は顔をあげて時計を見る。時計の針は指定された時間の5分前であった。里木はそれを見て、ふっと笑う。どこかやり切った顔であった。少しして、里木は机に突っ伏す。

「終わった」

 里木は絶望したような顔をしていた。プリントの回答率は三割ほどであった。一瞬全部適当な答えを埋めようかとも思ったのだが、それは里木自身がダメだと思いやめたのだった。里木は顔を少し上げて窓の外を見る。空は真っ青で雲一つないきれいな青空だった。

「きれいな空だな」

 里木がそう言った瞬間に、教室の扉が開く。そこには、里木の数学を担当している相田先生がいた。相田先生は40歳ほどの男の先生であり、生徒からも評判の高い優しい先生だった。

「里木、プリントはどうなった?」

 里木は首を相田先生のほうにゆっくりと向ける。相田先生はその里木の顔ですべてを察する。

「とりあえず、見せてみろ。里木が努力したのだろうというのはわかる」

 相田先生はそう言って里木に近づく、里木は相田先生にプリントを渡す。馬鹿ですいません、と言いながら。

「少しずつできるようになりゃいいんだ。里木は飲み込むが遅いだけどいうのはわかってるからな」

 まあ、今後困るも試練が、と相田先生は小さく言う。里木はですよね、と肩を落とす。相田先生は集中しながらプリントを見る。里木が回答を書いてあるとこはほとんどあっていた。相田先生は、適当な答えを書いてないのはいいことだとおもうんだけどな、と思う。

「里木、とりあえずこのできてない問題を解説して今日は終わりにしよう。家では復習と夏休みの宿題をやるんだぞ」

 はい、と言って里木は頷く。そして、相田先生は問題の解説を始める。

 その解説によって、里木がすべての問題をようやく納得できたころには日は落ちかけており、きれいな夕焼けがみられていた。

「先生、ありがとうございました」

 里木は頭を下げる。

「明日も同じ時間に来るように」

「わかりました」

 里木はいい返事をする。相田先生はやる気はあるんだけどな、と思う。里木は荷物をまとめると、席を立つ。

「先生、また明日よろしくお願いします」

 里木はそう言うと、教室を出ていく。

 里木の家は学校からさほど離れておらず歩いて二十分ほどのところであった。里木は学校が近くにあってよかったと思っていた。移動時間をさほど気にする必要がなかったからであった。里木は帰り道に下を向きながらため息をつく。里木は何もできない自分を歯がゆく思っていたのであった。そんな里木の前から声がかかる。

「里木君、お久しぶり」

 里木は顔をあげる。そこにいたのは近所に住む一つ年上の岩元裕美であった。小学校からの付き合いであった。中学時代は同じテニス部に所属していた。岩元はまさに文武両道を体現する存在だった。テストではほぼ満点をとっているらしく、またテニスの腕前は中学時代に県では上位の腕前で関東大会にでたこともある人である。岩元は里木の憧れの存在だった。岩元のような存在になれたらいいなと里木は思っていた。

「お久しぶりです。岩元先輩」

 里木が少し緊張しながらそう言うと、岩元はくすりと笑う。

「そんな硬くならなくてもいいよ。小学校の時のような感じで大丈夫だよ。中学は部活が一緒だったからね」

 岩元は里木とは別の高校に行っている。うちの地元ではトップ高と言われる高校であった。それに里木は思う。岩元が部活を引退したからまったくと言って会うことがなく、挨拶ぐらいしかしたことがなかったのだった。そう思うと里木の緊張は増してくる。

「そんなこといきなり言われても、難しいかもです。話すの久しぶりですし」

「そうだね、じゃあ気にしないで。話しやすい感じでいいよ。で、ため息なんかついてどうしたの?」

 岩元は少し首をかしげながら尋ねる。里木はどう答えたらいいのだろうと最初考える。そして、少しして答える。

「なんか、自分のその勉強とか諸々のできなさに思うことがありました」

 なるほど、と言って岩元は頷く。

「今日何かあったの?」

「今日は一学期の期末のテストがひどかったので数学の補習をしてもらったんですけど、先生にすげえ時間取ってもらった割に全くできなくて」

 里木はまた顔を下に向ける。なんか言うごとに自分がよりみじめになるような気がしたのだった。特に岩元にこのことを言っているというのが、より自分をみじめにしているように感じた。別に岩元が悪いのではないのだ。自分が悪いのだけだ。そう思うとさらにみじめになり、やるせなさを里木は感じる。

「そうなんだ。私も教えてあげよっか?」

「いやいや、大丈夫です。忙しいだろうし」

 里木は顔をあげて焦りながら、首を何度も振りながら答える。岩元はテニス部を続けているとどこかで聞いたのだった。それだけでなく、トップ高にいるのである。そう思うとすごく忙しい日々を送っているだろうと判断する。

