センディール防衛戦
まだ日の出を迎える前に目が覚めた。
首もとがちりちりとする異様な不安を伴う違和感がさっきから消えない。本当は夜通し警備に参加する筈だったのに、結局仮眠をとるためと毛布にくるまったらあっさりと寝てしまった――筈だったのだが、どうやら冒険者の勘とやらが私に惰眠を貪る事を許さなかったらしい。
近くの枝に掛けてあった戦闘着――私の寝床は相も変わらず樹の上だ――に着替え、護身用から初めて実戦を経験する愛用の短剣を身に付け、私は急ぎ街の正門へと向かった。
「状況はどうなってますか?」
街に残った自警団の人たちからも緊張の面持ちが見て取れる。その中でも統率担当の人はてきぱきと指示を飛ばしながら、状況を報告してくれた。
「ああ、先程山の方で何かの唸り声や遠吠えが聞こえたんだ。間違いない、そろそろ来るぞ!」
「街の皆は?」
「ああ、その点なら問題ない」
……と言い終わった瞬間、街の中心部の方向から小走りで団員が数人駆け寄ってきた。
「件の山の方角に位置する方面にいる住民には事前に説明しまして、先程被害が及ばない想定の場所まで住民全員の避難が完了した所です」
それを聞いた今回の指揮官は軽く頷き、再び説明を続けた。
「こんな緊急時だ、避難した者達はおちおち眠れないだろう。そして都合の良いことに……今回は良いかどうかは解らないが、うちの街の情報伝達はあっという間に行われるからな、自主的に避難してもらえるなら尚更良い。勿論街の外で迎え撃ち、獣一匹たりとて侵入させる気はさらさらないがな」
頼もしい言葉を残し、指揮官は迎撃部隊を連れて街の外に陣取りに行った。団員の士気も高いし、これならかなり善戦してくれそうだ。ちなみに自分は街の正門で万が一前衛が敵を取りこぼしてしまったときの防衛を任されている。
◇
正門に向かいながら、私は今回の戦いが終わった後どうすべきか考えていた。
ここに来て数週間、この街には随分と世話になった。喫茶店の手伝いにも慣れ、街の人達とも交流し、昏睡するまで独りぼっちでひたすらに当てもなく彷徨う必要もない。
自分の住む場所を追われて、逃げるように旅を始めて、世界を知りたいなんて子供の夢をいい機会だからと送り出してくれた両親に対して少しでも寂しさを感じないなんて事あるはずないのに、今は安心して過ごせる場所を見つけて居座っている。
――ほんとうにそれでいいの?
元々冒険家だった父さんは口癖のように、「いくら安全でも、何故かそこにずっと留まることが出来ない」と言っていた。あれは村のように安全が続く訳じゃない事を知っていたからかもしれないし、ただ単純に冒険に対しての好奇心が強かっただけかもしれない。
でもそんな人の子供だからこそ、先へ進みたいと言う感情がこの身を沸き立たせる。やっぱり世界を見てみたい!と。
そんな訳もあり、この戦いが終わったらそろそろ次の旅へ出るつもりではいた……が、その前に何としてでもこの街は守り抜いてみせる。絶対に私の村の二の舞にはさせない!
そうやって短い思い出と共に集中力を高めていたその時、少し遠い所から自警団の人達の勇ましい雄叫びと共に剣戟の金属音が聞こえてきた。
「おらっ、先頭の奴らは抜けたぞ!後ろの奴も前に出てこい、一気に突破するぞ!」
少し遠くで荒々しい声が聞こえてきた。どうやら一部の敵がついに前線を突破して正門のところまで攻め込んできたようだ。だが生憎此方にも十分な戦力がある、ここでくい止めてみせる!
獣と共に駆け寄ってきたゴブリン達に向かって、私はせいぜい脅かすように言い放った。
「止まりなさい!あんた達全員ここで脱落させてあげるから!」
――言い放ったつもりだっのたが、先頭を走るゴブリンは一瞬訝しげな表情を作り、後続の獣を立ち止まらせてから律儀にもこちらへ言葉を返してきた。
「なんでこんな女のチビが戦いに紛れてるんだぁ?さっさと家に帰って閉じこもってな!」
「んなっ……話ができるかと思いきやいきなり煽ってきた……」
「それともなんだ?ガキの力を借りなきゃいけないほど手薄なのかぁ?」
「うぐぐ……好き放題言ってくれて……子供だからって馬鹿にした事、絶対後悔させてやるんだから……!」
などと熱い(?)前哨戦が行われている内に、他の皆は背後で指示を受けて戦闘態勢に入っている。
「突破されない程度に陣形を広げろ、相手が標的を分散してくれれば対処できない相手ではない!」
初の実戦で緊張していた身体を、静かに深呼吸をして和らげる。少し離れたところで戦っている前衛に気を向けたくなるのを堪え、意識から遮断し、目の前の敵に集中する。大丈夫、きっと勝てる――
私は気を引き締めて、街の入口を守る文字通り最後の砦となる自警団の団員に向けて戦いの始まりを告げた。
「――防衛戦、ここを守れば明日には街の皆もいつも通りに生活できます!さっさと片付けちゃいましょう!」
「――やっちまえ!噛み殺しても構わん!」
ゴブリン側も、こちらの戦闘開始を機に一斉に向かってくる。私は獣を纏め上げている大将格のゴブリンに向かって、接近戦を仕掛けるべく正面から突っ込んでいった。
お読みいただきありがとうございます
誤字脱字間違った表現等は随時修正していこうと思います|ω・)ノ




