第五十三話 断章 「教師決闘物語 下」
森眼の放った袈裟切りを喰らえば、國酔は一撃でやられてしまうだろう。そして、國酔にはその一撃を受け止める刀が無い。
勝負は決まったかのように見えた。
「ぬ?」
森眼には、確かに手ごたえはあった。
しかし、その刀は、完全に止められていた。
「まさかこのように使えるとは われながら天晴だな」
國酔は確かに森眼の袈裟切りを受け止めていた。その手烙印を発生させて。
普段は足場として、足の裏に発生させていた烙印だったが、今回は違い、手のひらの前に発生させた。そして烙印は、さながら盾のように國酔の体を守った。
「カカッ、やはりそうでなくては面白くないのう」
國酔が真横に素早く飛び、吹き飛ばされた刀を拾う。
森眼も構えなおし、勝負は仕切りなおしになった。
(國酔、石膏像だ)
榎本は國酔に思想を伝える。
國酔もそれに頷く。
森眼は不自然に石膏像に対して手を止めた。それはやはり、石膏像が守るべき対象であるからなのであろう。それを利用しない手はない。石膏像を背にして戦えば、森眼の異常に長い刀による突き返しを軽快する必要が無くなる。
(状況からみてやはりチャンスは一度、一撃で仕留めるんだ!)
榎本の意思を汲み取り、國酔はまず、上に跳ぶ。空中戦は國酔の得意分野だ。そして、森眼も追いかけるように上に跳ぶ。彼は飛ぶ術を持っていないため、ホテルの壁を蹴りながら國酔に並ぶ。
月を背にして、お互いの刀が交錯する。
金属の弾ける音が鳴り響く。
國酔は更に上へ飛ぶ、それを逃さず、森眼も上へ飛ぶ。その刹那、急に國酔は折り返し、上へ上る森眼とちょうど下へ降りる國酔が激突する。
「カカカァ!! 面白い!」
この挑戦に森眼は躊躇なく突きを放つ。
刀は長い。森眼が勝つはずだった。しかし、國酔は烙印を発生させる。
突きはまるで地面に突き刺さったが如く切先が止まる。
その痛恨の隙を狙い、國酔の刀が襲う。しかし、森眼は逆に受け止められた刀を利用し、身を手繰り寄せ、その國酔の一撃を回避する。
位置が逆転した。
森眼は更に、國酔の烙印を利用し、上から打ち落とすような斬撃を放つ。
國酔は身を翻し、森眼と向き合う。
「カカッ。お仕舞いじゃあ!!」
叫んだ途端、國酔の肩越しの地面に、石膏像が見えた。
(カッ、そういうわけか……侍の癖に卑怯なやつめ!!)
「ふふ どうする 」
森眼は躊躇無く、刀を振り下ろした。
石膏像などお構い無しに。
自分の任務より、勝負を取る。一生に一度のこの勝負を、そんな終り方で終りたくない。
それが彼のプライド。
刀だった。
「ふん 熱くなるなよ 」
瞬間、森眼の額を刀が突き刺さった。
趣味の悪い、ゴタゴタがいっぱい付けられた刀。
國酔の刀が、森眼を仕留めた。
國酔は刀を投げ飛ばしていた。いくら森眼の刀が長くとも、投げてしまえば関係ない。
一撃で、勝負は決まった。
「不覚……カァ」
森眼は石膏像に激突し、消滅した。
そこには、異常に長い刀が残っていた。
「國酔、ご苦労だった。この刀はどうやら霊体ではなく、実物のようだな」
そういうと、國酔おもむろにその刀を拾った。
「ふん、好きにしろ」
榎本は興味なさげに背をむけ、歩き始めた。
「行くぞ、他の石膏像もとりあえず破壊してやる」
榎本は何気なく上を見上げた。
月明かりに照らされるホテルの屋上には、なにやら不穏な気配を感じた。
「御意」
國酔もそれに従った。
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修学旅行も最終日を迎えた。
もう残りは小休憩に立ち寄る公園しかない。生徒はそれぞれ、気の合う仲間たちと遊びまわっている。餓鬼どもめ。と榎本は内心で呟く。
ちょうど川の脇に少年が一人、座り込んでいる。
おそらく、今回も、奴がからんでいたのだろう。
一人の生徒が消えた。
そいつは榎本に対して何の気も無かったのだろう。だからホテルの外に居たことを忘れて居たのだ。
なんとも心外である。
「餓鬼が……」
一人、川の脇に座る少年の背中を一瞥し、榎本は生徒の見回りを続ける。
「本当に、餓鬼だな」
榎本は何も言わない。
生徒の問題は自分で解かせる。
それは彼の教育のスタンスだからだ。




