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第四十八話 「死人」

 最初に攻撃を仕掛けたのはセーレだった。烙印の力によってこの空間の支配を得た彼は空気中の水分を凝結させ、巨大な氷柱を作り出す。

 それは砲弾のようにマリオネットを目掛け射出される。

 空気を裂く、鋭い音が駆け抜け、氷柱はマリオネットに激突する、だが、マリオネットに届くほんの数センチ手前で、停止してしまう。

 見れば、氷柱はマリオネットのベルトが蜘蛛の巣のように何重にも絡みつき、完全に受け止められていた。そして氷柱は投げ返される。

 途端、氷柱は蒸発して消え去ってしまった。


「反撃、と行きましょうか……」

 今度はマリオネットの腕から伸びたベルトが幾重にも重なり一つの槍を形成する。一直線にセーレを貫こうとするが、地面から氷の壁が反り立ち妨害する。だが、それでも槍は轟音をあげて氷の壁を破壊した。

 セーレは身を捩って回避するが、今度はマリオネットが槍を鞭のように振り回し、セーレの脇腹に強打する。セーレは床を転がり受身を取ったが、軌道修正した第二撃を回避することが出来ない。

「クッ、……」

 セーレは身構えたが、彼に槍が激突することは無かった、

「なにやられっぱなしになってんのよ、ほら、早く立ちなさい!」

 藍那とリリスが間に割って入り、リリスの烙印による一撃でマリオネットの槍を粉砕していた。


「ふっ、君達は本当に……」

 セーレは呟き、そして立ち上がる。

「手加減はしない。本気で君達を潰そう」

 途端、セーレの髪が逆立ち、目は色の無い群青、肌は温かみの無い、まるで天使と悪魔が逆転したかのように変貌を遂げていた。

 その背後には氷が展開され、巨大な翼のように広がった氷の柱は一本ずつで龍のようにうねり、全方向からマリオネットを襲撃する。


「マリオネット!! 構うな!!」

 上谷が叫んだ途端、マリオネットのベルトがすべて解けた。

 スルスルと、音も無く、あっけなく、それまで体を覆いつくし、ミイラ男のように象っていたベルトがすべて解けた時、その中が姿を現した。


 一体の骸骨。

 本当の人骨に見えるそれは、泣いていた。

 瞳の無い目から涙を流して泣いていた、すべてが一瞬で起きた。

 悲鳴にも似た叫びが辺りを包む、その衝撃でセーレの氷柱による龍は砕け散り、バラバラになった。再構成しても叫びにより一瞬で砕かれる。

 俺達には特に害が見られないが、守護霊たちには人間以上に効果があるらしく、真も耳を塞ぎ苦しんでいた。

 

「さあ……マリオネット、終らせてやれ、」

 上谷は指示を出す、その刹那、マリオネットから何かが飛んだ。それはマリオネットの肋骨、肋骨が弾丸のようにはじけ飛びセーレの肩に突き刺さった。

 息をつく暇も無く、骸骨は跳躍し、セーレの眼前に迫る。叫びをやめず、骨だけの、本来なら立っていることもできない体を糸で操られているかのように滑らかな動きでラリアットをセーレに叩き込む。

「セーレ!!」

 衝撃で仰け反り、倒れる寸前で藤崎に支えられた。

 だがその瞬間力を失ったセーレの烙印は消滅してしまった。これにより屋上を包んでいたドーム状の空間も無くなり、辺りは月明かりに包まれた。


「真、いけるか!?」

 こうしてはいられない。単体での霊力の強さではセーレが一番だった。そのセーレが軽くあしらわれてしまったのだ。

 マリオネットに勝つためにはリリスと真のコンビネーション技を活用するべきだ。


「いくよ、リリス。真と協力して」

 藍那もそれを理解し、マリオネットを改めて見る。

 ベルトが解かれた彼は細いただの白骨でしかない、だが、奴の叫びは守護霊の能力を阻害するようだ、つまり、奴に勝つためには叫びを攻略する必要がある。


(でも……どうするんだ? 耳を塞ぐとかそういう次元じゃない。奴の叫びは存在そのものに訴えてくるようなものだ、それにあの骸骨から普通の声で叫んでいるとは到底思えない。特別な物のはずだ。)

 考える暇も無く、マリオネットは攻撃に移っていた。体から剥がれ落ちたベルトでも自在に操れるらしく、ベルトはリリスを目掛けて、本体である骸骨は真のほうへ、それぞれ攻撃を仕掛けてきた。

 骸骨は滑らかな動きで、真にハイキックを繰り出す、だが真の手のひらに灯された炎から包丁が応戦した。

 だが、白骨を切り裂いたところでダメージが目に見えない。

 真の攻撃を掻い潜って骸骨の手が真の顔面を掴んだ、真は剥がそうと腕を掴み返した。それと同時に骸骨の腕が、真っ二つに折れた。

 その様はまさに人間の骨だった、というより見れば見るほど人間の骸骨だった。折れた断面からは本来の霊ならば霊力が滴り落ちるのだが、それもない。

(まさか……!?)

 上谷は人間を蘇らせるために生霊の理を発動させるつもりだろう。死人を蘇らせる、それならばその死体も必要ではないか。

 死体なんてそう簡単に運べるものではない、だから常に行動を共にする守護霊に、それも外見を変えてしまえばいい。

 そうなると、あの骸骨はまさしく上谷がよみがえらそうとしている人だろう。

 その骸骨の叫びは悲しいまでに痛々しかった。

「やめろ!! 上谷、こんな事しても意味が無い!!」

 視界の端では、リリスがまとわりつくベルトに悪戦苦闘し、真は骸骨に鳩尾に正拳突きを喰らい、前かがみになった所に後頭部を強打され、床に崩れてしまった。


「ほう、君に一体何が理解できているのかな?」

 手でマリオネットに合図を送り、静止させた。

 上谷は屋上の淵に立ち、俺を見下ろしていた。その彼にはいつものクラスメイトとしての笑顔は無い。ただ冷徹で残酷な表情だった。

「こんなことをして……何人もの犠牲の上に生命を蘇らせたところで、その人は喜ばないんじゃないか? 確かにお前の気持ちもわかる、でもこんな方法は誰も望んでいない!!」

 俺の叫びに上谷は軽く笑って、答えた。

「君は勘違いをしているよ。蘇りその人は喜ぶのさ、今でも生を渇望している」

「どうして!? 確証も無いでしょ!?」

 藍那も堪えきれず叫んでいた、上谷はわかっていない。どうして自分の考えをあそこまで信じれるのか。


「お前の家族は蘇ったとしても、お前はたくさんのものを失うんだぞ!!」


「家族、そんなものに興味は無い」


「なに!?」


「僕は、……僕自身を蘇らせるんだ!」

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