8話 悉(つぶさ)に救えない③
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辺りを見回すと、大きく尖った耳を持つ者や動物のような耳と尻尾を持つ者など、ファンタジーでよくみる者達が散らばっていた。
そしてーー彼等はみんな、死んでいた。
「ここは、どこだ? この大量の死体はなんなんだ!?」
死体達の周りには、たくさんの武器が落ちていた。
みなが命をかけて戦ったのだろう。
どの身体を見ても、血だらけだ。
其処は、荒レ果テた戦場ダった。
「……そこに、そこに誰か、いますよね……。
誰でも、いいんです。
私たちを……助けてください。
私たちの国は、悪魔の脅威にさらされています。
敵はとても強くて、呑気に暮らし平和ボケしていた私たちだけではとても敵いませんでした。
しかし、そんな絶滅寸前の瞬間に名前も知らない貴方がこの国にやってきた。これは命運だと思います。
貴方はきっと強い。そこから強い者の気配がしますから。
貴方はきっと優しい。だって今、私達の状況を理解しようとしてくれているのですから。
貴方になら任せられます。貴方にならこの国を救える気がするんです。
貴方の琥珀色の綺麗な目と、灰色の風に揺れるアッシュグレーの髪を見ていると、そんな気がするんです。
だから、お願いです。この国を、救ってください。お願い、します……」
足元を見ると、死にかけの人が薄く目を開いてこちらを見ていた。
同い年くらいの女の子だった。
長く伸びたサラサラな雪のように白い髪、光の宿っていない無機質な赤い目、白く長い睫毛、青白い肌、が印象的な紛れもない美少女だ。
でもーー
「ーーでも君は、奴隷だよね? かなり頑丈な足枷が付いてる。それに、身体中に痣がある。
何故、奴隷の君がそこまでして自分の国を救おうと思うんだ?」
「……貴方は、洞察力が優れているのですね。鋭い指摘です。
けれど少し違いました。私は奴隷ではありません。
訳あって家族と離れて暮らしているのですが、現在の同居人に虐待を受けています。
その人達は憎いし、嫌いだし……その辺の雑草にでも生まれ変わってくれれば、といつも思います……死ぬ寸前の今でも思っています。
けれど、国が滅んでは、私が頼りにしている、一握りの希望さえも無くなってしまうのです。もしそうなれば、私が今まで生きてきた意味がなくなってしまいます。
生まれ変わったら、絶対に幸せになってやるんです。
だから、だからお願いです……私はもう限界です。貴方が、私たちの国を救ってください。
こんな見ず知らずの奴に頼まれても困るかもしれないけど、心からのお願いなんです……お願い、し、ます……」
「おい? 目を開けろ! おい!!!
希望っていったって死んじまったら話になんねーじゃねーか……生まれ変わるもクソもあるかよ。
……俺で、いいのかよ。俺なんかに頼んでいいのかよ。
どこだよ、ここ。
どうやって救えってんだよ!?
もう、わかんねーよ!!」
気がつくと見知らぬ地にいて、そこは荒廃した戦場で、死にかけの少女に国を救ってくれと頼まれる……どういう状況だよ……。
突然、救ってくれと言われてもどうすればいいのかさっぱりわかんねーよ。
俺が頭を抱えて悩んでいるときだった。
「まだ生き残りがいたのか、撃て」
ーーパァァン!!
銃の発砲音が曇った空に響いた。
自分でも状況が掴めない。
唯一理解出来たことは、敵国の男であろう二人組が俺の胸を撃った、ということだった。
痛みはない。
ただ頭が朦朧として、身体に力が入らない。
どうやら俺はこの国を救えなかったらしい。
立っていることも困難になって、地面に倒れた。
倒れる一瞬、向こう側の大きな時計塔が止まっているのが見えた。
何も出来ない俺は、灰色の空を見上げた。
「すま、ない……」
思うように声も出なかった。
そしてーー目の前が真っ暗になった。
閲覧ありがとうございます。雪野です。
いやはや、主人公死んじゃいましたね。物語として大丈夫なんでしょうか、これ。とかいって見放さないでください。
ウサギは、寂しいと死んじゃうんだぞ!!(デジャヴ)
ということで馬鹿な作者のことは忘れて……。
次回も乞うご期待!!