「気にしないで。人に勉強教えると自分のためにもなるし、それに」

 岩元は里木の顔をじっくりと見て、笑顔で言う。

「こんな顔してる里木君を放っておけないしね」

 里木はすぐに顔を背けて答える。そして、とりあえずその場をごまかそうとする。

「機会がありましたらお願いします」

「うん、わかった。里木君は部活とかやってるんだっけ?」

 里木は首を振る。里木は勉強に集中するために部活は入らないようにしたのだった。テニスを続けたいという気持ちは少しあったが、それをやっている余裕はなかったのであった。気持ち的に。

「じゃあ、また後で日程とか確認して連絡するね。一応連絡先確認させて」

 二人は連絡先を互いに確認する。そして、岩元は図書館に用事があるらしいので、その場で別れる。里木は岩元から離れると、小さく息を吐く。

「緊張したな、まさか今日偶然会うことになるとは」

 そのまま、里木は家に帰る。自分の部屋に行くと、着替えて勉強を開始する。今日の復習と夏休みの宿題を少し進める。

里木が夕飯を食って、お風呂に入ってきて携帯を見ると。岩元からのメッセージが来ていた。それは自分の直近で空いてる日はこんな感じというものであった。里木はもうこれが来てるとなると、断り切れないと感じて、とりあえず来週の土曜日なら大丈夫ですと送っておく。すると、じゃあ図書館に14時でと返ってくる。

「一瞬で決まってしまった」

 里木は少し呆然とした後に、勉強を再開する。

 

 その後、里木は平日のほとんどを学校で過ごした。そして、岩元と勉強を教えてもらうことになる土曜の前日になる。その日も里木は学校に朝から来ていた。

「とりあえず、これで一学期の内容は終わりだし、補習も終わりだ」

 相田先生はそう言う。里木は模擬テストを今日受けていた。その結果はそこそこのものだった。

「補習も終わりですか?」

「ああ、先生も忙しいしな。それにな里木、お前は理解力が低いだけでしっかり時間をかけてコツコツとやっていけば大丈夫だ」

 里木はそうなのかな、と思う。自分に全く自信が持てなかったからである。

「里木、まあお前が自信を持てないのはわかるが、とりあえず勉強のやり方も少しは教えたはずだ。とりあえずやってみろ。駄目だったらまた付き合ってやる」

 里木は小さく頷く。とりあえずやってみるしかないのだろうと里木は思う。それ以外にないのだから。

「でだ、里木。お前は二学期の場所の予習もできる限り進めろ。わからないこととかあったら先生にメールを送れ。まあもし周りに聞ける奴がいるならそいつに聞いてもいいが」

 聞ける人か、と思う。その瞬間、岩元のことを思い浮かべる。岩元なら聞いてもしっかりと教えてくれるだろう。だが、そこまで負担をかけてもいいのかと思う。

「わかりました。今までありがとうございました」

「おう、これからも頑張れよ」

 そして、里木は家に帰る。自分の部屋に戻ると同時に携帯を見る。そこには岩元からのメッセージが来ていた。それは明日大丈夫そうか、というものであった。里木は大丈夫ですと答える。岩元からはしばらくして、じゃあ前に言った場所と時間でと返ってくる。里木はすいませんがよろしくお願いしますと返す。するとすぐに、任せて、と返ってくる。

「とりあえず準備しないと、だな」

 里木はそう言うと、何を教えてもらうかなどのピックアップなどをしておく。その最中里木は思う。なぜ岩元はこんな自分みたいなやつのために、動こうと思っているのだろうか、と。彼女にはほとんどメリットがないはずである。そんなことを思いながら、準備を進めていく。


 里木は待ち合わせの時間の10分ほど前に図書館に到着する。図書館に到着すると、自由学習スペースと呼ばれているある程度話しをしていてもいい場所へと向かう。そこにいる人を見ると、岩元はいなかったので席を二つとっておく。そして、その旨を岩元にメッセージを送っていく。待ち合わせの時間とほぼ同じくらいに岩元が来る。

「待たせた?」

「大丈夫です。僕が早く来ていただけなので」

 岩元はそっか、じゃあよかったというと席に座る。岩元は荷物を置き、筆箱などを出すと、里木に尋ねる。

「さあ、教えてもらいたいとこはどこ?」

 里木はここです、と目の前に広げてあった問題集の問題を指す。そして、岩元は教え始める。

 二時間ほど経って、問題の解説を終えると岩元は伸びをする。そして、里木に提案する。

「一回本格的に休憩しない?」

「そうですね」

 里木はそう言うと、持っていたシャーペンを机に置き、伸びをする。岩元は何かを思い出したかのような様子になる。里木はどうしたんだろう、と思う。もしかして、何か用事があったのを思い出したのか、とも思う。里木がどうかしましたか、と尋ねるよりも前に岩元が尋ねてくる。

