第三十三話 「一撃」
「貴様らァァ! 打ち殺す……ぜってぇ打ち殺す!!」
ヒシカが額を押さえながら一人で呟いている。既に彼らの軍隊は壊滅状態だ、もはやこちらは守護霊が三人、向こうはせいぜい残っていても少数だ。
「皆さん、逃げてください。ここはもう一人で十分です」
上谷は余裕に酔ってるわけでも、自身の力を過信しているわけでもない。ただ状況を最善の方向に導くため言っていた。
「……大丈夫か?」
「はい、奴は僕一人で片付けさせてください。お願いします」
「……ああ」
「ほら、ぼさっとしていないで早く逃げるわよ」
そう藍那に手を引かれ俺達は旧本殿を後にした。
***
「さあ、早く続きを始めましょうか」
上谷はまだ額を押さえ半狂乱のヒシカに向かって声をかけた。
「ヒヒッ、力が可笑しく成ってるぜ……悪いが……手加減できそうにねぇぞぉ??」
「そうですか。実は僕達の最初の攻撃、初めから旧本殿を狙ってたんですよ」
「なぁに?? よく聞こえねぇなぁ!!」
「旧本殿が消えればあなたの役割も終わりです。もういいんです」
「ハッ、力がさっきよりも漲ってるぜぇ。ハッタリじゃねぇか?」
「仕事もろくに出来ないあなたがもう存在する理由もありません消えてください」
「やっぱりあいつらはお前の差し金かァ、残念だったなァァ!!」
「マリオネット……もういいですよ」
***
上谷を旧本殿に残し、俺と藍那は、獣道をたどり、最初の広場まで戻ってきていた。上谷は大丈夫といっていたが、やはり不安が残る。
「なあ、やっぱり引き返そうか?」
いまさら言うのもアレだがヒシカがどれほど実力かもわからない。やっぱり三人で確実に倒しておくべきだった。
俺の提案に藍那は首を横に振って答えた。
「大丈夫だって、それに気になることもあるしね」
「気になること?」
「上谷君、結構得体の知れない人かもよ?」
たしかに彼の登場はタイミングが良すぎる。彼が俺達とであった直後に悪夢に囲まれた。その上、旧本殿や、この辺りの地理にも詳しい。おまけに霊に関しても慣れているように見えた。
「でも何が目的なんだよ。俺達を助けてくれたんだぜ? それならたくらみがあったとしても俺達には害がないって事じゃねぇか?」
そう、彼がもし……何かよからぬことを考えていたなら、俺達には存在を知られたくないはずだ。それなら何故あれだけのチャンスがあったのに俺達を消そうとしなかったのか。
「ま、それもそうよね」
藍那も本気で彼を疑っていたわけではない。そもそも人間が悪夢と協力したりそんなことがあるはずがない。それに……そんなに悪人で世界が満ちてるはずがない。
「それより藍那、あの悪夢のこと。一応メンバーに報告しときましょう」
横からリリスが声をかけてきた。
メンバーとはサークルのことだろう。それにしてもこのサークルでは霊的事象に関しての観測と解明を行っているらしいが、一般的に聞けば怪しいサークルだろうが、俺からしてみれば恐ろしくもあり、頼もしくもある。桜井の兄でもある涼は俺が知ってる唯一の信頼できる人だ。
「そうねー、とりあえずメールでも送っとこうかしらー」
答える藍那の返事がやや適当なのが気になった。
「そういえばどうしてサークルなんかに入ってるんだ?」
確かに詳しい人たちと関わりがあると安心するが、調査、という名目で今回のように危険な場所に行き、報酬だってろくにないだろうに悪夢の討伐を行っているには相当の正義感にあふれる人か、なにか理由があるはずである。
「そうね……あんたは最初、霊が見えたときどう思った?」
最初……俺にとっては最悪の思い出でもある。真にはやや訳があり、相手に敵意を向けられなければ戦闘が行えない。そのせいで若干死に掛けた俺だった。あの時であった悪夢は普通の人にも見える奴だったが、真と出会ってからはなんとなく馴染んでいき、今では普通の日常の一部だ。
