死後から始まる恋物語~死神は彼に恋をする~
それは彼女にとって、いつもの事だった。
生前の人間を記録し、死した後に迎えに行く。
それが死神としての業務を全うする彼女の役割だった。
だが、今回は違った。
今回の人間は彼女のストライクゾーンにハマった人間であった。
しかも今では珍しい硬派な青年に成長すると来ている。
生前はその生真面目さが災いして彼は女性との恋愛関係は疎遠であった。
だが、記録して来た死神は知っている。
彼の誠実さと優しさを……。
だから、交通事故で彼が死んだ時は目一杯、お洒落をした。
あの世で彼に少しでも振り向いて貰える様に業務用の黒いローブではなく、白いワンピースを着た。
髪型も変なところはないか、手鏡を手に何度も確認した。
そして、その時を迎える。
"ああ。俺も異世界転生してみてえな"
『武さんは異世界転生に興味があるんですか?』
これが彼女が彼ーー北条武と初めて言葉を交わす一言だった。
そして、これが武の死後から始まる恋の幕開けでもある。
二人がどんな物語を描いて行くか、それはまた別のお話。