悪役は強いのがお好き
弱者に従わされることが苦痛だった。
自分より劣る者から見下されるのが屈辱だった。
のさぼる世界が許せなかった。
そう告げて、ボスと呼ばれていた組織の頂点はバケモノへと変貌していった。
「困った御方だ。怪人を生み出す細胞を自らに投与するだなんて。」
「私のコンピュータ頭脳と反発しちゃってるじゃないの!こいつの技術なんて混ぜたりするから...。」
「笑えるくらい相性悪いにもほどがある現状だね。」
強大な力を持て余すバケモノから逃亡しつつ、博士二人は戦況を視察する。
破壊される街を守るために戦うヒーローたちは必殺技を繰り出したが、ほとんどダメージは与えられていないようだった。
「ふむ、先ほどの必殺技でほぼ効果無し。おまけに次の必殺技が打てるようになるまでまた数刻はかかるのかと思うと絶望的だな。」
「お前らの技術のせいだろ!!なんとかできないのか!?」
苦戦を強いられているヒーローの一人が叫んだ。
元はといえば、用済みだからと襲われた彼らが町へと逃げ出してこんなことになっている。
彼らが逃げれず始末されていたとしても結果は変わらないとはいえ、今のところヒーローの応戦に助けられているのも事実であるのだが。
「協力はできないが、やるだけの対処はするさ。」
「は?協力はできないって、どういうことだよ。」
「あいにく、正義の味方にはなれないだろうからね。敵にこちらの技術を明かすわけにはいかないんだよ。」
「あんた、まだ俺たちと戦うつもりでいるのか?」
「そちらに寝返ってどうなるというんだ。これまでの罪を消すことも、怪人を許すことも、君たちに出来はしないだろう?」
世の中そんなに甘くはない。
悪魔に魂を売った瞬間から、誰かに期待するのは諦めていた。
なにより、資金援助をしてくれたボスには恩義と借りがある。
倒させるわけにはいかないのだ。
ロボットを愛する研究者も、どうやら同じ意見のようだった。
「で、どうするつもり?」
「簡単な話だ。全ては強者に従うべきだというのなら、こちらがより強者であることを示すまで。」
ヒーローではないのだから、道徳的な手段も言語もなくていい。
自分たちの間には綺麗ごとなんて不要でしょう?とバケモノに向かって科学者は口角を上げた。
「こういう時のために、怪人細胞への対処法は既に考案済みだ。準備が終わり次第実行するが、機械の方は任せて良いな?」
「当たり前じゃない!こっちだって、ちゃんと事態に備えてたんだからね!」
さすがは博士といったところだろうか。
悪役だったからこそ、裏切りは付き物だと二人とも想定していたらしかった。
どうりで信用されなかった訳だと、ヒーロー団体を抜けて潜りこんでいた男が苦々しく呟く。
その男に対して博士二人は「味方を裏切った奴を信じるはずがないだろう」と口を揃えた。
「博士っ、必要なものは揃えてきました!」
「準備は万端です、指示をお願いします。」
「よし、力の差を思い知らせてやりたまえ!」
「研究成果を見せるときだ!遅れをとるなよ!」
両者の合図で飛び出したのは、巨大化した怪人と大形機械。
それらを目にしたヒーローたちの一部が、部品に使われている材料に気がついたらしい。
目を見開いて驚愕する。
「「あれ、俺たちのメカ使ってるじゃねーかぁあああああ!!」」
「はい再利用です。」
「こいつ、しれっといいやがって…。」
「負けたからと機械を捨て置く方が悪い。」
「君が言うと説得力があるなぁ。」
ロボットの技術が盗まれないように自爆装置を搭載させていたことを思い返しながら、科学者は怪人へと指示を出す。
攻撃されたバケモノは地に伏せ、力を失いながら本来の姿へと戻っていく。
「こんなにすごい技術をもっている人たちが、悪に手を染めてしまっているだなんて。」
「研究には費用が必要だもの。」
「どうあっても、所属を変えるつもりはないと?」
「う~ん。個人的には、怪人さえ助けてくれるなら考えてもいいけど…でもねぇ。」
「でも?」
「やめとくよ。正義より、平和を愛しているからね。」
誰かが言った。
平和な世界に正義は必要ないのだと。
まったくもって、正義とは複雑なものである。
誰かを幸せにすることよりも、悪の討伐を目的とした者が多すぎる。
気にいらないものを悪と呼びつけ、罵り、否定することを課せられた存在でもあるといえる。
そう考えながらも、まだ何かを期待しているからなのか。
悪どいような表情でヒーローたちに笑みを浮かべ、その科学者は他の仲間と姿を消した。
「さぁてと。ボスの確保には成功しましたし、看護でもしましょうかね。」
「私はヒーローたちから奪ってきた機械についてもう少し調べてみることにするわ。それにしても…。」
「何か?」
「あなたはてっきり、捕まるつもりだと思ってたわ。代わりに怪人を助けてもらうだとかで。」
「はは。正義が悪に勝つのなら、いつかはどうせそうなるさ。それこそボスの望んでた弱肉強食の世界ってやつだろう。」
読めない人だなと、怪人は科学者を眺める。
いったい、この強者はどれだけ先を読んでいるのやら。




