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第二十九話 「神の杜」

「で、こんなとこに呼んで。何の話だ?」

 俺は藍那に腕を引かれ、後者の屋上に来ていた。この学校は実は屋上は立ち入り禁止なのだが、何者かによって無残な姿に変えられた屋上へのドアが現状を物語っている。そんな屋上のフェンスに寄りかかりながら俺は藍那と向き合っている。


「どうしてあんたがここにいんのよ?」

「愚問だな。俺は数年前からこの町に住んでるんだぞ?」

 逆にこっちが聞きたいぐらいだ。


「ふーん、じゃあ今回の件とは関係ないんだ」

 藍那は退屈そうにつぶやいた。その言葉から嫌な気配を感じる俺であった。


「今回の件?」

 俺は藍那に聞き返す。真も関心があるらしく、今までフェンスの外でふらふらしていたが、こっちによってきた。


「ん、……まぁいいか。あのね、最近悪夢が力を増してるのって知ってる?」

 そういえば涼がそんなことを言っていた気がする。たしか思考を持つ悪夢? だったかそんな感じの奴だ。以前、俺が出会ったのは守護霊堕ちの悪夢、だった。つまりその例の力を増したタイプの悪夢ではなかった。


「そいつがこの辺でうろうろしているらしいの。で、調査も兼ねて転入してきたのよ」

「それだけで転入したのか!? 別に出向いて退治すれば良かったんじゃあ……」

「いーから! そんなこと。……そうだ! せっかくだから手伝ってよ」

「何で俺が!? またお前のとばっちりに巻きこまれたかねーよ!」

  そう自然と口論な体勢に入ったところでハタと気づく。


「調査?」

 個人でそんなことをしているとは思えない、となれば確実に何かのサークルに所属しているのだろうか。


「そ、あたしもサークルに所属してんのよ。ね、協力して?」

 なぜだか、そうやって上目使いされると、断るのもためらわれた。


「しかたねぇなぁ、まっ俺の街にヘンなやつが居座るのも気分が悪いしな。いいだろ? 真」

 実際、戦うのは俺ではなく真なのでなんともいえないが、俺の守護霊である以上は、主と行動をともにしてもらわないと困る。


「うん。それで、場所はどこなの?」

 真もやる気満々……というわけでもないようだが、やってくれるそうだ。


「この街の南端、奉山神社ってとこ」

 藍那が言った場所は、この街に住んでる人でも半分は知らないようなひっそりとした神社だった。元々この街では南に山が広がっていて、昔からある神社だったが、近くの大きな神社でお祭りをやるようになってから知名度は一気に落ちてしまった。俺もあんまり行ったことはない。そもそも俺はこの街で育ったわけではないしな。


「そんなとこにわざわざ行くのか……物好きなオバケもいるもんだ」



***


 

 時刻、午後八時。俺は相棒であるママチャリに跨り、街の南部を目指す。後ろには真が乗っているが、いかんせん霊であるため重さは感じない。乗っているかどうかさえ怪しいもんだ。

 俺は何故、わざわざこんな事をしているかというと、当然昼間の約束があるからだ。母親には『外でダチと飯喰ってくらぁ』といってあるので遅くなっても安心だ。しかし、この作戦の唯一の欠点と言えば自費で夕食を買わなければいけないことか。そんなことを考えつつ、しだいに人気も少なくなり、こころなしか街灯も薄暗くなってきた山の尾根が張り出したコンクリートの道を曲がる。その辺りに神社への入り口がある。


「はー、まだ来てねぇか……」

 待ち合わせは八時半。学生にしてもまだそこまで遅い時間ではないかもしれないが、比較的開発の進んでいない街の南部では、大体の人間は家に引っ込み始める。まして神社になんて来る人間はいない。

 神社の入り口には鳥居がある、その脇に自転車を止め、俺は藍那がやってくるのを待った。待ち合わせには五分前にくるのが常識だろ……?


