第二十八話 「転入生」
時は流れ、春。 俺は期待に胸をときめかせ……る事もなく、ダラダラと学校へ向かっていた。今日は四月の初め、始業式だった。無事、進学を遂げた俺は今年はもう遊んでいられるのも少ないか、という部活にも所属しない俺がいうのもあれな事を思っていた。事実、この数ヶ月間でとんでもない体験をこなしてきた俺だが、最近は平和な日々が続き、頭のねじも緩んできていた。
始業式では学生なら誰でもどきどきするイベントがある。
クラス替えだ。玄関に張り出されたでかい一覧を見ていた。
「よぉ、京平、今年も同じクラスだな」
秋元が俺の肩を叩く。なんというか、何者かの陰謀を感じる。ちなみに他の面子は、桜井と大竹が俺と同じクラス、谷木は隣のクラスで、……もうご存知の方もいないだろうが山下と川上と言う他二名も存在していたのだが、奴らはどっかのクラスだ。もう出てくることもないだろう。
「いいから早く教室行こうぜ」
俺は秋元にそう急かし、真を連れて三階に上がった。一年は二階、二年は三階、三年は四階と言う風に決まっている。その中で、俺は二年二組だったので、三階の手前から二つ目の教室に入った。中にはまだ半分も来ていなく、桜井や大竹の姿も見えなかった。とりあえず自分の席を見つけ、おとなしく座る。
しばらくすると他の生徒に紛れ桜井たちが入ってきた。こっちを見つめ、目が合い少し微笑む。なんか……生きてて良かった。これが学園生活か〜。……もうすぐHRが始まるな……?
皆さんはご存知だろうか。俺にとってはクラス替えでは担任が結構重要なポイントだと言うことを。
「あー、諸君。席に着きたまえ」
偉そう、それに陰湿な数学教師、榎本だった。最悪だ。今年は厄年か
真っ黒な守護霊、國酔は姿が見えなかった。俺は首をかしげていると、横から真が「ただ単にこの教室にいないだけだと思うよ」と教えてくれた。皆の前で真と話せないので俺は唸るだけにした。
「あー、では諸君に少し紹介がある。転校生だ」
榎本はそういって戸口に歩いていく。その瞬間、クラス中で「え!? 男? 女?」とか「超能力者か!?」とか異常にテンションが上がった声がする。流石榎本。皆のテンションがおかしくなってるぜ。
教室に入ってきたのは、学ランを着た男子生徒だった。この教室の前に立っても緊張している様子も見られない……まぁ整った顔をしているな、うん。
「どうも、はじめまして。上谷竜那です。勉強や人間関係に早く慣れていきたいですのでよろしくお願いします」
まるで営業スマイルのように微笑んでクラスの喝采を受ける。どうやら転校する事に慣れているようにも見えた。それから、転校生が男とわかって肩を落としている秋元を見た。安心しろ、お前は男でも落せるぞ。
「あー、では金城の後ろに行け」
そう榎本に促されて俺の後ろの席に来る。「よろしくお願いします。金城君」とすれ違いざまに言われ、なんだかリズムを崩されたような気になった。ふと真を見ると、上谷をじっと睨んでいる。
「(どうした? 真)」
そう俺に言われ、ハッと気が付いたようにこっちを見る。
「いや、なんでもないの。気にしないで」
そういって話を終わらされてしまった。
後ろで上谷が笑った気がした。
その後、無難な始業式で藤崎が復活しているのを確認しつつ、特に内容もない式を適当にすごした。教室の帰れば、陰湿な榎本が待ち受けているだろう……ああ、いったい俺はどんな悪いことをしたらこうなるのだろうか。
教室に戻ると、十分ぐらいの休憩時間がある。そこで、学生達は始業式で凝り固まった体をほぐすことになる。するといきなり秋元が声を掛けてきた。
「なぁ、京平、隣のクラスにも転入生がきたらしいぜ。しかもめっちゃかわいい女らしい」
秋元が妙に元気になっている。しかも俺の腕を引っ張りながら。
「ああ、わかったよ。一緒に見に行こうって話だろ? 仕方ねぇなぁ……」
転入生の女子なんて、『転入してきた』という話題性で少し目だって見えるだけだろう。そう油断していた。
隣のクラス、二年三組は、どうやら男子の人だかりが、周りからはばれないように出来ていた。どうやら学年中を騒がすような美人らしいな。いったいどんな奴なのか。
「制服が違うらしいからすぐわかるらしいぜ」
秋元はどこからかそんな情報を持っていた。目敏い奴め。
「えーっと、どれどれ?」
俺は身を乗り出して教室を眺める。本当だ、すぐにわかるな。ブレザーの中にセーラー服が混ざってりゃ嫌でもわかる。……ん?
「「あっ!?」」
間抜けな叫び声を二人でシンクロさせる。それも当然だ、向こうもどうやら俺の顔に覚えがあるらしい。
「何であんたがここにいるんだよ!?」
「それはこっちのセリフよ!?」
何を隠そう美人転入生とは、茶髪を長く後ろに流した、以前は特急便の業者のような服を着ていた、そして俺がとばっちりで巻き込まれたずいぶん前の事件、藤崎暴走事件(命名俺)の時、出会った女。藍那だった。
「お前……またなんか問題起こしたのか?」
藍那、以前はインターネット上に迷惑情報を流し、その嘘情報に惑わされた藤崎がどうのこうので大変だった事件の主犯(?)だ。
「あんた、……ん〜、ちょっとこっち来なさい!」
そういって俺の腕を掴み、すごい勢いで引っ張っていく。視界の端には、呆然とした顔の秋元が映る。嗚呼、そんな目をしないでおくれ。




