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第二十七話 「その夜、三日月」

 俺と秋元はげんなりしながら廊下を歩いていた。その理由は簡単、バレンタインデーの間抜けな賭けをしていたら予想外の結果だったからだ。まさか男から人気があるとは思わなかったぜ。


「このことは黙っててやるよ」

 俺は肩を落として俺の隣を歩く秋元に言った。秋元は賭けでは勝利したが、それを認めると取り返しのつかない領域に片足を突っ込むことになりそうだった、……正しい判断だと思う。


「なぁ……俺……」

「安心しろ、お前が両刀持ちだったと言うことは俺達だけの秘密だ」

「……なんか勘違いしてないか? お前」

 


***



「おーい、真? ネイレスさーん?」

 その夜、俺が風呂から上がった、大体午後10時くらい、俺の傍には守護霊さんたちは居なくなってしまった。真は朝から、涼のところで『用事』があるらしい。今までも涼から真に用はあったが、その時は俺も一緒に行く。俺が居てはいけない理由があるのだろうか。


(となれば……あの事件の時のことか?)

 何度もくどいようだが、アレスの戦闘時、覚醒的に力を発揮した俺は何か霊的に特別なことが起きていたらしい。それが何かわかったのだろうか、そして、俺が知ってはいけないような秘密があるのか。


(ちょっと待ってくれよ……)

 これでもし、俺一人の問題で済むならまだいい。しかし俺が力を暴走させ、なにか破壊行動を繰り返すようなことになったら……これはもう個人の問題ではない。

 急に不安になってきた。今すぐ真が帰ってきて欲しい。かといって今から桜井家を訪ねる勇気もない。


 俺はどうしようかとうろうろしていた時、部屋の奥、窓の方から物音がした。軽いものを置くような。


「真?」

 俺はなんとなく焦り、そして開け放たれた窓辺には包装紙に包まれた平べったい箱が置かれていた。


(こ、これは……まさか……)

 まさか……いつの間にか(?)真にフラグが立っていたのか? 期待で胸が膨らみ、そうかそうかと納得する。これはいままで涼のところでがんばって作っていたんだな、そして面と向かって渡しづらいからこんなに回りくどく……ああもう。


 俺は包装紙を綺麗にはがしながら、どきどきしながら、箱を開けた。



バッシィィィン。


 俺の顔には、烙印の張り巡らせたぬいぐるみがアッパーを決めていた。


「…………」


「あはははっ、京平、本気で引っかかった〜」

 窓から真の愉快な笑い声が聞こえてくる。俺の手元にいた…よく見るとくまのぬいぐるみが、俺の胸板にパンチしている。


「……真?」


「あははっ、ん?」


「このやろぉぉぉ……」

 俺は逆上して真に飛び掛るのではなく、部屋の隅にかがみこんでいじけた。


「あああれ? ちょっと京平、冗談だってばー!?」

 …しかし、そこで『これが本当のチョコだよ』ってこなかった。すこしガチで悲しい京平であった。



―――、一方


「どうしてお兄ちゃんはそんなに失敗作みたいなチョコを食べているの?」

 

「さぁ?どうしてだろうな……」

 少し疲れた涼だった。



***



 夜になると街灯もつかないような田舎道。電柱の足元には一束の花が添えられている。そんな夜の中、静寂に包まれた空間に二人の男が向かい合う。


「死神か……嫌いじゃないよ。そういうの。でもな、僕はもうそんなのはどうでもいい」

 学ランを着た高校生ぐらいの少年。彼は死神と名乗る不気味な男にも、何の警戒もなく接する。もともと彼自身も相当怪しいからかもしれない。


「ふふっ、人間が想像したものとは程遠いいですけどね。そんなことより貴方、欲しいものがあるでしょう?」 

 顔は若く、髪も長い死神は、全身を黒いスーツで固めている。顔には不敵な笑みが張り付いていて、べったりとした空気を爽やかにするようにも見えた。


「君、……何が言いたい?」

 少年は、自分が考えていた事とは違うことを言われ、少し戸惑った。しかしこの死神はそこまで悪人には見えなかった。かといって善人にはありえないが、善悪の天秤の均衡を保つ。そんな役割をしていそうな雰囲気だ。


「命を。よみがえらすことが出来るとしたら? 貴方はどうしますか?」


「……ふふっ、面白い。聞かせてくれよ。その話」

 死神がいっそう笑みを増し、少し歩く。

 風が吹いた。田舎の木々や山を風が揺らし、音を鳴らす。空は雲が流され、その隙間から月が顔を出す。漆黒の夜にたたずむ二人は月明かりに照らされ、お互いの表情を伺う。

 そこからは……何も読み取れない。


「今日は三日月だ……」

 死神がつぶやいた。

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