「里木君って、毎年やってる地元の夏祭り行くの?」

 里木は最初夏祭りって何だっけと思う。そして、すぐにこの近くの神社で夏休みごろにやっている夏祭りのことを思い出す。そんなに大規模なものではないが、毎年やっていて、また花火も少し上がるのであった。里木も去年までは友人と参加していたが、今年は見合わせる予定であった。

「一緒に行く相手もいないので今年は行かないつもりですね。中学の友人と最近連絡とってませんし」

 里木の比較的な仲の良かった友人は別の高校に行っており、最近は会うどころか連絡すら取れていないのであった。そもそも里木の交友関係は狭いのであった。今のクラスの人々ともまだあまりなじめておらず、ここらへんに住んでいる人もいるのは知っているのであるが、仲はよくなれていなかった。里木はなぜそんなことを聞いてくるのか、と思う。

「じゃあ、一緒に行かない?」

 岩元は笑顔で誘ってくる。里木はそれを聞いて固まる。岩元に誘われるとは思わなかったからであった。そもそもなぜ自分を誘うのだろうか。

「あの、ほかに一緒に行く人はいないんですか?」

「一緒に行きたいなと思ってたみんな、別の人と行くとか用事があるらしくてね」

 里木はそうなんですか、と言う。そして、どう返答するかを答える。いや別に一緒に行くのが嫌ではないのだが、周りからどう見られるかが心配だった。自分はまだしも、岩元のことを知っている人は多い。となると自分なんかと一緒にいると不都合が生じると思っていた。

「自分なんかとなんで行こうと思ったんですか?」

 里木はとりあえずこれを聞くことにする。そうこれを聞いておかないとだめだろうと判断する。

「なんとなくかな。昔は一緒に行ってたし、他の子も一緒だったけど。それに偶然最近会えたしね」

 岩元は笑顔でこう答える。里木は断る理由がぱっと思いつけなかった。それに久々にこの時期に会えたのだ。一緒に行けるなら越したことはないと判断する。

「わかりました、構いませんよ」

「本当?よかった」

 岩元は安心したような顔をしていた。そして、そのまま里木は閉館時間ぎりぎりまで勉強を岩元に教えてもらっていた。


 里木は夏休みの間、岩元に余裕のある日には勉強を教えてもらっていた。そして、夏祭りの日になる。里木は図書館の前で岩元に会うことになっていた。図書館から夏祭りの会場である神社はさほど遠くなかったからであった。里木が待ち合わせの時間と10分ほど前に行くと、図書館の前で浴衣の岩元を発見する。里木は一瞬見とれる。そしてすぐに首を振って、岩元に近づき声をかける。

「岩元先輩、すいません遅れました」

「私が早く来すぎてるだけだから気にしないで。浴衣の着付けにもう少し手間取るかと思ったんだけどね」

 岩元は小さく笑う。里木は一応言わないと失礼だと思って言う。

「えっと、似合ってます、きれいです」

 里木はそれを言った瞬間、想像以上に恥ずかしく思う。岩元はありがとう、と言う。里木は顔をそらす。自分の顔が赤くなっているのを感じていた。少し二人が黙っていると、岩元が言う。

「じゃあ、行こっか」

「そうですね」

 そして、二人は夏祭りの会場に行く。二人は到着すると屋台を回り、楽しむ。その間、里木はできる限り周りの目を気にしないようにしていた。屋台のおじさんとかが、彼女とかなんとかとからかってきたが、違いますと言っておいた。岩元も違いますと言っていたが、それにどこか傷ついている自分がいた。しばらく回っていると、花火の打ち上げの時間が近づいてくる。

「花火まであと少しだね」

「そうですね」

「穴場があるんだよ、ついてきて」

 岩元はどこか張り切った声で言う。里木は頷くと岩元に続く。そして、神社から少し離れた場所にある広場に来る。そこにはほとんど人がいなかった。

「ここ花火がきれいに見えるんだけど、人がほとんど来ないんだ」

「そうなんですね」

 そして、二人は他愛ない話をしながら花火の打ち上げを待つ。そして、花火が打ち上がる。里木はきれいにみえるなここ、と感嘆としながら花火を見ていた。そして、すべての花火が打ち上げ終わると辺りは一気に静かになる。周りの人々もいそいそと帰ろうとしていた。里木も帰りましょうと告げようと思って、岩元のほうを見る。その瞬間、小さな声で岩元が待って、と言う。里木は驚きながら、動かずに黙る。しばらくして、岩元は深呼吸をすると岩元は里木に尋ねる。

