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第四十九話 「リミット」

 上谷は死人だった。その事実は俺の中を静かに駆け抜けた。

「な、何を言ってるんだよ……お前は、今、ここに居る」

 この状況でも俺は懇願するように上谷に問いかけた。だが、彼は肩をすくめて、鼻で笑って返した。

「僕は悪夢だ。事実、僕は初めて君と出会う前に死んでいる」

 信じがたい事実だった。俺と出会ってからの日々、彼は本当は既に死んで、この世に残された残滓が俺とともに行動していたのだ。


「これで辻褄が合ったわけね、やっぱりその子が犯人で間違いないわ」

 藤崎が口を挟んできた。

「そうです。僕はこの事件の首謀者、そして莫大な霊力を得て人間に生き返る。その踏み台に君達はなるんだ。その為には邪魔はさせない」

 言った途端、上谷の手には黒い斧が握られていた。斧は黒い宝石のように黒光りし、刃というものが見られなかった。

 次の瞬間、上谷は斧を振り上げて藤崎の前に立っていた。

 そして、気づいたときには斧が振り下ろされていた。


「藤崎!!」

 俺はただ、見ることしか出来なかった。真は床に崩れたままピクリとも動かない。リリスはマリオネットと格闘し、セーレは気を失っている。藍那もただ、見るだけの無力な存在だった。


 首を刎ねられた藤崎は、そのまま崩れ落ちた。

 しかし、よく見ればその頭はまだ体とくっついている。どうやら意識だけを刈り取ったようだ。


「さあ、次は君だ」

 上谷は、斧を投擲した。その斧は直線軌道で藍那の胸を貫通した。まるで操り人形の糸が断ち切られたかのように彼女は崩れ落ちた。


「畜生、お前はどうしてそこまでして生き返りたいんだ!?」

 俺はもう支離滅裂ぎみになっていた、それでも上谷に止まって欲しい、その一身で叫んでいた。

「どうして? 、いいだろう、君だけに教えてあげよう。いや、君だけに聞いて欲しかった」

 だから邪魔者は消した、とでも言いたげな顔をした。

 現在、俺には上谷を止める力も無い、それに生霊の理は時間と条件がそろえば発動してしまう。時間稼ぎは上谷にしか有利だった。

 しかし俺には話を聞く以外選択の余地が無かった。

「僕は生前、片田舎の普通の少年だった。家は貧しかったが学校にも普通に通っていた。君にもわかるだろう? 母と二人暮らしだった。でも僕は幸せだった、少なくとも生きているうちは」

 上谷は懐かしむように話し出した。俺はその話を聞き続けた。

「でも悲劇はあっさりと起きた、学校帰りにもう日が暮れていた。僕は青信号を渡っていた。そこに一台の車が走ってきた、夜には街灯もつかないそんな片田舎、僕は気が付くと自分を見下ろしていた。

 車に轢かれてぐちゃぐちゃになった自分をね」

 そこまで、上谷の声はひどく冷静で、何かの報告をしているだけのような雰囲気だった。

「じきに夜が明け、人が僕達を囲った。警察と救急車が送れてやってきて、僕を残して僕を運んでいった。最後に母が来た。唯一の家族であり、僕の事を一番愛してくれた人。彼女は何故か、僕がさっきまで倒れていた場所で泣き崩れた。僕はただそれを見下ろしていた。

 僕にはわからなかった、自分はどうしてこうしているのか。死んだのか、生きているのか。死んだとしてもその実感は無い、死を受け入れることが出来ない。そんな状態が一週間ほど続いた。その間僕はずっと事故現場で立ち尽くしていた。母は毎日僕のところに来て、花を添えて、お祈りをして、泣きながら帰っていった。

 ところがある日、彼女は来なかった。その次の日も、それからずっと、彼女は来なかった。彼女は僕を忘れようとしていた。苦痛ぼくから逃げようとしていた。でも僕はどうしたら良いのかわからなかった。

 そんなある日、彼に出会った。彼は囁いた、『生き返りたいのか?』ってね。」

 上谷の話す『彼』が誰なのかわからない。ただ、今はそんなことどうでも良い。


「僕は彼の言うとおりに動いた、まずは僕から目をそらした母を殺した。その次は仮初、うわべだけだった友達を吸収した。そして彼の計画……生霊の理を発動させる準備に取り掛かった」

 上谷は事も無しげにいった。


「てめぇ……どうしてそんな簡単に殺せるんだよ!!」

「簡単じゃない!! 、今でも哀れにも引きずっているんだ、断ち切りたいのに!!」

 上谷はそういいながらマリオネットを見た。

 人間の白骨で出来たその体。それは紛れもなく本物の白骨。


「マリオネット……僕の母を使ったよ、この計画では人間に成りすます必要があるからね。守護霊は必須だ、人形で作られた守護霊がね。

 それから僕はとある学校に忍び込むことになる、生霊の理は箱と精霊像の準備が必要だ、つまり準備は目立たない方が良い、それでいて発動時は人が多く集まる場所が必要だ。それにはホテルがちょうど良い、更に修学旅行が重なると確実だ。

