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どんな世界でも月は美しい  作者: 雪野 透
第1章 【人生の転機】
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プロローグ 自堕落ループ

はじめまして。「どんな世界でも月は美しい」作者の雪野透(ゆきのとおる)です。

まず、この小説ページを開いていただいたことに感謝申し上げます。

題名の割にギャグ要素が多いと思いますが、楽しんで読んでもらえると幸いです。


だんだんと外が暗くなり星が顔を出し始める頃、俺はいつものようにケータイと財布を持って近所のコンビニへと向かっていた。


この辺りは都会とも田舎とも言えない、つまり至って普通の土地だ。

近くにはスーパーやコンビニが数軒あり、定食屋や本屋もある。

そして五分ほど歩けばバス停がある。


なので、まあ、土地に何の取り柄がなくとも全く不便はしていない。


そんな普通な場所に住む俺は、特筆することはないが人より頭が良いくらいの普通の人間で、春休みである今、一緒に遊ぶ友人もいないし夢や挑戦したい事もなく、こうしてコンビニに通いながら廃人のようにぐだくだと自堕落な生活を送っている。


「人生を大きく変えてくれる特別イベントとか起きないかなー」


一番星が、どうだ! とでも言わんばかりに眩しく光る夜空を見上げた。


その日の夜空は月が光り、俺の心と反して神秘的でとても綺麗だった。


「なんて。そんなこと、あるわけないか。

俺どうなるんだろうな……もう高3になるのに進路とかなにも考えてないな」


自分の口をついて出た言葉に、思わず溜め息が出た。

けどそれは、進路が決まってないことに対してではない。

これからのことを真剣に考えたことなんて一度もないのに、一丁前に悩んでいるような中途半端な自分に対してだ。


三月なのにまだ肌寒かったためか、吐いた溜め息は白く曇っていて、なんとなく俺の心をそのまま表しているようだった。

白い息は、ふわふわと上昇しながら消えていった。


今の俺は、そんな些細な光景をぼんやりと眺めることしかできないのだ。

ーーなんてちっぽけな存在なんだろう。

俺はもう一つ溜め息を吐き、ゴールのない長く丸いみちを再び歩き出した。



「いらっしゃいませー」


俺がコンビニに一歩入ると、いつものように店員の元気な掛け声が響いた。


暗い外とは打って変わって、目がチカチカしそうなほど明るい店内は、おでんの出汁の美味しそうな香りが充満していた。


しかし俺はそんなものにはそそのかされない。

特にいつもと違うことなんてない、そんな、何にもないただの春休み中の火曜日、だけど今日は新作スイーツの発売日なのだ。

俺はそれを心の餌に、今日も地道で淡々としたレベル上げを頑張ってきたのだ。


俺は一目散に(と自分では言っているが、走って目立つことを恐れ、普通より少し早めに歩いただけだ)スイーツコーナーへと向かい、綺麗に整列されたスイーツ達をとりあえず一望してみた。


「新作以外でめぼしいものはなさそうだな。

じゃあ、やっぱりこれだけにするか」


と、新商品用のケージの前に戻った。


「せっかくの新作スイーツなんだ。同じものでも一番美味しいのを選びたいのは甘党スイーツ好きとして当然の行いだよな」


俺が心に決めていたものは、"あまおう苺のもっちりロールケーキ"と"いちごもち"だ。


"あまおう苺のもっちりロールケーキ"は、ほんのりとイチゴが香る白玉粉を混ぜたもちもちのスポンジの上に、甘さ控えめの生クリームを乗せ、更にその上にあまおう苺を乗せて巻いた、イチゴの季節にピッタリの極上ロールケーキなのだ。


"いちごもち"は、イチゴがガツンと香る特製イチゴ生クリームを求肥で包んだ手のひらサイズのもちもちスイーツだ。


「どちらも予想通り美味そうだ。

やばい、俺がめっちゃ好きなやつやん……!」


俺は二つのスイーツを持ち、慎重にレジまで運んだ。


そして無言で店員に差し出す。


「……」


それを店員は無言で受け取りバーコードを読み取る。


「二点で四百六円になりまーす!」


「……」


「五百円でよろしいですかー?」


「……はい」


あぁもうコミュ障! しにたい!!

自分の代わりに人と喋ってくれるロボットとか売ってないかなぁ…! 二万くらいで。


「五百円お預かりしましたので、お釣り一、二、三、四、五、六、七、八、九十円と四円です! ありがとうございましたー!」


お釣り渡すときに一、二、三…って数えてから渡すって店員あるあるだと思う。



コンビニを出て、程よく人気(ひとけ)のない自販機の前に移動する。

半透明なレジ袋の中から買ったばかりのロールケーキを取り出して、スプーンを開け口にくわえた。そしてロールケーキの袋を開けた。


「……いい匂いがする」


袋を開けた瞬間、ふわりと香るイチゴの香りが鼻をくすぐる。


咥えていたスプーンを取り、柔らかそうなスポンジを掬う。そのまま口に放り込んだ。


「美味い……! これは美味すぎる!! リピ買い確定だろこれ!!!」


ほのかに香る上品なイチゴと口に入れた瞬間とろける、ふわふわスポンジが、なんかもう、たまらん……!!!

というように語彙力がなくなるくらい素晴らしく美味だ。最高。その一言に尽きる。


「ああもう最高! 生きてて良かったぁー!!」


周りに誰もいないと無駄にデカイ声で独り言を言ってしまう。俺あるあるだ。


「あっ、やべ……」


しかし、そんなときに人が通りかかって聞かれてしまいめっちゃ恥ずかしくなる。っていうのも俺あるある。


そんなこんなで大事に食べ進めてきたロールケーキは、ついにあと一口になった。


最後の一口はイチゴを乗せて。


「いた! だき! マアァス!」


スプーンで大事に掬い、宝石の如く輝きを放つそれを口に放り込もうとしたそのときーー


「……ぁあーっっ!!!」


最悪だ。


あと一撃でラスボス倒してクリアっていうときにフリーズしてデータぶっとぶレベルで最悪。


俺は地面に落ちたロールケーキの一片を踏みつぶして叫んだ。


「何が平等な世界だよ畜生!!!!!」



小さい頃、地球が丸いのは何故なのか考えたことがある。


だって丸かったら、どれだけ頑張って前に進んでも、またもとに戻ってきてしまうじゃないかって。


今になってもその答えは出てこない。


だからきっと、俺はこのまま何も変わらず死んでいくのだろう。

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