5話 引きこもりと友達と過去⑤
俺と冬咲が仲良くしていたのは幼少期だ。
家が近所だということで、よく公園で遊んだり家に行ったりしていた。
でも、俺は偽っていたんだ。
"あれ"はその頃からもう始まっていて、だけど冬咲はそれを全て知ったら受け入れられないだろうと思ったから。だって"あれ"は普通じゃ受け入れられないことだから。
でも、ある日。冬咲が俺の家に来たときだった。母と父の会話を聞かれてしまったのだ。彼らは"あれ"についての方針を話し合っていたらしい。
聞かれてしまったのだ、もう俺と遊んではくれないだろう、そうしたら俺はもっと"あれ"に専念させられるだろう。そうなれば毎日が辛くなる。雪が「月夜くん月夜くん!」って笑わせてくれなくなるのだ。
俺は絶望した。
幼いながらに、自分が置かれている状況の最悪を理解していた。
しかし、冬咲の反応は予想と違った。
優しく笑って「これからもずっと一緒に遊ぼうね!」って言ってくれた。
そのとき俺は、彼女の優しさにどれだけ救われたのか計り知れない。
だから昔みたいに仲良くしたいと強く願うべきは俺なのに、"あれ"をいつまでも引きずって、思い出したくないからって、現実に目を背けて逃げていたのだ。
彼女と……雪と、もう昔みたいに仲良くはできないかもしれないと思うと怖くなって、またこの町に戻ってきたけど会うのが怖くて。自分の気持ちを、自身へ対してすら隠し欺き続けていた。
だからーー
「これから、俺と仲良くしてくれませんか……もう一度。ーー雪」
「……! こちらこそ、もう一度仲良くしてください。月夜くん!」
「あと、俺に対して申し訳ないとか思わないで。わざわざ気ぃ遣わなくていいからな」
「うん、ありがとう。あ……あと、私と話してたらすぐシリアスな雰囲気になるのはやめてね。楽しく話そう!
その方がきっと心も楽になるよ……」
そう言った彼女の表情は見えないが、きっと悲壮感に溢れたみたいな顔をして、それを隠すみたいに目と口だけ笑っているのだろう、と感じた。
そんな雪の口ぶりに影響されてしまったのか、思わず暗い声で応えてしまった。
「そうだな」
「……って、そういえば高校どこなの? 私、君が帰ってきたとか全然知らなかったんだけど」
「あー……そう、だなー」
まぁそあだよなぁ……。
不登校なんだもん、俺。転校して4日で不登校になったもん。みんなに認知される間も無く。
「……南学院だ」
「えぇ……私と同じじゃない!
あそこ偏差値高いし、私すっごく受験勉強してやっと受かったのに!
あ、でもそっか。月夜くんは桁違いに頭良かったもんねー。余裕で受かるかー」
「あぁ、まあ、普通に、な」
俺が不登校になったのには2つの理由がある。
1つ、冬咲雪がこの学校にいることに知ったから。
そして2つ、このレベルなら学校に行って授業を受ける必要がないと思ったから。
「どうせまた、こんな授業受ける意味無いとか言って学校サボってるんでしょ?
まあ君がそうしたいなら私は口出ししないけどね、春休み明けの初日だけは絶対に学校へ来てね! 絶対だよ!
来なかったら私、怒るからね!
じゃあ、バイバイ。また休み明けにね」
私は口出ししないけどね、か……。
冬咲は……雪は、これだからいつも少し苦しそうなんだ。彼女の相手は楽で良いのかもしれないけど、な。
複雑な気持ちを抑えられないまま、そんなことを考えて俺は埃まみれの制服をクローゼットから取り出した。
次も是非見てください、お願いします(懇願)