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第三十九話 「告白と気絶」

「で、どの辺りに影ってのが見えたんだ?」

 ホテルの外に俺たちは出ていた。辺りには山気があり、夏の夜はむしろ心地よかった。月明かりに照らされ、辺りには外灯などが無くても十分に視界は保たれていた。

 ホテルと山肌の間に走る遊歩道を歩きながら、辺りを見回す。特に異常は見られなかった。

「えっと……ちょっと話があるんだけど……」

 そこから、おずおずと藍那が切り出す。

「あれ……? 影はどうした?」

 確か、先ほどは影が見えたどうのこうのと。

「それよりも……大事な話」

 どこと無く、目線をそらす藍那が、夜風に吹かれ、いつもと違うというか……なんだか気恥ずかしくなってきた。

「あのね。……真剣に聞いて」

 釘を刺され、動けなくなる。まさに藍那が話をしようとした瞬間、俺の視界の端に、まさしく人の影が入った。


「っと、こっちだ!」

 俺は慌てて藍那の手を引き、手近なところにあった石膏像の裏に隠れる。

 その数秒後、人影が、ちょうどさっきまで俺たちのいた場所を通過し、やがて遊歩道を抜けて、ホテルの裏側へ行ってしまった。

「ふぅ、警備員かなんかか?」

 とりあえず人間っぽかったし、さすがに悪夢だったらこんなところに隠れている人間を見逃すはずが無いだろう。

「で……話しがあるって……?」

 個人的にはこのままなんとなく話を終えてしまいたかったが、何故か藍那がそれをさせない空気を出していた。

 すぐに石膏像の裏から飛び出し、遊歩道の真ん中に植えられている木の下に行く。

「……、前に聞いたよね。どうしてわざわざ転校してきたかって」

 そういえば、前に聞いた気がする。その時は俺たちの住む町に出現した悪夢の退治だと言っていたが、それならばわざわざ転校してくる必要も無かった。

「あんたの為よ」

 しっかりと俺を見据えていった。


「…………え?」

 こ、これは……?


「監視するためよ」

 目をそらして付け加えた。

「か、監視?」

 若干、拍子抜けしたが、逆の方向に話が切り替わった。監視とは。

「それってやっぱ、俺の……憑心だっけ、それのことか?」

 以前、俺の体に起きた異変。これは涼にも話したが、特に悪性ではなく、むしろ助けてもらったに近い。しかし俺の意識はほぼ無く、傍らに居た真の話によるとだが。

「そう、あと不真面目な教師達もついでにね」

 教師達といって思い当たるのは、やはり藤崎と榎本か。あの二人の件には、藍那も関わっていたからな。

「なあ、あの現象は確かに気味が悪いが、別に悪い奴でもないみたいだし放っておいてもいいんじゃないか?」

 俺の提案に、さらに顔をそらした藍那は呟くように答える。

「どうして悪い奴じゃないって言い切れるの?」

「ど、どうしてって……真の味方をしたんだろ」

「たとえアンタの守護霊の味方だったとしても万人の味方であるとは限らないわ。それに気が変わって人間を襲うかもしれない。もしかしたら別の目的があってたまたま味方をしただけかもしれない」

