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第二十一話 「抵抗」

ショッピングモールの周りでは人ごみができている。

その中をリポーターが忙しく駆け回っている。


「現在、占拠されたショッピングモールの犯人は実態が不明、要求もなしという異常な事態ですが、中にはまだ人が残されており…」

リポーターと野次馬を掻き分ける長身の男がいた。

全身ロックで固め、ケータイを掛けているが繋がらず途方にくれる。


「ネレイス、どうする?、彼女に危害がある前に…」

独り言をつぶやく。


「…そうだな」

また一人で納得する。


たった今。

中で三回目の爆発が起きたばかりだった。



***


「俺…何やってんだっけ?」

俺は、えーっと、そうだ、たしか桜井がさらわれたんじゃ…


「京平、なの?」

真がオドオドしながら聞いてくる。

そうだとも、俺しか京平はいない。

…だが、少しばかり意識が飛んでいる。ぼんやりとなら覚えているとも。

そう、ここは桜井が拘束されている駐車場。たしか俺が霊力を使えるようになり、アレスとやらを倒した…


「貴様ぁ…」

アレスは体中に穴が開いていたが、黒い煙が沸き、修復していく…って何だこいつ、不死身なのか?

というよりどうして俺はアレスの名前を知ってるんだ?


「金城ぉ! 貴様…ふざけやがって、吸収してやる…」

待て待て待て、

何で俺の名前を知ってる!?

そもそも吸収って何だ?

確か俺はさっきまで知ってた…?

あの感覚が何なのか。どうして意識が飛び、勝手に体が動き、霊力を駆使して戦闘できたのか。


「真、と、とにかくあいつを頼む。そのうちに俺が桜井を救出する!」

今の俺には絶対に霊力で戦えない。それがはっきりわかる。

この状況で頼れるのはもはや真だけ。


***


「良かった…いつもの京平だ。これなら戦えるよ」

真はつぶやくように言った。

アレスはもう肩に大剣が発生し、それを引き抜き武装する。

真も手のひらに炎を灯し、その中から包丁を取り出す。

二人はほんの一瞬対峙し…すぐに刃を交える。

力ではアレスが上回っているため、真は身を引き、体勢を立て直す。


「甘い甘い甘いぃ!」

アレスは興奮し、見境無く大剣を振り回す。

しかし、真は宙を、舞い落ちる木葉のように、ひらり、と交わす。

宙を回転し、アレスの肩を目掛けて包丁を驟雨しゅううのように降らす。

全身を刻まれたアレスだが、倒れることは無かった、真の包丁で千切れた右腕がはじける。

それは断面から黒い煙を放出し、真を目掛け猛進する。

真は宙を飛んでいるため、身動きがとれず、首を、飛んできた右腕に掴まれる。

そのまま壁にたたきつけられ、首をギリギリと絞める。


「う、…ック…、」

首が限界を訴える。

その真の視界に悠然と片腕をなくしたアレスが映る。


「どうだ…実は守護霊でも吸収しようとすればできないことも無い。…まぁ、自我が乱れる可能性があるがな」

アレスはニヤニヤ笑いながら左手に大剣を握りなおす。

真は意識が遠のき、手の炎が弱まる。


「霊力を吸い取るだけなら危険もあるまい。…フフッ、さあ、我が体内の霊力の一部になるがいい」

アレスの肩越しに、桜井が拘束されている柱が見える。

その拘束を解いた京平が映る。

壁から放たれた桜井はぐったりとしていて、意識も無いだろう。

京平が抱きかかえるように彼女を保護する。


(嫌…)

自分だけが命の危険である。


(私だけ消えるのは…)

守護霊の役目は主を守ること。

もし、守護霊がいなくなっても、新しいのが憑く。


(嫌!)

―――京平ッ!―――


***


「真?…真!」

真がアレスに首を絞められ、危機に瀕している。

俺は桜井をヴァリエに任せ、真の元へと駆け出す。

何か策があるわけでもない。ただ、真を助ける。それだけのために。

助けられるかなんてわからない。

でも、

俺は走る。

真の元へと。



「さあ…いただくぞ」

アレスが何かを始めようとする。

させないぜ。


「コンチクショぉぉーーー!」

何の策も無いままアレスの顔をぶん殴る。

まったくの不意を突かれたらしく、右に吹っ飛ぶ。

と同時に真の首をつかんでいた手も吹き飛ぶ。


「真!」

ぐったりして、意識がないようにも見えたが、手には炎が灯っており、大丈夫みたいだった。

しかし、そんなにゆっくりもできない。ただの人間が殴った程度じゃ時間も稼げない。


「貴様ら…よくも…殺してやる。…!?」

起き上がったアレスの顔はひび割れていた。

まるで石膏像が風化したように、うっすらと、しかし確実にひび割れている。

アレスが指でなぞるごとにぽろぽろこぼれている。


「なんだ…? 貴様いったい何をした!?」

アレスは不死身のように思えたが、実際そうでもないらしい。

俺は何かした覚えは無いが、アレスの身に異変が起きているのは間違いない。


「霊力が不足しているんだな?」

真が意識を取り戻し、俺に肩を借りているが、自力で立っている。

霊力の不足?


「バカな!? 私はもはや守護霊ではない! 貴様らのような惨めな力ではないのだよ!」

アレスは力ごもって叫ぶが、その間にも顔が割れていく。

もはや時間の問題だ。


「守護霊でないにしても、霊であることに変わりは無い。そんだけ再生を繰り返せばどんなに吸収で得た霊力があろうとも持たないさ」

真は勝ち誇ったように言った。

アレスも事実はわかっているはずだ。しかしどうすることもできまい。


「もう諦めろ」

真が宣告する。


「いや…まだだ。まだ吸収すれば…」

アレスは右腕をくっ付けようとして断面をくっつけたが、ぼとりと落ちた。


「お前ではもう京平を取り込めない」

そう…俺は殴るだけでアレスを倒せそうな気がした。


「そうだな…たしかに、だが」

アレスはヴァリエの足元にふやけた烙印を施す。

その間にも自身の体の崩壊が進むが、気にせず飛びつく。桜井に。


「ま、まさか…やめろ!」

奴は意識が無く弱っている桜井を取り込もうとしている。

それだけはダメだ!


「クッ、」

真は反応が遅れ、ヴァリエは爆発する。

俺が走っても間に合わず。

アレスは桜井に到達、体がぼろぼろになりながらも、割れ目から黒色の煙を発し、桜井に覆いかぶさる。


―――それだけはダメだ!


俺の…無力な精神的抵抗も虚しく、桜井はアレスの煙の中に消えた。

桜井は吸収された。


「ハハハハハッ、力が戻る!」

アレスは復活した。


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