「まあ……信じがたかったな」
でも真実だと突きつけられてからは信じていかざるおえなかった。
「ねぇ、それだけ? 怖いとか思わなかった? 恐ろしいとか、自分の頭が狂ってるてるとか」
藍那が言いたい事が判った気がする。他人には見えない、自分だけの現実。それは今までのものとは大きくかけ離れていた。俺は始まりが衝撃的だったからその後はなぜか自然と頭に入ってきた。
「私は怖かった。自分自身がね。リリスの言うことは嘘じゃなかったし彼女は優しかった。でもね、そう簡単に現実を上書きできなかったのよ」
なんだが話が暗くなってしまった。とりあえず話をそらせよう。
「サークルにはどんな人が居るんだ?」
「ん、そうね……」
藍那が喋ろうとした瞬間、神社の真っ暗だった広場が突如、オレンジ色の明かりに包まれた、いや正しくは山の奥、旧本殿辺りから火柱が上がった。周りの木々を軽く超えるその火柱は周りに引火することなく、ろうそくの火を吹き消すように消えてしまった。
ちょうどあそこでは上谷がヒシカと戦闘していたはずだ。
「藍那、行くぞ!」
何より彼の身の安全が心配だ。爆風に巻き込まれていれば火傷ではすまないはず。
「まって、ねぇ。誰か歩いてくるよ」
藍那に腕をつかまれ、森の、ちょうど俺達が旧本殿から帰ってきたときの道から人が歩いてくるのが見える。暗くてよく見えないが、一人のようだ。
「上谷……なのか?」
呼んでみても返事がない。真はもう子供状態に戻っていて、炎が灯せないので、恐る恐る近寄ってみた。
その人影は、手に持っていた無骨な拳銃を俺に構えた。間違いなく、奴はヒシカ。思考、意思、感情を鮮明に持つ悪夢集団の親玉だった。
「っ!?」
予想外の展開に戸惑う俺は反応が遅れた。奴はボロボロに傷ついていて足元がふらふらしていたが、間違いなく銃口をこちらに向けている。
奴の殺意に満ちた顔は真っ直ぐ俺だけを見つめている。
撃つ。それだけを行えば間違いなく俺は死ぬ。
引き金に力を込めようとした。
――――――その刹那、ヒシカの腹部から槍のようなものが飛び出した。
「大丈夫ですか?」
息を切らした上谷と、体に巻きつくベルトを伸ばし、槍のようなものを創ったマリオネットが森から出てきた。
ベルトの槍に貫かれたヒシカは宙を反転し、地に崩れ落ちた。
「ふぅ、どうやら何とかなったようですね」
上谷も安堵して言った。それより俺が安堵に腰が抜けそうになった。
「さっきの火柱はなんだったの?」
藍那の質問に微笑しながら上谷が答える。
「ああ、アレはヒシカの最後の渾身の一撃でした。奴の銃は結構厄介でしてね。辺りを爆風で覆ったのですが、マリオネットのおかげで助かりました」
おそらくベルトのたてのようなもので防いだのだろう。それよりも気になったことがあった。
「周りに引火しなかったのか?」
「はい、少し開けた場所でしたし、霊力によって出来た炎ですからすぐに消えてしまいます」
それなら山火事に成る心配もない。
「もう残党とかも居ないと思います。この件はこれでおしまいでしょうね」
そういった上谷の顔からも安心が見える。俺もようやく終わった気がした。
「そうか、……つかれた」
そもそも藍那に無理やり連れてかれた訳だし……いつもこんなんだな。
「そうね。さ、帰りましょう」
言う藍那も相当疲労の顔だ。山を歩き回ったからな。
「お前、歩いてきたのか?」
「そうね」
今から歩いて帰るのも大変だろうな。もう夜中だし。
「あんた自転車だったよね」
…………。
「じゃ、俺は早く帰りますわ……」
「あ! ちょっと待ちなさい! 後ろに乗せなさいよ!」
走って逃げる俺を追いかける藍那、それを眺めて苦笑する上谷。
とりあえず家に帰るまでが戦い、なのか?
………真空気。
そろそろキャラが増えて大変です。
桜井はこういう展開になると出せないし。
第四章はまだまだ続きます。