 条件に合う学校、それが君のいる高校だった。僕の使命はそこでの敵情の視察。それには神社でヒシカを利用した」


「アレも……お前の演出だったのか」

 確かに、街でわざわざ退治に行くなんて俺達ぐらいしかいないだろう。

 しかし、よく考えればその情報はその日、たまたま転入してきた藍那が教えてくれたことだった気がする。

「少し計画が狂いましてね。もともとあの役はヒシカではなかったのですが。裏切り者に僕が制裁を与えるはずが、結果的にあなた達が釣られたわけですね」

 計画上には無かったが、結果的には俺達の情報がばれてしまったのか。


「それからは退屈な日々だった。人間のふりをして、君達を観察していた」

「それが今日で終るって言うのか」


「僕は人間になる、そのために君達は消滅するんだ!」


「馬鹿野郎……なんで、そこまで人間にこだわるんだよ」

「わからないのかい? 人間と霊には決定的な違いがある。生きているか死んでいるか、というね。でもその差は大きい。決定的なんだよ、君にはわかるかい? 死んでいる人間の気持ちが!! この数ヶ月、何も知らずに接してきた君達がどれほど僕を苦しめていたかなんて!!」


「ああ、知らねぇよ。だがな、俺からはお前が苦しんでいたなんて思わない。これまでのお前の笑顔は嘘じゃない!!」


「君に何がわかる!!」

 それと同時にマリオネットのベルトが俺を目掛けて射出された。俺を守る人はもういない。抵抗できずに俺は攻撃をすべて受け入れた。

 受け入れてなお、俺は立ち続けた。

「ほら……手加減している。お前は俺を殺せない!!」

「調子に乗るなァ!!!」

 今度は上谷が黒い斧を取り出し、一瞬で俺の前まで来た、次の瞬間には俺を鋭い衝撃が襲った。

 簡単に吹き飛ばされ、転がる。

 しかし、俺はまだ立ち上がることが出来た。

「お前はまだ忘れることが出来ない、これまでの数ヶ月、お前は人間とか、霊とか、死んでるとか生きてるとか関係なかったんだ。それぐらいに俺達と過ごしてきたんだ。俺には霊のいる生活は当たり前だ、だからお前が死んでいたって関係ないんだよ!!」

 俺は渾身の一撃の拳を上谷の顔面に放った、上谷は抵抗なく吹き飛び、精霊像に激突した。


「帰ろう。こんなふざけた腐れ野郎の被害妄想なんて抜け出して、俺達の住む世界へ帰ろう。な、上谷」

 差し出した俺の手に、握り返して来る弱弱しい手。

 上谷は上谷。死んでいても、霊でも関係なく、彼は彼だ。

 今からでもまだ、俺達の日常に帰る事ができる。

 そう、信じていた。


「……ずるいですよ、本当に君はずるい。君のせいで……また帰りたくなってしまったじゃないですか……」

 彼は泣き言のように呟いた。そして、俺の手を借り、立ち上がった。

「でも、遅すぎたんですよ。もう引き返せない、僕の意思に関係なく生霊の理は発動する」

「なに!? 精霊像を壊せば良いんだろ?」

 生霊の理は満月と十二時、そして精霊像があれば発動してしまう。しかしそのどれかが欠ければ発動を阻止できる。

「精霊像には結界が張られています、この結界を解くには、ホテルの周りにある四つの精霊像を壊す必要があります」

 ホテルの周り、ちょうど藍那とホテルの外に出た時に見かけた奴だ。

「しかし、それを壊しに行くには入り口の結界を解く必要があります、そして入り口の結界はこの屋上の精霊像を壊す必要があります」

 二重の結界、これにより完全に閉じ込められていた。

「さらに、僕が勝手に結界を解き、生霊の理を阻止したとしてもホテルの中の人は助からないでしょう」


「どうしてだ!?」

「ホテルの中には多くの悪夢がいます、彼らは僕の手下ではなく、同じ目的の元に集った同志です。彼らもまた、生霊の理によって得られる莫大な霊力を求めています。元々僕一人で手におえる量では無いのです。そして今、彼らがホテルの中の人を傷つけないのも、生霊の理の為でそれが失敗したとなれば好き勝手に吸収し始めるでしょう」


「どうすりゃ良いんだ!? 阻止できても奴らが暴れたら意味ねぇだろ!!」

「だから……遅すぎたんです、どの道結界が解けなければ意味が無い」


遅れてすいません、これからがクライマックスです。

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