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第四十話 「交錯する刃」

「どうなってんだよ!! ちくしょう!」

 楽しいはずの見学旅行。その二日目の夜、ホテルは不気味な静けさと、肌寒い気配に包まれていた。

 俺は、とりあえずエレベータに飛び乗り、1つ下の階に行く。

「真、どう思う? この現象は」

「そうね、敵が悪夢にしろ、そうでないにしても目的が解らない事には下手に動くのも危険ね」

 そう話しているうちにエレベータが停止、扉がスライドして開いていく。

 俺が降りた階は、俺たちのクラスの女子の部屋がある階だ。

  

 念のため言うが、これは混乱に乗じてなにやらしようというわけではない。

 慎重に廊下に顔を出して確認する。やはり、廊下はがらんと誰も居ない。廊下に出た俺は早足でドアの確認をしていく。

 ドアの前には、その部屋のメンバーが張られている。その中で、桜井の名前を見つけるのはたやすいことだった。

「ふう、……行くか」

 何故か緊張しているのは、現状とは別の原因がありそうだ。

 決心を固めて、ドアノブを捻った。ドアをくぐろうとした瞬間―――


 俺ののど元に刃が突きつけられた。


「うっ、……」

「動くな、……って何だ、貴様か」

 改めて見返せば、刃の持ち主はヴァリエだった。

「桜井は!?」

 部屋の中には、桜井のほかに大竹とクラスメイトの女子が居るようだが、入り口の前でヴァリエが通せんぼしているため中に入れない。

「どうやら現状は理解しているようだな。安心しろ、気絶はしているが、それ以外異常は無い」

 その一言にホッとした。それからすぐに聞く。

「何が原因かわかるか?」

「いや……ただ、何者かから直接何かされたわけではない。どうやら催眠ガスのようなものだと思うが」

 催眠ガスといってもここでは霊的な力によるものだろう。とすれば、たまたまホテルの外部に居た俺や藍那は、その被害を回避したわけだ。

「そうだ、上谷が見当たらない。もしかしたらあいつもどこかで回避してるかもしれないな」

「そうだな、とにかく私はここを離れるわけにはいかない。そっちで何とかしてくれ」

「わかってるって」

 そういい残して、ヴァリエに背を向けた。

 エレベータに乗るかの間際にケータイが鳴った。どうやら電話らしいが、知らない番号だった。

「もしもし?」

『あ、もしもし? 京平?』

「その声……藍那か?」

『うん。そんなことより、そっちは無事なのね?』

「ああ、やっぱそっちにもこの現象は起きてたか」

『今、涼さんに電話して聞いたんだけど……とにかく一度会って話したいわ。エントランスまで来れる?』

「わかった。今すぐ行く」

 そう言って電話を切った。エレベータの一階を連打してドアが閉まるのを待った。


***



「藍那!」

 エントランスも静けさに包まれている。その中に、藍那とリリスが佇んでいた。

「遅い! とにかくこっち来て」

藍那は、ホテルの出入り口である大き目の自動ドアの前で手招いてる。そちらに駆け寄ると、ある違和感に気が付いた。

「開かないのか? このドア」

 自動ドアというのは、皆さんもご存知だと思うがドアの前にセンサーが付いていて、人が近寄ると開く仕組みだ。ところが今、俺たちの前にあるこのドアは、藍那が正面に立っていても開く気配が無かった。

「開かない、じゃなくて開くことが出来ない、ね」

 そういって藍那はおもむろにドアから距離を取り、そして―――渾身の蹴りを放った。

 普通なら砕けてしまうはずのドアは、衝撃を吸収するかのように、そして平然と佇んでいた。

「……この有様ね、閉じ込められてるわ」

「そんなことより皆が気絶しているのはどうしてなんだ?」

 俺の質問には首を横に振るだけで答えた。

「とにかく、さっきは桜井君に電話してアンタ番号聞いたんだけど、アンタが直接電話したほうがいいわね」

 藍那の言う桜井君は涼のことか。

 俺はズボンから電話を引っ張り出し、素早くコールした。

『もしもし、京平か?』

「ああ」

『状況は藍那から聞いてる、こっちで調べたんだが……おそらくだが、現在そこでは、霧状になった霊力がばら撒かれているだろう。』

「霧?」

『そうだ。一種の催眠スプレーだな、霊製のな』

「それで俺たちは外に出ていたから回避したのか」

『あるいは、お前達は既に霊的事象に体が慣れているということもあるかもしれないな。とにかく気絶した人々は大丈夫だろう。それよりも……そんなことをした犯人が気になる。いつも通りの悪夢なら問題ないが、』

