第五十二話 断章 「教師決闘物語 上」
見学旅行二日目の夜。まだ、上谷の計画が実行される前のひと時。
ホテルのロビーで新聞を読みながら休憩していた榎本のもとに、守護霊である國酔が報告にやってきた。
「どうした?」
「今 ロビーから生徒が外に出たぞ」
國酔は、榎本に代わって生徒の監視がいつもの役割だ。たまに生徒の中にも霊に関わっているものが居て、そいつが霊を使ってカンニングのような不正行為をしたりする。それを罰するのが榎本の役目だ。と本人は自負している。
「解った。見に行こう」
生徒は、教師が居ないと思ってハメをはずす、しかし、実は國酔に見られていて榎本に報告が行く。そんな仕組みが出来ていた。
そして何より、榎本はそうやって手柄を得るのが楽しかった。
ホテルのロビーは、フロントに受付の人が居るが教師ではないため、生徒が外に出ても何も言わないだろう。
すなわち、外に出るのは容易いことだっただろう。
「誰だか知らんがとっ捕まえて朝まで正座でもさせるか……」
いやらしく眼鏡を押し上げ、ホテルを出た。既に日が暮れていて月が出ていた。
榎本は夜が好きなので、今日みたいな天気は最高だった。
「ん……? 気のせいか? いや、一応……國酔! 外を偵察してくれ」
なにやら不穏な気配を感じた榎本は、國酔に命令した。そうすることで生徒を捜す能力は少し落ちるが、生徒はどうせたいした奴ではないだろう。と踏んでいた。
國酔が暗闇の中に飛び込んで行き、見えなくなった。
榎本は再びホテルの周りにある遊歩道を歩き始めた。
ちょうどホテルの周りにある石膏像の辺りまで来た。そこで、一瞬だが人影が見えた気がする。だが、そんなことよりも山の際に確かに、生徒が一人、たたずんでいるのが見えた。
石膏像を通り過ぎて、山の際まで駆け寄る。
「貴様、そこで何をしている?」
さっそく近づいて声をかける。
生徒は、担任しているクラスの上谷竜那だった。
「おや、先生。すいません、僕ちょっとやらなければいけないことがあるんで。眠ってくれますか?」
「!?」
榎本はただの生徒と思って完全に油断していた。その隙を突かれ、首筋を後ろに居たマリオネットに叩かれ、視界がグラリと回り、地面に突っ伏した。
「くっ……、まさか」
「じぁあ、先生。そこで見ていてください」
そういい残して、上谷は榎本の視界から消えた。
そして、榎本の意識も闇へ落ちた。
「主 主 お目覚めください」
次に榎本が気がついたのは、國酔に揺すられていた。
「う、……。くそっ、私が後れを取るとは」
起き上がりつつ時計を確認する。あれからは実質二十分程度しか経っていない。
「急ぐぞ、奴に制裁を下す!」
國酔は頷きついて来る。
榎本は授業中などの仕草で、生徒が霊と関わっているかは調べてあるが、上谷はそれまでそんな仕草は見せなかった。
この日のために周到に用意されていたらしい。
「む?」
入り口まで来たところで違和感に気がついた。
「フッ……舐められたものだな」
いつの間にか榎本たちを囲うように悪夢が出現している。
それらはすべて鎧をまとっていたり、着物を着た侍であったりする、そして全員が刀を装備していた。
「國酔、思い知らせてやれ」
「御意」
國酔は刀を取り出した。趣味の悪いゴタゴタがいっぱい付けられたその刀。しかし切れ味は本物だった。
國酔は、刀を構え跳躍する。得意の神速の突きが、手前にいた悪夢の胸を突き刺し、そのままの勢いで後ろに居たもう一体まで貫通する。
しかし、技を放った後の隙を狙って一斉に辺りの悪夢が襲いかかる。
「浅はかな 」
國酔は真上に跳躍、そして空中で烙印を発生させる。
國酔の烙印は、空に円を描き、それを踏み台として利用できるというもので、これを利用すれば高速の空中戦をすることが出来る。
そして、空からの打ち落とすような突き。その直後に宙への跳躍を繰り返す、ヒット&リリースで確実に悪夢の数を減らす。
「ふん、雑魚どもめ……」
國酔の猛攻により、悪夢は全滅した。
「カカカッ、愉快な侍も居るもんよのぉ」
はるか上のほうから、鳥が鳴くような笑い声が響いた。
「む?」
見ると、ホテルの三階ほどのバルコニーに、一人の侍が立っている。
そして彼は飛び降りてきた。
「カカッ、わしの名前は森眼。気高き侍よ。おぬしら、とても愉快な戦いをしよる。手合わせ願いたい」
変な喋り方のこの侍は、髪の毛が真っ黒で、後ろになびいている。さながら翼のようだった。
「了解 抹殺する」
國酔が前に踊りだし、森眼が抜刀する。その異常な長さの刀に、思わず榎本も身構える。
「いざ尋常に勝負」
森眼が大きな刀で薙ぐように斬る。しかし、國酔にはそんな軌道の斬撃など避けるのは容易い。
すかさず反撃の突きを繰り出すが。
「もらったぁ!」
森眼も國酔に突きで返す。
技の出や威力などは完全に劣るものの、森眼の刀は異常に長い。このまま行けば國酔の刀は届かない。
「くっ 」
間髪いれず足元に烙印を発生させ、上に跳躍する。
すんでのところで回避するが、國酔自慢の突きが完全に攻略されてしまった。
「おやおや、逃げるとはのう。おぬしにその力が無ければ既に死んでいたの」
完全に余裕を持つ森眼の態度に、國酔のプライドは傷付けられた。
しかし、ここで逆上し、ヤケにならないのが國酔であった。
「わしから行くぞ!!」
森眼がすかさず連撃を放つ、國酔は刀でそれを受け止めるが、一発一発の威力の重さは異常だった。
そのまま力で押されてしまえば、勝ち目は無い。
「ぬん」
一旦距離を取る。しかし森眼の攻撃が止むことは無く、距離を詰められ、追い詰められる。
「カッカッカ、所詮その程度か」
森眼の振り下ろした刀を、國酔も刀で受け止める。
鍔迫り合いになったが、森眼はひじを引いて、素早く刀をスライドさせる。刃を地面に水平に向け、横に振る。
その剣風で國酔の刀が吹き飛んでしまった。
「不覚」
「カカァ!!」
その隙に森眼は攻撃を仕掛ける。國酔は完全に防御に回り、どんどん追い詰められる。
やがて、石膏像に背中がぶつかった。
(國酔……まずいぞ!)
見てることしか出来ない榎本は、心中で叫んでいた。
「カカッ、っと」
しかし森眼は斬撃を止め、拳で國酔に攻撃した。しかも、回避されるとすぐに拳を止めた。
「!? 石膏像か?」
森眼の意味深な行動に榎本は何かを悟ったが、状況は何も変わらない。
「ぐおおおっ 」
途端、森眼の突きが、國酔の腹部を貫いた。そして刀を振りまわし、國酔は地面に叩きつけられる。
「止めじゃあ!!」
森眼の袈裟切りが國酔を襲う。
番外編榎本編です。
長くなりそうなので二話に分かれました。




