第三十五話 「見学旅行・上」
「あー、おもてぇ……真、持ってくれよ……」
日に日に気温が上がり始める初夏、いつも見慣れた街並みをいつもと違う荷物を持って移動していた。荷物、つまり着替えが乱雑に詰め込まれた見学旅行用の物だ。
「別に私は持ってあげても良いけど、周りからはバッグが浮いているように見えるよ?」
俺の隣を歩く真は、俺の苦労なんてつゆ知らずの涼しげな表情で答えた。
バッグといつもの教科書のどっちが重いかと聞かれれば、なんともいえないが、いつもと違う荷物というだけで何だか重たく感じるものである。
今日は見学旅行初日。これから駅に向かい、電車に乗って空港へ行くのだ。
「むー、」
理屈では解っているのに、真が手伝ってくれないことに釈然としないままダラダラ歩いていた。そんな俺の背後から、朝から爽やかな声が掛かった。
「おはようございます。お二人さん」
上谷は、俺と同じような荷物を持っているくせに軽々しく歩いてきた。ちなみに『お二人』というのは俺と真のことで彼には真までしっかりと見えている。
「よう、……やっぱ慣れないな」
彼の背後には物々しい雰囲気をかもし出している守護霊マリオネットが憑いてきている。全身ベルトで包んだミイラみたいなその容姿は、戦闘時に居ると頼もしいが、普段の日常の中に紛れ込んでいるとやっぱり違和感がある存在である。
「まぁ、そういわずに。良い奴ですよ?」
上谷はそういうが、俺にはあいつが喋っているところをいまいち見たことがなかったし、戦闘スタイルが結構粗暴だったりする。
「そんなことより金城君、行き先は京都ですよね。いやあ楽しみです」
上谷が無邪気に笑いながら言った。
「京都好きなのか?」
俺にはいまいちわからない、そもそも旅行があまり好きではないからだ。修学旅行はそれほど嫌ではないが、一人や、家族とは行きたくなかった。一種のトラウマがあるからだ。
「僕は一度行ってみたかったんですよね。なんというか日本の美を感じます」
どうやら上谷の趣味が垣間見えた気がする。日本の美を語るのは俺には荷が重過ぎる。後で秋元と対談させて見るか。
しばらく歩いたところで駅に着いた。駅は街の中心部にあり、周りをオフィスビルやテナントビルなどで囲まれ、買い物に来る人や仕事に来る人でにぎわっている。今は午前中ということで人通りも少ないが。
現在は俺達の高校の生徒が多く見られた。駅前の広場みたいなところに集合なのだが、自分のクラスがどこなのか良くわからない。上谷と彷徨っていると、大竹が声を張り上げているのが聞こえた。
「おーい、上谷と金城ー! こっちこっちー」
「さあ、行きましょうか」
人混みを掻き分け、大竹の元へ上谷の後をついて行く。俺のクラスの連中もほとんど集まっており、全員が妙なテンションで話してた。その中に秋元が居た。
「ようやく来たのかぁ。ふゥ、遅すぎんぜ」
なぜか妙にムカつく口調で喋る秋元をスルーして俺は座った。
「それじゃあ全員そろったようだし、出発しまーす!」
そういって大竹が担任榎本の後ろをついて行く。
とうとう始まるのか……四泊五日の長い旅行が。
***
「はーい、カメラ回ってまーす」
バス内。蒸し暑い外の空気とは違って冷房がよく効きとても気分が良い。ゆえにだんだん眠くなるものだ。
現在は、一日目の昼過ぎ、既に多目的ホールのようなところで昼食を取った後、なにやらお寺を観光に行く途中のバス内だ。
俺は、既に長旅で、疲れて寝てしまいそうだ。後方二番目の席、隣には桜井が居て、その後ろには上谷と大竹が座っている。
「優希、静かにしててね……」
俺は窓際に腕を置き、その上に頭を乗せてうとうとしていた。目を瞑り、……ああ、もうすぐ睡魔大王が俺の元にやってきて……
「ってうおぁ!?」
「うーん、良い寝顔!」
気が付くとカメラを構えた大竹が身を乗り出している。後ろでは上谷が笑いをこらえ、桜井まで可笑しそうな顔をしている。バッチリ撮られてた……
「はいはい、せっかくの旅行なんだから寝ちゃダメだよ!?」
そういいながら大竹の席である上谷の横に座った。
この旅行のカメラ係である大竹は私用の目的でカメラを振り回す強敵だった。
「別にバス内ぐらいいいだろ……なぁ上谷、夜のために今寝ておくんだよ」
後ろに振り向きつつ上谷に声をかける。
「そうですねぇ。まあいいんじゃないですか」
「か、上谷君までそんなことを……優希ぃ何とか言ってよ~」
「そうねぇ、最終日にはさやかも疲れて寝てるんじゃない?」
「なっ、優希までそう言うの!?」
「上谷の肩に頭乗っけてるかもな」
「そこまで!?」
「いつでもどうぞ」
「どうしてそこまでノリがいいの!?」
大竹を中心にして皆でぎゃあぎゃあ楽しく騒いでいた。
しかし、このバスの一部……前方の席から闇のオーラを感じる。
「秋元は楽しくやってるかな?」
「……ちょっとかわいそうじゃない?」
そう、秋元はバス座席が一人だけ違うのだ。俺達の班は一番後ろとその一個前の席なんだが、五人分の席がないのだ。一番後ろは席が五人分空いているのだが、反対サイドには別の班があり、結局秋元は席がなく前方に行くことになったのだ。
その前方の席は、言うまでもなく担任榎本の隣である。
「秋元……生きて帰られるのか……?」
どす黒い負のオーラに押しつぶされてないといいが。
そんな懸念を残しつつバスは次の目的地へと走る。
まだまだ長い旅の始まりだ。




