第二十五話 第四章 「冬の日からのレクイエム」
本日、二月十三日。
真と出会ってからの三日間は不思議なくらい充実していたが、それから約一ヶ月が経過した今日、いつも通りの平和な日常が俺には戻ってきていた。
いつも通りの肌寒い教室で、昼食を取っていた。
「そういえば秋元、明日何の日だか知ってるか?」
俺の前には、なぜか机をくっ付けてきた秋元がコンビ二の即席な愛情が詰まった弁当をおいしそうに頬張っていた。
俺はそんな秋元の隙をついて、となりの窓際に腰掛けている真の口にプチトマトを放り込んでいた。
「明日? もしかしてお前の誕生日!?」
秋元は大げさなリアクションで、「いや、お前の母さんのか!?」とかほざいている。
正直、アホだろ…こいつ。
「バレンタインデーだよ」
俺は素っ気無くそういってみたが、別にこれは秋元に変なフラグを立てようとかそんな気はまったくない。
「あ!、そっかぁ〜、いや〜俺マジで忘れてたわ〜うん。完璧に存在が消えてたわ」
秋元も秋元で小学生みたいなことをほざいている。
「それでさ、春先ごろにさ、約束したよな?」
俺はこの日をずっと待っていた。
いや、別に春先に立てたフラグを今回収しようとかそういう意味ではない。
「え?…マジ?」
秋元はきっと覚えているだろう、いや絶対。
「賭けしただろ。どっちが多くチョコもらえるかって」
もちろん俺も最近思った。…少なくとも秋元よりはもらえそうだと。
破壊者アレスの一見の後、桜井は特に守護霊とつながりを持つことも無く、普通の生活に戻ってきている。ヴァリエの修復も完全に出来たので一安心だ。
「敗北者は…例の×ゲームだろ…?」
秋元に俺はうなずいた。
その放課後―――。
「ねぇ京平、ばれんたいんでーって何?」
真が俺の耳元に囁いた。
真は俺に出会う前からこの世には存在していたはずだが、人間の文化にはなじみが無いらしい。
しかし、男がバレンタインデーについて解説しているのも、なかなかなものなので、どうにかごまかすことにしよう。
「なんだろうな…ローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日…かな?」
俺はなんとなくで答えた。合ってる保証は無い。
「ふーん」
真はそれでも納得したようなのでまぁいいことにした。
その後、俺は家に帰り、特に何も無かったのでテレビを見ていた。おもに守護霊とは主と行動をともにしなければならないので、真も俺のとなりに座っている。
…この時期、どのテレビもバレンタイン特番だなー
ブブブブブブ…
常にマナーを守るはずの俺の携帯が、うざったいバイブレーションと言う名の発作を引き起こした。
どうやら電話…しかも桜井から。
でないはずが無いぜ!
「はい、もしもし…」
さまざまな期待を込め電話に出た。
「お、金城か。俺だ、涼だ」
…正直、キレるかと思ったぜ…だが俺もそこまで子供じゃないさ。
「で、なんか用っすか」
この人は用がないと連らくしてこない。
「うむ。実は先日の事件の話が…」
先日の事件、とはもちろんアレスがショッピングモールを占拠した。という事件だ。あの後、少し新聞に載ったが、犯人は不明。悪質なイタズラ!?ということで自然消滅した、ここに何か陰謀を感じる俺だったが、これは良い意味で捉えるべき事柄なのだろう。
「とりあえず私に会いに来て欲しい……家は無理らしいから喫茶店でどうだ?」
あれ以来、桜井家(涼の部屋のみ)を何度か訪ねた。彼は霊に関して詳しく、またそれ関係の調査のサークルに参加していて、何人かの仲間と情報交換しつつ記録をとっているらしい。俺は結構情報を引き出されたりしているが。
「わかりました」
冬の街を喫茶まで行くのは少し面倒だが仕方ない。
「真、行くぞ」
熱心にテレビを見ていた真の肩を軽く叩き、家を出ようとするが、玄関の手前辺りで母親に呼び止められた。
「またどこか行くの? 早く帰ってきなさいよ」
この母親は女手1つでわが子を育て……云々。とにかく俺も感謝はしている、しかし父は中二のときまでは居た、そこからいろいろあって居なくなってしまった。
「ああ、気をつける」
ショッピングモールの時、必要以上に心配した彼女だった。当然、たった一人の家族なので心配しないはずが無い。俺も好きで事件に巻き込まれているわけではないからな。
そして家を飛び出した俺はさっそく後悔した。
「もっと暖かい格好してくりゃ良かった……」
せめてマフラーでも巻いて来ればよかった、と思いつつ、約束の喫茶を目指す。隣を歩く真は代わり映えしない格好で、寒さは関係ないらしい。霊だもんな。
***
「やあ、わざわざ悪いね」
喫茶店に入ると奥の席、四人掛けのところに一人で座っている桜井涼が居た。本当はその隣に守護霊のネイレスが居て、これから俺と真が掛けるのでちょうどと言うわけだ。
「あー寒かった。暖かいものが飲みたいなぁ」
「ははっ、じゃあコーヒーで良いかい?」
当然のように代金をコーヒーで済ます。俺としては話をするだけなので楽だが、また寒い街を歩くのでプラマイゼロだった。涼は大学ノートを開き、ペンを構えて話を始める。
「事件の時、言ってたよね? 意識が薄くなり勝手に体が動いたって」
確かに、あの時そういうことがあった。俺は何をしたのかよく覚えいていなかったし、戦いに使った霊力がどこから沸いてきたのか見当もつかなかった。そのことなら真の方が、傍から見ていたのでよく覚えていると思うが。
「その状態はね。我々は憑心状態と呼ぶことにした」
「ひょうしん?」
我々というのは涼が参加している霊関係の調査のためのサークルだろう。
「つまり、守護霊以外の第三者の霊が人間に取り付き、心……精神を操作することだ。これは今までもある行動だった、霊媒師とか知ってるかい?」
霊媒師、とは簡単に言えば霊とお話ししたり出来る人だ。少なくとも数ヶ月前までは胡散臭いなぁと思っていたが、霊と関わって意見が変わった。セコイなぁって。
「で、それが今回はそうしたんですか?」
「うむ、今回は霊媒とは違ったこと……つまり霊力を駆使した戦闘行為をした、ということだ。もともと霊を構成しているのは霊力だ。自身の体の維持に霊力のほとんどを費やしている、それから余った霊力を戦闘などに使っている。だが、人間に取り付いた場合、体の維持に霊力を使わなくてもいい」
「莫大な霊力を持つ人間になれるってことですか……」
「正確にはなった。だけどね、君の場合」
涼は真剣、というよりは推理小説のトリックを解説しているような楽しそうな顔で言った。たしかに俺は、アレスとは比べ物にならないほどの霊力を持っていた……気がする。
「そこで問題は、どうしてその状態が終わったのか、ということだ。そもそも体は人間なのだから精神的要因か、もしくはただ単純に時間制限があったかもしれないということか。どうかな? 真、いったい何があって元に戻った?」
俺は確か転んでいたような気がする。そんなことより……
「…………はぃ?、ぇ?、」
真の顔がみるみる高揚していく。守護霊も赤くなったりするんだなー、でもなんでだろー。
なぜか一人修羅場な真であった。
大変遅れました。これからもたぶん遅れます(ぇ
季節感もぶち壊していますが、・・・
とりあえず物語の中で第一話での時期は投稿日と同じくらいと考えていただければいいかなと思ってます。




