第二十二話 「賭け。」
アレスが復活した。
全身をオーラのように黒い煙いが取り巻き、桜井を吸収する前よりもおそらく力を増しているだろう。
俺はどうすることもできなかった。ただ見ているだけ。それしかできなかった。女の子一人守れなかった、それだけではない。今も真がアレスと戦っている。俺はまだ守られているのだ。
「ハハハハッ、どうだ!?憎いか!私が憎いか!かねしろぉぉ」
もはや興奮の絶頂に達しているアレスが、大剣を両手に構え、真に向けて乱暴に振り回している。真は回避が上手だが、流石に長引く戦闘で疲れているようだ。
「クソッ、!?」
一瞬の不意を突き、アレスの大剣は真の腕を大きく切り裂く。
切り裂かれた腕からはとめどなく霊力が滴り落ち、真は足を付き、体制を崩す、その間にもアレスは大剣を振り回し真に止めを刺そうとする。
「やめろ!」
俺は叫ぶ。
アレスはもはや笑いが止まらず、ゆがんだ顔でこっちを見た。
憎い。奴が憎いとも。消せるのなら消してやりたい。
桜井は吸収された。それがどういうことを意味するかなんて俺は知らない。しかし、そこで悩む気は無かった、必ず助けれる。そうすがるように祈り、アレスに叫んだ。
「どうした!? 金城ぉ、素直に吸収される気になったか? それならこの愚かな守護霊は殺さないでやる」
守護霊は主を守るためのもの。
アレスの言っていることはおかしい。
しかし、このまま戦っても真が勝てそうも無い。
真が負けてしまえば、もう俺は吸収されるのを待つだけ。
なにか、桜井を救い、真も救い、アレスを倒す方法は残っていないのか。
守護霊にしかできないことをあのアレスにたたきつけてやりたい…主語霊にしかできない?
烙印。
そうだ。真の烙印、絶対服従の能力さえあれば。
桜井とアレスを分離させ、奴を消滅できるかもしれない。
「時間をくれ、真と決める」
「ほほう…どっちが生贄になるか、決めるがいい。ククッ」
アレスは勝利を確信している。
ゆえに隙だらけ。
真は、傷ついた腕をかばいながら俺の元に来た。
真に先ほどの作戦(と言っても烙印を食らわすだけだが)を話す。
すると真ももうそれしか方法は無い、と思っていた。
「そういうと思って、さっき首を絞められたとき、奴の右腕に烙印を施した」
真はそういったが、何か問題があるようだ。
「でも、生物…特にあんな化物みたいな奴を服従させるには私の霊力じゃ足りないの…」
確かに、真の能力は万能に見えるがそうでもない。
意識の無い物体なら、服従しやすいが、意識があると莫大な霊力が必要になる。それが元守護霊のそれも人間を吸収した奴ならなおさら。
しかし俺にはその対策が思いついている。
「安心しろ。つながりを信じるんだ。俺の霊力はなんだか知らんが今だけかもしれないけど、いつもより多い。莫大だ。つながりを通してお前に送り続ける」
これが守護霊にしかない力。つながり。
「いい加減にしろ、どっちが生贄になるんだ?ククッ」
アレスは自身の腕に烙印があるのは気づいていない。
もうそれに賭けるしかない。
「行くぞ!京平!」
真の声とともに、アレスの右手を中心に烙印が彼の全身に広がる。
それは締め付けるようにアレスを拘束する。
アレスは不意を突かれたような顔をしたが、それでもまだ余裕があるようだ。
真は烙印操作のため両手を前に差し出す。
「グッ、小癪なぁぁ!」
無理やり引き剥がそうとする。
真の足がガクッ、と揺らいだ。支えるように俺は真を後ろから抱きしめ、二人のつながりを信じ、真に霊力を流す。
「もっと強く!」
真が叫ぶ。俺はもっと強く真を抱きしめ、霊力を流す。
アレスはのた打ち回り、地面を這う。ギーギー叫びながらどんどんきつく締まってゆく烙印に支配される。
だが、アレスはまだ自我を保ち真の命令を受けない。
「嫌だ…、嫌だ…、消えたくないぃぃぃ!」
アレスは、訳のわからないことを騒ぎ続け、バタバタ動き回る。
腕が通常曲がらない方まで曲がり、もはや関節というものがない。
「京平…、もっと、もっと強く…」
真もすでに限界だろう、烙印操作のために差し出された両手が下に落ちてくる。
俺はそれを支えるように握り締め、さらに霊力を流す。
「私ゎ、破壊者だ…グォォォォォォォ!?」
ビキビキビキ、と言う嫌な音がアレスから発せられ、全身が締めつけられ、体が細くなる。
それでもまだ、真の命令は聞かず、のた打ち回る。
「イヤダ…イヤダ…キキタクナイ、キキタクナイ、キキタクナイィィィィ!!!」
アレスはもはやただの塊のような姿になった。
それでも抵抗を続け、真の命令は聞かない。
「真、とにかく…桜井とアレスの分離を考えるぞ!」
アレスの力の源はもはや桜井しかない。
彼女さえ分離してしまえば…
「京平、奴の中に意識を集中して!」
奴…アレスの中に意識を集中する。
そうすると、真の烙印を通じて俺の意識は暗い煙の中に落ちていく気がした。
恐怖…そして…桜井を助ける。
使命感に燃え、俺はアレスの中に意識を集中した。
―――俺の意識は暗い闇に落ちていった。