「ん、あれじゃない?」

 真が指差す方向には、確かに藍那とリリスがいた。


「早かったのね。……なによ、その顔」

「い、いや……別に」

 焦った、等とは言えない。増してその理由が、藍那の私服がとてもかわいらしく見蕩れた、なんて。それもそのはず、俺は今までに彼女の私服を見たことがなかった。一度は作業服のような(たぶん宅配便の人をイメージしたと思われる)服で、昼には制服だった。彼女の性格的にも、おとなしくなんてありえないだろうな。


「さあ、早く行こうかしら?」

 リリスさんが一言つぶやき俺達は鳥居をくぐった。神社へと続く山道は、砂利が敷かれているだけの簡素な造りだ。明かりなんてものは当然なく、真が灯す手のひらの明かりを頼りに山道を進む。……少し頼りない炎だが。道を抜けると、少し広がった場所に神社が見えた。神社は、石畳の道の先に手を洗う手水舎があり、その先は拝殿と本殿がある。大きさもさほどなく、周りの木々もあまり手入れされていない。

 風が吹き、木々がざわざわ揺れる。見たところ悪夢や、その他怪しいものはいないようだった。真に異常がないから明らかだろうな。そうなるとこれからどうするべきか。


「どうすんだ? 何もいないぜ」

「んー、ガセって訳ではないんだけど……もっと奥かな?」

 もっと奥。と言われてもこの先に道はない。一応本殿のほうも見に行った方がいいが、ここ以外で、来た道を除くと後は社務所と住宅が一体化したような建物が、少し下った別の道にある。駐車場があるため、そっちの方は夜でも明かりがついているみたいだ。


 とりあえず、本殿、拝殿を見回したが、怪しい部分は見つからなかった。本殿は人が入る為に造られていないため、外から眺めるだけだった。その質素な外装で、俺は少し地味な印象を受けた。実際、霊に関係ありそうな場所だが、何もないと少し拍子抜けしてしまうものである。

 そう呑気に構ええていたときだった。フッ、っと音もなく真のか弱い炎が消えてしまった。


「お、おい!? どうした?」

 真は確かに、普段は本来の力が使えない。これは真には特例の事情があり、真は元々別の人間の守護霊で、俺には別の守護霊が憑いていた。何かのきっかけでそれが壊れ、残った者たちを寄せ集めたのが俺と真。守護霊が主を変えるとつながりが不安定になるので、一度『転生』することで新たな主に憑く。そのせいで真は本来の力と、現在の力に差が生まれ、敵意を受けると言うきっかけを元に本来の力が使えるらしい。


「大丈夫……なにか別の霊がいるのかも」

「そいつが犯人ね?」

 藍那と真が言葉を交わす。事実別の霊、と言うと悪夢とは限らない。真に敵意があれば本来の力が使えるはずだからだ。


「とりあえずここを移動しましょう」

 リリスはいつでも冷静だ。そのおかげで安心できる。

 しかし、その時、遠くから何者かの明かりが見えた。懐中電灯のように、一直線の光が人の動きとともに近づいてくる。当然、藍那やその仲間には思えない。


「しっ、静かにしろ……逃げるぞ」

「なんでよ! あいつが悪夢かも知れないでしょ?」

「そんなことはない。悪夢なら懐中電灯はつかわねぇし、それに真に反応がない。たぶん神社の管理人だ」

「それなら何で真ちゃんの炎が消えたの?」

「知らねぇよ……強い守護霊でも連れてるんじゃねぇのか?」

「はいはい、そんなことよりもお二人さん? 例の明かりが消えたわよ」

 リリスさんに言われてふと見ると、確かに明かりが消えている。しまった、と思ったその次の瞬間だった。いつの間にか背後にまわられていたのか、肩を叩かれ、明かりが向けられる。


「って、お前……上谷?」

「おや? あなたは……金城くんですか?」

 神社にやってきた人物は、今日俺達の学校に転校してきた男。上谷竜那だった。

 



すいません、遅れました。

ついでですが、竜那と藍那の文字が似てますが関係ありません(汗

ただのミスです。ですがこのまま行きます

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