 そういわれて背筋に嫌な汗がにじみ出てきた。人間を襲う。俺の意思に関係なく。それは……自分を傷つけられるよりももっと恐ろしい事だ。

「それにね。もし、そのような兆候が見られただけでもアンタの身は危ないのよ」

「どういうことだ?」

「アンタは信頼されてない。もし自在にその力を操ることが出来るようになる。もしくは出来ていたならば、何を行うかわからない。そういう見解もあるのよ」

 そういう見解、つまり一口にサークルといっても、学生達が集って娯楽をするものとはかけ離れている印象がある。さらに言えば組織だったものかもしれない。

 そんな人たちに俺は信頼されていない。……悪ければ、俺は削除されるべき的かもしれない。

「ど、どうしたらいいんだ?」

「何もしないことよ。アンタは霊に関するトラブルに巻き込まれすぎているの。これからはなるべく避けることね」

 最後の一言は、釘をさすように強く言われた。

「もし……俺の力は得体の知れない危険なもので、俺はそれを自在に操れたとしたらどうなるんだ?」

「……場合によっては、私が、まず、抹殺を試みる」

 藍那が、俺を抹殺する。

 それだけで、もう、……嫌だ。

「させないよ。京平は私が守る」

 これまで沈黙を徹してきた真は、力強く宣言した。

 守護霊としてだけではない。真の意志。

「私だって、そんなことしたくない。もちろんそうならないように努力してる」

 藍那は弁解するように言った。もちろん俺は彼女が悪くないことなんてわかっている。

 その様子を見かねたのか、リリスはそっと付け加えた。

「君にこのことは、当然秘密にすることになっていたわ。それでもこの子が、あなたに警告した意味がわかるでしょ?」

 その言葉に俺は、しっかりと頷いた。


「じゃあ、戻ろうか。いつまでもこんなくらい話ししてる場合じゃないよね」

 いつもの明るさを、取り戻したのか、取り繕ったのか、藍那は俺の腕を引っ張りホテルの入り口へ歩みだした。

 俺からは彼女の顔が見えなかった。


***


「ふー、なんだかな」

 エントランスで、藍那と別れた後、俺はエレベータに乗った。そこで、秋元に飲み物を買ってくることになっていたのを思い出したが、時間が経ちすぎていたので、諦めることにした。

 エレベータが止まり、俺たちの部屋がある階に下りたが、廊下には誰一人居なく、逆に不気味な感じがした。疲れていたのか、少しくらっとした。

「ん? 何だあれ」

 思わず呟いたが、俺たちの部屋のドアの前に何かが置いてある。よく見ようと近寄ったところで、それは廊下に寝そべる秋元だとわかった。

「ったく、だらしねぇな」

 廊下で爆睡している秋元を部屋に戻そうと、彼の脇に膝をつき、腕を肩に回したところで、ふと違和感に気づいた。

 寝息が無い。

 むしろ、長距離走を走りきった後のようにヒューヒューと息を吸っているに近い。表情は苦しくなさそうだが、それでも顔色は悪い。

「……なんか、体調でも崩したのか?」

 若干、違和感があるが、俺にはどうしようもないので、とりあえず部屋の中に運び込んだ。中には上谷の姿は無く、特に異常もなかった。

 ベットに秋元を、これまでに無いくらい優しく寝かせて、部屋を飛び出した。

「確か、この階の突き当たりに、担任と副担の部屋があったな……」

 俺の部屋は廊下の突き当たりに程近いところにあったので、担任と副担の部屋は目と鼻の先だ。

 ノックもせずに、ドアを開け放つと、中には榎本は居なく、副担が、椅子にもたれていた。

「あ、あの……失礼します」

 榎本が居ると思っていたので、自分の無礼が少し恥ずかしかった。

 副担である、若い体育教師は、俺の言葉に関心が無いのか、ピクリとも動かなかった。

「……?」

 近寄って、顔を覗き込んで、気が付いた。

 秋元と同じ症状だ。息が荒いにもかかわらず、意識が無いのか、目を瞑って居る。

「……ちくしょう、どうなってんだ?」

 部屋を後にし、手当たり次第にドアを開けていく。


 その、どの人も、全員気絶していた。


 まるで……俺と藍那がホテルから出ている間に、何かが起こったかのように。

「京平、気をつけて……何か……さっきからずっと気配がまとわりついてくるの」

 真の言葉に、俺は確信した。

 ――――悪夢の仕業だ。

 俺はエレベータに向けて走り出した。


 

 なんか会話文が多いですかね。

 文章の成長がまったく感じられませんねぇ。

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