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第四十二話 「堕ちる罠」

 俺はロビーの正面にある大きな階段から一階に下りることにした。この階段は、二階のレストランと直結している、その分レストラン以外には通じていない。もしホテル中に悪夢が潜んでいるなら、この階段を使った方が安全だ。

「真は……無事なのか……」

 俺と真の間にはつながりがある。これでお互いの存在がぼんやり把握できるが、このホテルは今、何者かによって撒かれた霊気によって包まれている。これは霊に耐性の無い人を気絶させるだけでなく、つながりでお互いを把握することを阻害していた。

 階段の手すりに体重をかけながら、ずり落ちるように下る。

 ロビーには、先ほどまでの多くの武者は居なく、最後の一体に、リリスが止めの一撃を放ったところだった。見たところ彼女達には目立った傷は無いが、それでも無傷というわけではない。ところどころ切り裂かれた痕がある。


「ふぅ、これでおしまいね」

 最後の一体は、糸の切れた人形のように吹き飛ばされ、崩れ落ちた。

 そこで藍那は、階段をやっと下りた俺に気が付いた。

「どうしたの? 私なら無事よ?」

 そういいながら明るい笑顔を見せる。太陽のように明るい素顔を少しも隠そうとしないところに彼女らしさを感じた。

「すまん、真とはぐれたんだ。たぶん無事だと思うが、俺一人じゃ捜しに行けない……」

 人間なら当たり前だが、ここに居る悪夢は普通の者達とは格が違う。その中を守護霊も無しに歩き回るのはもはや自殺行為である。

「守護霊とはぐれたの!? すぐに捜しに行かないと、」

 藍那は意外にも焦っているようだ。

「真なら大丈夫だと思うけどな……」

「そうじゃないわ、守護霊は主とのつながりが強ければ強いほど霊力も増すのよ。アンタが側にいてあげないとやられてるかも知れない」

 確かに、これまでも数々の戦いを潜り抜けてきたが、そのどれも二人の力を合わせたものだった。今更何を言っていたのだろうか、やっぱり俺は真の側にいて一緒に戦わなければならない。

 それは、俺の中に眠る正体不明の霊ではなく、俺自身の意思でだ。

「とにかく捜すにしても下の階には居ないみたいね。どの道屋上を目指すんだから上に行きましょう」

「そうだな」

 そう入言ったものの、階段は途中で大穴が開いているため通れない。必然的にエレベータを使わざる終えない。

 幸い、辺りの悪夢はすべて藍那たちが倒したため、安全に乗ることが出来た。

 

 この状況でも、通常通りに動くエレベータに感心しつつ、少しずつ上に上ってきた。

「なあ、屋上にはどんな奴が居ると思う?」

「そうね、このホテルに居る悪夢をすべて従えているなら相当の実力ね。私達が力を合わせても勝てるのかな」

 ―――そう話しているうちに、エレベータはガゴン!! という音を出して止まってしまった。階数にして6階と7階の間である。

「どうした? 何があったんだ!?」

 そうしているうちに、エレベータの明かりは消え、ノコギリで無理やり鉄を切り落とそうとするような奇怪な金属音が響く。

「まずい!! ワイヤーが切られる!! 敵は上よ!!」

 藍那がそう叫ぶと同時に、リリスが鞭を、エレベータの天井に叩きつける。その威力で天井が吹き飛び骨組みが露になる。

 エレベータの上には、頬をげっそりとした落ち武者のような男が、刃こぼれをしてノコギリの様になった刀でワイヤーを削っている。

「リリス! 早く!!」

 天井が吹き飛んだ衝撃で、エレベータは急停止したが、序々に細くなるワイヤーのおかげで、エレベータが傾く。

 俺は脱出のため、ドアに手を掛け、こじ開けようとする、しかし硬く閉ざされた扉はなかなか開かない。その間に、リリスの第二撃は、落武者の顔面を捉え、奴を叩き落とす。

「畜生!! 開け!!」

 力いっぱいこじ開け、やっと手のひらが通るぐらいの隙間が空く、が、その間にもエレベータの本体は不自然に大きく揺れた。

「なっ!! あいつ、横に張り付いているわ!!」

 落武者は叩き落されてもエレベータの側面に刀を突き立て、こびり付いている。その衝撃でエレベータがもう一段傾き、ワイヤーに負担が掛かる。

「クソッ、ひらけぇぇぇ!!」

 俺の手はエレベータの扉を少しずつ開く、しかし時間が足りない。

 辺りに嫌な音が響く。

 ――――破裂音に似たワイヤーの切れる音がした。

 ―――刹那、俺の体は、重力に晒され、宙に浮く、奇妙な感覚が襲う。

「グッ……!??」

 一瞬の衝撃が走り、空を自由落下するはずだった俺の体は、抱えられる形で吊るされていた。

「もう……あぶないわね」

 見れば、俺と藍那は、エレベータがあるべきはずの縦長の空間にリリスに抱きかかえられていた。リリスは片腕で俺たちを抱え、もう一方で切れたワイヤーの上の部分を掴んでいる。

「リリス、大丈夫? 咄嗟に烙印でエレベータを吹き飛ばしたのね?」

 どうやら、俺たちの乗っていたエレベータはワイヤーが切れると同時に、リリスが吹き飛ばし、俺たちは助かったわけだ。

「……それよりリリスさん。あの……」

「何かしら?」

 宙にぶら下がる状態で俺は尋ねる。

「あ、当たってます。……藍那が」

 リリスの腕は長いわけではない。人を二人も抱えるのは大変だろう。

「あ、当たってるって何がよ!! ちょっとアンタがくっ付き過ぎなんでしょ!!?」

「な、なんだよ、暴れるな!! 危ない!!」

 リリスの腕の中で暴れる藍那を静めて、六階の扉を突き破り、黒い縦長の空間からやっと脱出した。

 

「ふう、また上を目指すか……」

 息を整え、また階段で上を目指そうとした時だった。


「ほう、貴様らか。まだ小僧ではないか」

 六階の廊下の奥、バルコニーへ続く扉の手前に一人の鎧武者が立っている。彼から発せられた冷たい、冷水を浴びせたような声は廊下に響き渡る。

「なんだ、お前は……」

 奴はこれまでの悪夢とは明らかに存在が違う気がした。

 周りを取り巻く霊気のようなものも、静かに、戦に備え、渦巻いている気がした。

「我が名は夜薙やなぎ。見ての通り、はぐれ侍だ」

 彼は刀に手を掛けながら手招きして宣言した。

「我と決闘せよ」

 

「そんなことして何の徳があるのかしら?」

 藍那が自信に満ちて言った。

「ふむ、おぬしが生き残れば、何でも叶えてやろう。ここから去るのも良し、屋上へ誘うのも良し」

「……嫌って言っても通してくれそうにないしね。いいわ、乗ってあげる、その決闘ってやつに。ね? リリス」

 藍那は自信に満ちて歩みだした。

 侍の待つ、決闘場、バルコニーへと。




この話は一回保存に失敗して書き直しました。

 もしかしたらクオリティがいつもより低いかもしれません。(いつも低いですが)

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