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第三十二話 「破槍」

 上谷についていくと、小さな獣道のような所に出た。そこからさらに辿って行けば旧本殿に行くことができるらしい。既にあたりは真っ暗になっていたため、真の明かりを頼りに進んでいった。


「さあ、もうすぐです。十分気をつけてくださいね」

「なぁ上谷、その今朝見た悪夢ってどんな奴なんだ?」

「そうですね……容姿は現在、この神社に居る奴らと同じです。言葉は交わさなかったのですが、あまり強力な力を持っているようには見えませんでした。しかし油断しないでくださいね」

 そう言って言葉を切った。そろそろ森が開け、旧本殿が見えてきた。敵に気づかれない様に真は炎を消していたが、その必要はなかったようだ。なぜなら旧本殿にある松明に轟々と火が灯されていたからだ。

 その中心部にある小さな小屋、旧本殿の上に腰掛けた一人の男。それを取り囲む大勢の悪夢。見ているだけで鳥肌が立つ、なぜなら全員が同じ服装、同じ体、同じ顔だからだ。

 俺達は招かれるように旧本殿の輪の中に入る。周りの悪夢たちは攻撃をする気配が見えない。やがて、旧本殿の上に腰掛けた男が声をかけてきた。


「ようこそ。我が闘技場へ。クソガキども」

 奴は、確かに周りを取り囲む悪夢たちと同じ顔をしている、しかし彼だけは明らかに違う感じがした。表情に感情があふれている。周りにいるのは、まさに作り物の人形のような固まった表情に対し、オリジナルと思われる奴には、いい意味でも悪い意味でも人間らしさがあった。


「あなたがオリジナルですか。お願いします、我々は何もしません。帰らせてください」

 気持ちを押し殺した声で上谷が叫んだ。俺も出来る事なら早く帰りたい。流石に一体ずつでは弱いものの大量に囲まれれば恐ろしい。もう既に囲まれている状況では絶望的だ。


「ふざけんなよ? 散々人のシマで暴れといて帰らせてくれなんてゆるされねぇんだよ!」

 目には悪意と狂喜。袋のねずみをどうしてしまおうか。それをじっくり堪能しているのが俺にも良く伝わってきた。ずれたサングラスが鼻の先のほうに掛かっている。


「だけどな、今の俺様は機嫌がいい。莫大な力を得たもんでな。それを試してみてぇんだ」

 ねばねばした声を出して奴が言葉をつむぐ。

「どうしたいのですか?」

 上谷は、一歩前進しつつ尋ねる。

「俺と決闘しろ。一対一だ」

 数では相手が圧倒的に勝っている。もし、周りを囲っている悪夢たちが一斉に手に持った無骨な拳銃を俺達に向けて発砲したなら、その時点でもう俺達はおしまいだ。それなのにわざわざ決闘を持ちかけるのはよほどの自信か。


「いいしょう。僕とマリオネットが相手をします。いいですね?」

 最後の一言は俺と藍那に向けて。ここは素直にうなずくべきか……?

「いいわ。任せたわよ」

 藍那が先に口を開き、決まってしまった。


「ッヒヒァ、じゃあそれ以外の奴らは拘束しろ。おとなしくしないと……BANG!! 、だぜ?」

 その一言とともに指を鉄砲に見立ててクイッと撃つ仕草をした。俺と藍那、真とリリス、もおとなしく拘束される。拘束と言ってもこめかみに銃口を向けられるだけだが。

 俺は目線で上谷を応援し、おとなしく佇んだ。


「俺の名前はヒシカ。まぁ一応聞かせてやったぜ?」

「そうですね。出来れば覚えておきましょう」

 お互いの一言、それが戦いの火蓋を切って落とすことになる。森が風でザワザワ騒ぎ、それまで沈黙を続けていたマリオネットの大柄な体が動き出した。全身を包むベルトは多種多様で、それらは伸縮自在のようだ。一歩前進し、腕を前に差し出す、そこから巻きついたベルトが伸長し、幾本ものベルトが1つに巻きつき、図太い槍のようなものを作り出す。

 ベルトの槍は、依然として旧本殿の上で余裕を持って腰掛けているヒシカ目掛けて直進する。だが、当然、直線軌道の攻撃では簡単に回避されてしまう。真上に跳躍するだけでマリオネットのベルトの槍を回避、槍はそのまま旧本殿に直撃し、バラバラに崩してしまった。


「ヒーッハァ!! いい威力だァ! 当たればなァ!?」

 宙を舞っているヒシカは、周りを囲う悪夢たちと同じように、鉄の筒に無理やり取っ手をくっ付けたような無骨な銃を構えている。弾丸は出ず、霊力を打ち出しているようだが……

 ヒシカが銃から放った物は、弾丸でも霊力の塊でもない。

 電撃が迸った。


「なっ!? マリオネット!」

 咄嗟に上谷がマリオネットに指示をする。青白く迸る電撃は、真っ直ぐ上谷を狙っていたが、マリオネットが指し伸ばしたベルト、その先端についている金具が避雷針のような働きをして電気を誘導する。結果的には上谷は攻撃を回避したのだが、変わりにマリオネットがダメージを負ってしまう。


「カカッ、愉快愉快! 俺の銃はなァ、『撃つ』動作さえあればなんだって出来るんだぜぇ?」

 着地したヒシカが、その顔を歪ませて笑っている。彼の言葉、おそらく語弊があるだろう。何だって出来る訳がない。

 電撃を身代わりに受けたマリオネットだったが、何事もなかったかのように立ち上がった。

 そう、まだまだ勝機はある。


「さぁ、ショーはこれからだぜぇ!?」

「少し黙っていただけませんか?」

 上谷が怒りを込めて言った。


「どうしたぁ?クソガキぃ、いまさら何を怒ってやがる?」

「さぁ、あなたにわかるでしょうか」

「あんだとぅ?」

「そうですね……こういうことです」

 一瞬、上谷が俺にウィンクしたような気がした。


「伏せろ!!!」

 上谷が叫んだ瞬間、俺と藍那、真とリリスが体勢を低くする。その刹那、頭上をベルトの槍が通過した。見れば、マリオネットの腕がそのまま伸びたかのようにベルトの槍が二本、両手を真横に広げる形になっている。そしてそのまま回転していた。半径5,6メートルはあろうかという円が、マリオネットを中心に出来ていた。俺達を拘束……といってもこめかみに銃を当てていた奴らは反応が遅れ、マリオネットの駒のような回転に巻き込まれていた。


「貴様らァァァァ!!」

 ヒスカがマリオネットの範囲に巻き込まれない位置でほえていた。


「さあ、ショーを続けましょうか」


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