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第三十四話 「備えあれば」

「はーい、それじゃあグループを決めまーす!」

 けだるい初夏の陽気に包まれて俺達のクラスでは、学級議長である大竹が声を張り上げていた。黒板には『見学旅行』とデカデカと書かれている。いわゆる修学旅行だ。

 俺達の学校では修学旅行が夏にある。準備はもっと前から始まっていたが、実際に近づいてくると、生徒達のテンションが序々におかしくなり始めるのである。そして現在は、部屋や点呼などで必要なグループ決めの時間である。


「ねぇ、京平、そんなに見学旅行って楽しいの?」

 真が俺の隣にある窓のふちに腰掛けながら、顔を覗き込み聞いてきた。別に無視する気はないが、クラスないでは真が見えるのは上谷ぐらいだけなので、俺は適当に唸ることにする。


「なあ、秋元、修学旅行について語ってくれ」

 俺は妥協策として、前の席で授業中にもかかわらず弁当を食べていた秋元の襟首を引っ張り、こっちを向かせる。

「んがあ!? 待て待て、首が絞まる……」

 黒板の前に居る大竹はなにやら、クラス担任である榎本に注意事項を陰湿根暗ボイスで聞かされている。その隙に秋元が弁当を机にしまい、一拍置いてから語り始める。

「お前……いまさらそんな事いってんのか? 一生に一度の大イベントだぞ? まあいいか、お前が今ここで俺に聞いたのは正解だったぜ。もし聞かないで行っていたら大変な過ちを犯すところだったぞ」

「前置きはいい、お前のその醍醐味を聞かせてくれ」

 実際は俺ではなく真に話してやって欲しいものだ。その当人も興味津々と言った顔で秋元を見ている。

「まずはホテルだろ。これ以外に異論は認めない」

 胸を張って自慢げに話す秋元からなにやら不穏な空気を感じた俺だが、真の楽しそうな顔を見てしまった以上、話を斬るのは気が引けた。

「露天風呂はイイッ!! 上が、がら空きなんだからなァ!!」

「そこ! 秋元、金城! 男の虚しい会話は後にしなさい!」

 とうとう大竹に見つかり、俺までとばっちりを受けた。こんなんばっかりだ。渋々秋元は前に向き直りながら「非常階段は便利だぜ……」という小言を残していった。


 今回のグループ分けは男女別のアルファベット順にA、B、C……と言った感じで決まり、それが部屋分けにもなる。一日目の夜はAグループとBグループが同じ部屋、という具合になる。同じグループに決まった奴とはほとんど行動をともにせざる終えないのだが……

「はーい! じゃあ次、男子のCグループは?」

「俺と京平と上谷でーす」

 秋元が大竹に負けじと声を張り上げる。やっぱこうなるんだよなぁ。


「いやあ、楽しみですね。見学旅行」

 そういう上谷に俺は何気なく「ああ、そうだな」と返す。一見すればただの平凡な高校生の会話だが、彼の背後にそびえ立っているマリオネットが妙に物々しい雰囲気にしていた。

「ねぇ、そんなにいいの? 見学旅行って」

 真が俺を押しのけるように前に出て上谷に聞いた。実際、このクラス内では唯一俺以外の話し相手である。

「そうですねぇ、どうでしょうか」

 さっき楽しみですね。とかいってた奴が何を言ってやがる。……まぁ、実際改まって聞かれるとなんと答えていいものか困るのは確かであるがな。

 皆に適当な答え方をされ、真は釈然とせず、そっぽを向いてしまった。


 見学旅行まであと二週間ほどである。準備や説明は嫌というほどやっているので旅行に関しては不安はないが、違う土地にはそれなりの不安がある。

「行った先で悪夢が出てくるとかないよな?」

 周りに聞こえないように、小声で上谷に尋ねた。彼は少し首を横に振りながら短く答えた。

「ないでしょう」

 そう簡単に答えられてしまうと、俺の懸念もすこし過剰だったと思い直した。


「おらおら、何小声で話してんだぁ? ま、まさか夜中の計画を二人で練っているのか……?」

 いきなり秋元に肩を叩かれ、すっかり考えることをやめた。

「夜の計画? お前こそ、ボーイフレンドたちのところへ行くんだろ?」

「なっ、京平……それはいわない約束……くそっ、上谷ぁお前もなんか言ってくれ」

「ははっ、そうですねぇ。楽しみにしておきます」

 すっかり上谷も馴染み、俺達三人で何かと行動することが増えてきた。


「はい、それじゃあ全グループ決まったね? じゃあ次は移動中のバス座席を決めまーす」

 大竹が仕切って次の決定事項に向かう。バス座席、俺は寝る派なので秋元とかとは離れたいな。それから前にも言ったが、修学旅行前になると序序に生徒達のテンションがおかしくなり始めるのである。どうやら自然な流れで男女混合は常識になっているらしい。空気を読め、という視線があちこちから飛び交っている。


「さっそくさっき決めたグループが活用されるのね!」

 男女のグループ同士でくじ引きを行い、決まったグループ内で詳しい座席を決めるわけだ。まぁ特に俺が何をしなくとも大竹がサクサクくじを引き決まっていくのだが。

 アルファベットを次々と読み上げる大竹、彼女がくじを活用するのは前にも見たことがあるなぁ……?


「はい、じゃあ最後ね。男子のCと女子のEグループ!」

 Cは俺達のグループ。たしかEには大竹が入っていたはず。いや、彼女ともう一人、……まぁ桜井なんだが。流石大竹、詐欺師にでもなればいい。


「ははっ、良かったな、京平」

 秋元は呑気でいいもんだ。これでなんとなくバス内で爆睡し辛くなってしまった。でも……まぁいいか。



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