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第五十一話 「道標」

 修学旅行もとい見学旅行はあと一箇所だけ目的地を残し、終了に近づいていた。

 残る一箇所は、小休憩のために立ち寄る大き目の公園で、真ん中を川がぶち抜いている形をしている。

 

「はい、それじゃあ三十分後にバスに戻ってくださいね。飛行機に乗り遅れますから」

 係りの生徒の呼びかけに、それぞれぞろぞろとバスを降りる。長い時間乗っていたので体があちこち痛む。

 痛いのは、それだけが理由という訳ではないかもしれない。

 俺には、わからない。


「おい、京平。何があったのか知らねぇけど、最後ぐらい元気出せよ」

 秋元の呼びかけにもうつろな声で「ああ、」とかいったと思う。


 ホテルの一件は何事も無く、誰にも悟られること無く消滅した。

 壊れたホテルの外見は俺と真で烙印を使って直した。霊力はいくらでもあった。藍那も、藤崎も時間が経つと意識が戻り、特に異常は無かった。見た感じでは。

 しかし、一つの齟齬が生まれていた。

 上谷の記憶が誰にも無かった。

 それが彼の意思だったのか、それとも自然の摂理だったのか、俺にはわからなかったし、どうしようもなかった。

 真は覚えているらしいが、ハッキリしないらしい。つまり、覚えているのは俺だけだった。

 

 とにかく気持ちの整理が出きず、残った見学旅行の日程をないがしろにし、友達相手にもろくな対応が出来なかった。

 今は……何も変わらない。

 時間が……遅い。


 誰かに声をかけられるのが嫌だったから、とにかく一人になりたかったから、川の際にある、新緑の色をしたゆるい坂に腰掛けた。ここからは川が一望でき、自然と独りになることが出来た。

 真も声をかけてこない、それでも最低限の距離を保っている。

 俺は、どうすれば良いのだろうか。

 俺も忘れるべきだったのだろうか、それとも、ずっと引きずっていくべきなのか。俺にはどちらも苦しかった、答が欲しい。

 これからの学生生活、その一瞬一瞬を、彼はそこに居た、でももう居ない。そんな気持ちを持って生活するのだろうか。

 俺は死んでからの彼しか知らない、だけれども、それだからこそ、俺はどうすれば良いのかわからない。死んだ人が元、あるべき形に戻った。それだけのことが、これほども悲しいのか。

「馬鹿野郎……何も、無いじゃないか、」

 独り言を呟く、それは、川のせせらぎに流された。


「あ、こんなところに居た。ちょっと、そこのアンタ。そんなところでいじけてんじゃないの!」

 藍那が俺の後ろから声をかけてきた。

 当然、彼女も上谷のことは記憶に無い。ただ、ホテルを襲撃した悪夢を退治した。ということしか覚えていない。

 俺と並んで腰を下ろした。

「なんだよ、悪いけど用が無いなら……」

「バカ。なんかあったんだったら相談でもしたら? 最近ずっとそんな感じでしょ?」

 そう、いつもと変わらぬ調子で俺にとやかく言ってくるところは、ありがたかった。でもそれでは何も解決しない。

「悪い。お前に言っても意味が無いんだ」

「ふ~ん、そう。……もしかして恋の悩み? フラれたとか!?」

 藍那も、無理に俺を励まそうとしていたが、無理だと悟ったらしく、諦めて立ち上がった。

「でも本当になんかあるんだったら、私でよければ頼りなさいね。わかった?」

「ああ、ありがとう」

 珍しく素直な俺に面食らいながらも、藍那は俺に背を向けて歩き出した。


 また、一人に戻った。


 もう、けじめをつけるしかないのだろうか。

 仕方ないことだったと割り切るべきなのだろうか。

 それも違う気がするし、絶対に違うとも言い切れない。

 俺自身、どうしたいのか。


「金城君、隣、いい?」

 いつの間にか桜井が俺の隣に立っていた。

 さっきまで藍那が居た場所に、同じように腰かけ、おずおずと、気まずそうに話かけて来る。さしずめ大竹辺りの指示だろう。

「何か用か?」

 藍那の時と同じように対応する。

「あのね、ずっと元気ないから、何かあったの?」

 藍那と違って桜井は一切事件に関わっていない。だからなのか、俺も遠まわしに言ってみたくなった。


「大切なものを……無くした。見失った。どっかに忘れたのかもしれない、でも、俺にはもう見つけられない気がするんだ」


「ふぅん、でもそれって何をなくしたの?」


「何だか解らない。だから、困ってるんだ」


「私にはよくわからないけど、でも、それを無くしたことで君が悲しむのはそれにとってもうれしくないんじゃないのかな?」

 上谷は、確かにそう言うだろう。自分のせいで起きた事件だから、君は悪くない。なにも悲しむ必要は無い。と。


「それに君もとってもがんばって、それもとってもがんばって、その結果なら、胸を張って、誇っても良いと思いますよ」 


みんなを救うことが出来たんですから。


「えっ?」

 桜井は微笑んでいた。

 ただ、笑っていた。


***


「はぁ~、疲れたぜぇ。まぁ、明日から休みだしな。京平、どっか遊びにいかねぇ?」

 秋元のやる気を削ぐ誘いにも

「とりあえずサークルに報告に行くわよ! ほら、もたもたしてないで」

 藍那のやかましい呼び声にも

「よかった、元気出たみたいだね」

 桜井の小さく言う独り言にも

「京平、どうするの?」

 真がささやいた俺の名前にも


 俺は、少し元気を出して答えることにした。


「ああ、わかってるって」

 上谷だって、俺が立ち止まるのは見たくないって言うだろうな。


「行こうぜ」


 


 長かった、ずいぶん長かった四章が完結しました。

 四章だけでもう小説全体の半分はありますが、ちゃんと終ることができよかったです。

 若干、終盤は息切れしてますが、大目に見てください……


 そんでもって、次の章が最終章になる予定ですが、いかんせん内容がまとまってないのでしばらく間が空くことになりそうです。

 そんでもって、(二回目)別作品も書きたいなぁとおもっちゃったりなんだりしちゃったりしてしまいましてます。

 そんでもって、(三回目)今はこの辺りで勘弁してください。




では、また。


 ご覧くださりありがとうございました!

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