「里木君は私のことをどう思ってる?」

 里木は何を聞いているのだろうと思う。どうしてそんなことを聞くのだろうと思う。

「あの、どういうことですか、岩元先輩」

「思っていることをそのまま言って、何を言っても構わないから」

 里木は困惑する。岩元の顔は真剣そのものだったこともあり、里木はどういうことなのだろうか、と思う。だが、何も言わないこともできなかったので、とりあえず思ったことを言っておく。

「岩元先輩は僕の憧れの人です。昔からずっと。勉強もできて、スポーツもできて、優しい人で。ずっと憧れの存在です。僕は岩元先輩みたいな人になれたらいいなと思っています」

「私を恨んだり憎んだりはしてない?」

 どこか岩元の声は不安そうなものだった。里木は首を振りながら答える。

「そんなこと思ってません。多少は嫉妬しますけど。でも昔から先輩が努力もしてるの知ってますから。自分も努力しないと、思えたので。むしろ感謝してますよ」

 そっか、と岩元は小さく言うと涙をこぼし始める。里木はびっくりして、どうしたらいいのかを考える。自分が悪いのか、と思う。

「ごめんなさい、変なこと言いました、僕」

「ううん、ごめんね。違うの、これはうれし涙なの」

 里木はどういうことだ、と困惑する。岩元は少し笑いながら言う。

「ごめんね、いきなりで困ってるよね。昔のことなんだけどね、私周りからあまりいいように言われなかったの、ほら自慢するわけじゃないけど何をやってもできるでしょ」

 里木はそのことを知っていた。岩元は小学校の時、周りにずるいとか何とか言われていたのであった。里木はそのことを漠然と知っていた。

「私最初どうすればいいのかわからなかった。今さらできないようにするっていうのも期待している人をごまかすことになるし。それに今を思えば、余計にひどいことになってたかもしれないね」

 岩元はそこまで言うと、里木の顔を見る。

「でもね、里木君は私にあこがれてるって言ってくれた。すごいって、僕も私みたいな人になりたいって。その言葉に私は支えられたの。自分を肯定してくれる人がいるって」

 里木はそんなようなことを言った覚えがあるのを思い出す。

「だから私ねずっと恩返ししたかったの、でもどうしたらいいのかわからなかった。中学に入ったら段々と疎遠になっちゃったし。それで私どんどんどうしたらいいのかわからなかったの、でも」

 岩元は一度言葉を切る。

「あの日、偶然里木君会えた。しかも落ち込んでいる里木君に。少し最低かもしれないけど、私うれしかったの、恩返しができるって」

「最低じゃないですよ、僕もあの日会えてよかったです。そのおかげで多少は勉強できるようになってきました」

 よかった、と岩元はすごく安心したように言う。里木は岩元に感謝されているのを知ってうれしかった。自分みたいなやつでも岩元のためになることを知れたからである。岩元はもう一度深呼吸をすると、里木を真剣に見つめて言う。

「里木君、私ね。あの日から今までで自分の気持ちがよりわかったの。里木君をどう思っているかって」

 里木は生唾を飲み込む。なんとなくであるが何を言われるかわかったからであった。

「私ね、里木君が好き。だから付き合ってください」

 岩元はそう言うと、頭を下げる。里木はどう返答すればいいかわからなかった。だって。

「岩元先輩、僕は勉強できないし、スポーツもべつにできるわけじゃない。何もできない人間です。ですから」

 里木はごめんなさい、といおうとした。その瞬間、岩元は顔をあげてしっかりとした声で言う。

「関係ないよ、何もできなくていい。私はね何かができる里木君が好きなんじゃないの、努力して何かできるように、とまっすぐ進む里木君が好きなの」

 里木はそれを聞いて、自分でもいいのか、と思う。でも、本当にいいのか、と思う。

「里木君、私が何もできなかったら私に憧れなかった?」

「そんなことはないです。だって岩元先輩は努力してるから。周りに何を言われようとも」

 里木は反射的にそう言っていた。その瞬間、自分の中で答えが出る。

「岩元先輩、僕は何もできないダメな奴です。でも、それでも僕は岩元先輩のことが好きです。だから付き合ってください」

 里木は頭を下げてそういう。そして、その瞬間、答えずにお願いしていることに気づく。岩元はくすりとわらって答える。

「はい、喜んで。こちらこそお願いします」

 里木は顔をあげる。そして、顔を合わせた二人は笑いあう…


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