第二十六話 「vs秋元、勝負の日」
少年は見下ろしていた。
電柱に添えられた花束を。
彼は理解できていない。この車通りの少ない田舎道で、夜になると街灯もろくにつかないような場所で起きた事件、交通事故だった。
高校生ぐらいの学ランを着た少年はじっと花束を見下ろす。
信号は青だった。被害者は音楽を聴いていたわけでもない。まして不注意なんてなかったはずだ。目撃者も居ない。犯人も……居ない。
「どうして……」
少年は涙を流すこともなくただ、見つめる。1つだけの、花束を。
「理解できないのですか?」
不意に後ろから声が掛かる。少年は振り向くとそこには、真っ黒のスーツを着た二十代ほどの男が立っていた。男は、まさに就職活動真っ最中です、とでも言いたげなフレッシュな感じだったが、映画のマフィアが着ているような黒いスーツが不自然だった。
「あんたは……?」
少年は胡散臭そうに男に聞く。
「死神です」
男はそう答えた。
「ははっ、サイコーだ、僕はとうとう魂をとられるんだね」
「ふふっ、どうでしょう」
誰も居ない田舎道の道路で、二人は不敵に笑いあう。
***
真の顔が赤い。
「どうした? なんかあったのか?」
俺は今、喫茶店で涼と先日の事件について話している。俺の体に起きた異変、何者かが「憑心」と言うことをした。そしてそれはいったい何が原因で元に戻ったのか、という話だった。俺は当然意識が薄れていた、夢のようなぼやけた記憶しかない。そこで傍から見ていた真に話を聞いているのだが……
「えっと……突き飛ばした、」
そういえば、俺の意識がはっきりすると転んでいたような気がする。するとそれがきっかけで俺の中に取り付いていた……憑心していた霊が出て行ったというのか?
「それだけの衝撃で?」
涼もやはりそのことが気になるようだ。俺も気になる。確か……よく覚えているわけではないが、激しく戦闘していたはずだ、それなら何故真に突き飛ばされた程度で霊が出て行ってしまったのだろう。
薄暗い喫茶店の一番奥の席で四人席を二人で陣取っている俺と涼は二人で黙りこくる、真はまだ顔が赤く、ネイレスは何も言わない。店員が男二人で黙っている俺達を訝しげに見つめ、コーヒーがぬるくなり始めた。……涼はハッ、と気づいた。
「もう帰ってもいいぞ、うん。ありがとう、……あと気をつけておけ。霊力を増した悪夢……思考を持つような奴らが多くなってきている。まぁお前と真なら負けることはないと思うが……アレスの事もある、用心は怠らないことだ」
そう忠告した涼は伝票を持って喫茶店を出て行った。
「俺らも行こうか」
独り言のように真に言って俺も店を出た。店を出た途端、冷たい風が俺を襲った。肌が鳥肌が立ち、体がブルブル震えた。
***
翌日、目覚めた俺は夢を見ているらしい。
何故かって? 朝っぱらから俺の目の前には涼の守護霊のはずのネイレスが居て、……(俺が勝手に)誘惑されている。
「あ、あの〜?」
恐る恐るネイレスに声を掛ける、
「ああ、目が覚めたのね。おはよう、真ちゃんは用事があるって涼のところに居るわ」
ネイレスはドギマギしている俺をほっといて余裕の表情で部屋から出て行ってしまった。俺は、いつか真もこうなるのだろうか。というどうでもいいことをぼんやり考えながら布団から這い出し肌寒い廊下に出た。俺の部屋は二階建ての我が家の二階部分にある。二階建てと言えばお金持ちに聞こえるかもしれないが、築何年かもわからないぼろ屋だし、土地も狭い。
「あー、今日は14日か……」
少し期待が持てそうだ。そう信じたい。
登校途中、俺は肩を下ろして歩く秋元を見つけた、
「よお、どうした色男」
俺は陽気に秋元の肩を叩く。
「……ふっ、俺だって……」
虚しくなるような寒さの中、俺と秋元は男二人で学校に向かった。……一応ネイレスも居たけどね。
「くぁ……」
こうなると授業は退屈だ。真はいないし、秋元はブルーだし(何があったかは知らんが)しかも陰湿な数学教師、榎本の授業ときたもんだ。
学校の授業が半分ほど終わった昼休み、俺は購買に行く途中で大竹に出くわした。
「おっ、金城君はっけ〜ん!! ハイこれ、優希から」
俺が理解する前に大竹が押し付ける、紙袋。
「お、おぅ」
真がいなくてよかった、どうしてこう思ったのかな? そう心中の混乱がある俺をほっといて大竹は行ってしまった。別に追いかける必要はない……っとその時、視界の端に秋元が映った。よし、さっそく戦果を報告し……
「あ、……秋元……」
あいつ、やりやがった。奴の手には手紙が三通ほど抱えられている。普通の手紙ではない、あれは……あの淡いピンクとコバルトブルーの封筒に包まれたあの手紙はまさか……!?
幸い、奴はまだ俺に気づいていない。後ろに居るネイレスの疑うような目を気にせず俺は奴の尾行……ストーキングを開始する。
学校で告白と言えば校舎裏なのだろうか。秋元はホイホイ呼び出しにつられていた。その後ろを俺が期待と不安に満ちた表情でつけている。実際、超美人だと俺は本気で嘆くかもしれない、が、その反対なら本気で笑い飛ばしてあげよう。それが俺と秋元の友情だ。
(いったい……どんな奴何だ、)
不安……でも愉快なことになりそうなことは気づいていた。
と、不意に秋元が立ち止まった。俺の位置からでは相手の顔が見えないし声も聞こえない。ちょうど校舎の角を利用した位置で見えないように俺はいる。
「(ネイレスさん、ちょっと見てきてくれます?)」
こういうときに守護霊は便利だ。特に断る理由もないネイレスは、そっと角を曲がった。そしてフッっと顔が曇った。
「(ど、どうしたんすか!?)」
俺は……もしかしたら……
「こっちにくるわよ」
ネイレスがそっと言う。
「「は!?」」
俺と秋元がちょうど角で鉢合わせになった。
「よ、よぅ」
秋元の手には手作りと思われるチョコが三つ。終わった。俺の人生、秋元に敗北で……
「ああ、今回の賭けは引き分けにしよう、な?」
秋元は俺の手に握られた桜井からの送りものを見ながら言った。
「え? な、なんでだよ……数ではお前の勝ち……?」
俺は悟った。それでも秋元は勝ちを認めたくないらしい。
なぜなら……from boy だったからだ。
つまり男からもっらったらしい。
あー、つまり『♂』な感じだ。
校舎裏の奥にはいい体つきの大男と、いかにもなよなよしている小柄な男が二人。
アッーな感じだった。手作りタオルに『秋元様』と書いてる。
……正直、俺に笑い飛ばすことは出来なかった。
えー、今回と次回ぐらいで余談編は終わり、さっそくこの物語の中心核に入っていきたいと思います。
それからしばらくガーディアン一本で行きたいと思います。どうもすいませんでした。