「どういうことだ?」

『いや、今はそれよりも屋上、または上の階を目指してくれ。霊の霧は上から下に流れるものだ、ホテル全体に霧を流すには屋上から流すのが効率がいい。あまり危険なことに関わって欲しくないが、見過ごしてはいけないことが進行しているかもしれない』

「わかった。あと、閉じ込められてるんだが、どうしたら出られるようになるんだ?」

『ふむ、その形式にもよるが結界が使われているのだろう。本来は悪霊を閉じ込める役割を果たすのだが、霊が充満している建物を封印しているのかもしれない。どの道、結界を解く鍵も犯人が握っているのだろう』

「鍵?」

『形式によって結界は解き方が違う。お札を張り巡らせるやり方や、精霊像に霊力を注ぐやり方なんかがあるな。とにかく犯人を見つける必要がある』

「わかった、またなんかわかったら電話する」

 電話を切って、藍那を見る。つい先ほどホテルの外で言われたこと。俺の身に潜む別の何か、そして今ホテルで起きている異常。

「行くしかないな」

 俺の一言に、藍那はしばらく間を置いて、


「そういうと思ったわ。行きましょう。こんなことをした奴は懲らしめてやらないとね」

 彼女ははにかみながらそう言った。

 その時、

―――――カラカラカラ……という金属の棒を引きずるような音がした。

 音のする方、ロビーの奥にある二階の食事をする広間へ通じている大階段から人影のようなものが歩いてくる。はっきり『人』と言えないのは、それがあまりにも長身で体が大きかったからだ。

「あれは……武者?」

 その人影は近づけばわかる。その身に赤褐色の鎧をまとい、だらりと垂れた腕には2メートル近くもある長い刀を引きずっている。顔は兜で覆われているため判断できないが、その隙間から視線がギラギラしている気がした。

 そして、明らかに味方な気がしなかった。


「京平、気をつけて、何か不穏な気配がする」

 真は既に本来の力を取り戻し、大人状態になっている。奴はこちらに敵意を向けているわけだ。

「そうね、リリス。わかる? 敵は奴一人じゃないわ」

 藍那の一言に軽くうなずいたリリスは、おもむろに鞭を取り出す。

 その間にも、鎧武者はこちらに近づいてくる。

 それにあわせて金属を引きずる音は増していく。


「京平……行くよ!!」

 その一言、一拍で鎧武者の懐まで真が飛び込んだ。彼女の手に灯る炎からは、包丁が飛び出し、必殺の一撃を御見舞いする。

 ガギィン!! という金属のはじける音がすると同時に、真の包丁が吹き飛んだ。

 武者は右手に刀を持っているが、空いているほうの左手で包丁を弾いていた。普通なら手のほうが斬れてしまうが、それでも鎧に包まれたその体が傷つくことは無かった。

 武器を失った真に、至近距離から神速の動きで刀を振りかぶる。

 しかし、真は二メートルもある刀を、体を捻るだけで回避する。刀を振り下ろした武者は、隙だらけになったその体に烙印を受ける。


「真!! 危ない!!」

 咄嗟に叫んだ俺の声に、身を固めた真だが、武者の強烈なニースマッシュを腹部に打ち込まれる。真はその反動を利用して武者から距離をとる。


「ハァ、ハァ、これでもうお終いね」

 勝ち誇る真は烙印を操り、武者を服従させる。

「倒れろ!」

 その一言で、武者は滑稽に床に這い蹲る。

 まさに止めを刺そうとした、

 その刹那―――


 空を切るように刀が飛んできた。

 軌道をたどれば、ロビーを、俺たちを囲うようにさまざまな格好をした武者、武士、侍が現れてる。


「どうやら……一筋縄ではいかないみたいね」

 ついに姿を現し始めた敵に真は飽きれたように言った。

 




 

 ついに・・・・・・・




 一周年です。(笑)

 とうとう一年たってしまいました。そして一年で四十話までしか進んでいないという・・・・・・

 この作品は練習的な意味もあったのでサックリと頭の中にあった適当な話だったのですが、いっこうに終わりそうにありません。二周年なんていわないではやく終わらせたいなぁ・・・なんて思っていたり。

飽きっぽい自分はよく一年も続けられたなと、ちょっと驚いています。


 よろしければこれからもよろしくお願いします。

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