博士は怪人がお好き
とある時期のこと、人類に害をなす存在が確認された。
そこで極秘にヒーローが結成され、人々から怪人と呼ばれし害悪と戦う日々が始まることになる。
さて…ある日の悪の組織の科学者も、いつものように新たな怪人を構築しているところだったのだが。
この科学者、悪の組織に入るだけあって変わった人物でありまして。
「次の作戦は海への恐怖を煽るとのことで、主にクラゲなデザインにしてみました!水中戦にも特化してるよ~。」
「クラゲって、もっと海には怖い生物がいるでしょうに。」
「わかってないねぇ。深海に身を隠しやすく、水圧にも強いボディだぞ?なによりちゃんとサメとかタコの特徴も取り入れてるじゃないか。泳ぐスピードの速さは当然ながら陸上でも問題なく動ける所がポイントでな。」
「はいはい十分わかりましたよ。語りだすとキリないんだからもう。」
科学者に文句をつけるのは、先ほど構築されたばかりの怪人だ。
知能の高さは科学者の研究の賜物だが、それだけが理由ではなかった。
その怪人は、ヒーローに負けるたびに新たな怪人として生まれ変わっているのである。
そう、何度も生還しているのだ。
「いい加減、負けてばっかりの俺よりも有能な怪人を作るべきだと思うのですが。」
「何を言っている、生命というものがそう簡単に産み出せると思うのかい?」
「……そう言われると、思いませんけど。」
「一つの生命体を怪人へと進化させるのだって一苦労なんだよ。簡単にできるものなら、とっくに大量生産でもして数にものを言わせることだろうね。」
「いわゆる戦闘員ってやつですか。」
「といっても、命というのは気安くホイホイ抱えていいものじゃないからね。世話をする責任や、面倒をみる覚悟みたいなのが必要だ。」
「まずは俺を立派に育てることが目標、ですか?まったく、あなたらしい。」
「愛しているからね。」
元々、その科学者は全ての生き物を尊く感じていた。
そして、いつしか未知なる生物への憧れを募らせながら生物学を学んでいくようになったのだ。
しかし才能はあったが、とある問題に直面してから物事への考えかたが常人とは異なっていくことになった。
モルモットによる実験?良心は痛まないのか。
蛙の解剖?そんなことが許されていいのか。
害虫と共存するのは不可能なのだろうか。
例えば、知能があったらどうだろう。
人類と似た存在であれば、同等の権利が得られるだろうか…。
「博士、いろいろ拗らせてますよね。無害にするためとはいえ害虫や有毒植物の改造強化に、ドラゴン生成、霊魂の蘇生実験までやるなんて。こんな危険な内容、普通は一人でやらせてもらえませんよ。」
「ふふ。ボスのおかげで思う存分に研究ができるのだから、こちらもちゃんと恩義に報いなければね。」
「研究を支援する代わりに、人類に危害を加えるって契約なんですよね。ボスはどうしてそんなこと望んでるんでしょう。」
「さぁね。望みがなんであれ、こちらに害さえなければ良いさ。…ん?」
科学者は、画面に映しだされたデータに目を見張る。
それはヒーローたちの動向を常に探っているマシンからのものであったのだが。
「あんのバカヒーローども!!!謎の生命体に攻撃してやがるっ。我々の怪人と勘違いでもしてるのか!?」
「は!?うわ本当だ。見たことない生物と戦ってますね。」
「新種だったらどうしてくれる!宇宙からの来た常識知らずだったら?太古からようやく目覚めた赤子だったら!?倒したところで何かあったらどうする!!」
「気持ちはわかりますが落ち着いてください博士っ!」
この科学者にとって、未知の生物に攻撃するというのは本来もっと警戒するべきことだった。
仲間がいれば報復しに来るかもしれない。
触るだけでヤバい猛毒がある可能性もある。
とはいえ今までの怪人との戦いが、その警戒心を薄れさせた原因の一つであることは間違いないのだろうが。
「こうなったら次からは攻撃した分だけ痛い目にあうタイプの怪人にしやてるからな…。」
「博士、そんなことよりどうします?」
「もちろん、こちらで未確認生物を確保する。行ってくれるか?」
「ご命令なら逆らいませんよ。」
「水中戦でないのが残念だな。こちらで隔離捕獲の準備は整えておく、絶対無事に戻ってこい。」
「了解。」
科学者に見送られて、怪人は研究室を飛び出す。
「お荷物抱えて生還しろだなんて、無理難題すぎるってのに。」
またコレクションが増えるのかなぁなんて思いながら、怪人はいつものようにヒーローたちと戦う場所へと向かったのだった。
「こんな日々、いつまで持つのやら。」