女神に会う。
亀裂に吸い込まれた青年は、いつの間にか気絶していたのだろう。気が付けば雲の上のような場所にいた。
「ここはどこだ。雲の上みたいだけれど。でも、これは水蒸気が凝結した感じじゃないな」
雲のようなものは、水滴で出来ているものではないようだ。が、そんなことよりも雲の様な物の上に立っていることに驚くべきだろう。青年の感覚は、一般人と少しずれていた。
「あらまあ、今回は人間が落ちて来ちゃったのね」
青年は後ろから声をかけられ振り返った。そこには少し困り顔の女神が立っていた。
後光に包まれた完璧な容姿は神威に溢れていた。誰がどう見ても女神にしか見えない。象を見てカブトムシと間違える奴はいない。それ程女神という存在は異質なものであった。
「え。女神様。・・・。ここは天国!俺、死んだの?」
「安心してください。貴方は死んではいません」
「ほっ。ではここはどこですか」
「ここは第八界の天界になります」
「天界?ということはやはり天国なのですか」
「天国と言えば天国なのですが、貴方のいた第七界の天国ではありません。第八界の天国です」
青年は首を傾げる。
「第七界とか第八界って何ですか」
「貴方が住んでいたのは第七界の中の世界です。第七界は天界と世界からなっています。そして、今、私たちがいるのが第八界で、第八界も天界と世界に分かれていて、ここはその天界です」
「地獄は無いのですか」
「地獄は天界の一部ですね。天界の中に天国と地獄があります。世界に国があるのと同じような感じですね」
「俺が住んでいたところが、第七界の世界の日本国で、ここは、第八界の天界の天国ということですか」
「そうですね。そして、第七界の方が第八界よりも上位にあり、時々境界に穴が開いて、第七界のものがこちらに落ちてきます」
「穴。・・・。あの亀裂のことか。あの、俺は元の世界に戻れるのでしょうか」
「残念ながらそれは無理です。境界に穴が開いても、可能なのは、上から下に落ちて来るだけで、下から上には上がれません。第七界から第八界への一方通行です。貴方が生き続けたいのであれば、第八界の世界で暮らしていくしかありません」
「女神様のお力を持ってしても無理なのでしょうか」
「私は第八界の管理神です。第七界に戻すことはできません」
「そうですか」
女神がそう言うからにはそうなのだろう。青年は納得するしかなかった。
「第八界の世界ってどんなところですか」
「そうですね。貴方の世界の歴史でいうと中世あたりの生活でしょうか。科学は発展していませんが、魔法があります」
「魔法ですか。ファンタジーの世界なのですか」
「龍や妖精などもいますからそんな感じですね」
「俺も魔法が使えるようになりますかね」
「貴方は成人してますからね。それは無理です」
「それは残念、こういう場合何かチート能力を得られるものかと思っていました」
「貴方はただ落ちて来ただけで、召喚された勇者というわけではありませんからね」
「ああ、勇者召喚とかあるんですね」
「滅多にありませんが、百年に一度ぐらいはあります。それより、貴方の様に落ちてくる人の方が遥かに多いですね」
「結構落ちてくるんですか」
「数年に一度でしょうか」
その数字が多いのか少ないのか青年には判断が付かなかった。
「ただ、チート能力ではないですが、第八界では成人すると誰でも職を与えられます。ですから、貴方にも職は与えられます。
何がいいですか、特別に、可能な限り希望のものを差し上げますよ」
「でしたら、『お天気キャスター』がいいです」
「『お天気キャスター』?何ですかそれ」
「『お天気キャスター』は、天気のことをみんなにお知らせする仕事です」
「占い師ですか」
「違います。占いのように運頼みではなく、風や雲の動き、日照時間、降水量、温度、湿度、気圧。時には海流や動植物の様子などを元に天気を決めるのです。それと、天気だけでなく、火山や地震も扱います。そしてそれらを広く住民に知らせて、住民の生命と財産を守る大切な仕事です」
青年は熱弁をふるう。『お天気キャスター』について熱く語ったのだった。
女神様は若干引き気味であった。