第五十七話 「準備は進む」
「死神……だと?」
死神。それはいつだか聞いた事がある気がする。それがどこだったか、そして聞いた話の内容が何で合ったかまでは思い出せない。
「ご安心を、危害を加える気はありませんよ?」
その証拠に、襲い掛かる悪夢を蹴散らし、結果的に俺達を救ってくれている。
信用……して良いのだろうか。
「ふふっ、もしも、貴方と縁があれば、僕と必ず、再び出会うことになるでしょう。それでは」
そういい残し、来た道を引き返していた。
次の瞬間には、もうその姿が見えなくなっていた。
「なんだったんだ……いや、それよりも真のほうだ。大丈夫か!?」
真はダメージがあるが、まだ大丈夫そうだ。
俺は携帯電話で涼に連絡し、真の回復のために涼のところへ行くことにした。
***
翌日、学校へ向かった。
真は昨日、すぐに回復し、今では何の問題も無い。
悪夢がいきなり襲ってきたことについては、悪魔が接近していることで、悪夢のバランスが崩れたとか、そんなことを言っていた。
だが、真を狙わず、俺だけを狙ってきたことや、死神という存在については詳しくわからないそうだ。
そんな考え事をしながら、授業が進み、気がつけば放課後になっていた。
「やっほー、金城君、今日は残るよね?」
教室を出ようとしたところを、大竹につかまった。
「え? ああ、ちょっと用事が……」
用事なんて無かったけど、なんとなく学祭の雰囲気にはなれなかった。
「そんなことじゃ、本番上手くいかないよ! ほらほら、主役みたいなもんなんだから!」
半ば強引に教室に押し戻され、学祭の練習が始まってしまった。
「はぁ、まぁ仕方ねぇか。ところで桜井は?」
同じく主役級の桜井が居ないと、練習も上手く行かない気がするが。
「ああ、優希は買出しに行った」
「何でだよ、そういうの裏方の役目だろ!?」
「衣装は本人も見て選んだ方が良いでしょ? さぁ、金城君は台詞を覚えましょう」
そういえば、台本なんてろくに目を通していなかった。
台詞を覚えるのに悪戦苦闘した。
しばらくすると、買出しから帰って来た桜井も交えて、一通りやってみることになった。
「はい、じゃあ台詞三十五番から! はい!」
監督みたいに、大竹が、手をぱっちんと鳴らし、練習が始まる。
場面は、踊っているジュリエットを一目見たロミオが賞賛の言葉を言い、甥のティバルトに聞かれてしまうという所。
「『なんと! その人は松明に明るく燃えているかのようだ! 黒人が身につけている宝石のように、夜のやみのなかで際立っている! その美しさは地上においておくにはあまりに高貴すぎる!』ってどんだけべた褒めすんだよ!」
半ば、一人ノリ突っ込み。急に背筋が暑くなった。
「いいよいいよ! そこで更にロミオのダメ押し!」
明らかにノリノリの大竹に促され、俺は台本をめくり、台詞を読む。
(ダンスが終わり、その女性が立っているところを見つめた。仮面をつけていたので、多少の無礼は許してくれそうだったので、手をとった。)
「『君の手は聖地のようだ。僕が触ったことで、穢してしまったのであれば、償いのためにキスをさせて欲しい!』ってただの変態じゃねぇか!!」
「えー? だって原作でもそういう感じで……」
「言い方が違うんだよ! これじゃ無理やりキスを迫ってるだけだろ!」
俺は桜井の手をとりながら、とんでもないことを言っていた。演技でも恥ずかしい。
「……いや、そこでお前も顔を赤らめないでくれよ」
「ええっ? いや、えっと……『キスはいけませんわ!!』」
素っ頓狂な声で、桜井は台詞を叫んだ。
なんだか、先が思いやられた。
***
「はぁー、とんでもなく疲れた……」
学校祭の練習も終わり、俺はやっと帰路につくことになった。
辺りはもう夕暮れ、秋が深まり、日がくれるのも早くなってきた。
「いいじゃん、良かったよ。『キスをさせて欲しい!』、だって。ふふっ」
「だから笑うな! 俺だってあんな台本……」
そもそも台本を書いた大竹の語彙力に問題があるだろう。
「そんなところで守護霊と大声で話してると、傍からは独り言に聞こえるわよ?」
振り向けば、後ろから藍那が追いかけてきた。
どうやら、同じく学校祭の準備で残っていたらしい。
「なんだ、おまえか」
「なんだって何よ!? それよりも、教室の外からちょっと見たけど、酷い演技だったわねぇ」
「なっ、聞いてたのかよ……」
出来れば忘れて欲しい。だが、藍那は弱みでも握ったかのようにニヤニヤ笑っている。
「そっちは何やんの?」
「私は教室展示、いいでしょ?」
ちっ、なんだかんだで、こいつも恥ずかしい演技をやるのかと思ったのに。
「そんなことより、アンタ、昨日悪夢に襲われたんだって?」
「ああ、涼から聞いたのか」
「実はね、私たちのほうにも来たのよ。悪夢の群れが」
「無事だったのか?」
まあね、と答える藍那。それにしても、昨日、ほぼ同じ時間帯に同時に悪夢に襲われるというのは、やはりただ事ではない気がする。
「他に被害者とかは居ないのか?」
「うん、生徒ではいないみたい。涼が調べてるけど、街でも被害は出てないみたいよ。ただ、やっぱり悪夢の数自体が増えてるみたい」
俺のときほどの大群ではないにしろ、悪夢が増えて人を襲うようになってるということか。
悪魔の接近といい、最近はおかしなことが多い。
「まぁそれでね。またアンタが襲われたりしないように、一人で歩くのは絶対ダメ。それから出来る限り、悪夢と戦える人と行動すること、だって」
「悪夢と戦える人?」
それはつまり、守護霊が見えるってことか。
それなら、大分人数が限られてくるような……。
「そ、だから特別に私が登下校を一緒に居てあげる。良いでしょ?」
確かに、リリスの戦闘能力は心強い。
「……仕方ないな」
「ちょっと、その間は何? 不満があるわけ?」
「いいや、うれしいよ。ありがとう」
「ちょ、そ、そう。よかったわね」
微妙な返事をして、藍那は先に歩いてしまった。
「待てよ、先に行ったら意味ないだろ!?」
俺は急いで藍那のあとを追いかけた。




