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出会い

辺鄙な土地に建つ、朽ち果てた城がある。外には山河しかない。

僕は一日の用が終わり、謁見の間でそれこそ何百年置いてあるのかわからない古い椅子に足を投げ出して座り、そのままうたた寝をしていた。大体の場合、僕は1日とくに仕事もないので勉強や鍛錬が終われば暇を持て余しているので、ここで一人でいる事が多い。


古いが家の者が手入れをしてくれている心地好い椅子の上で何度か意識が浮いては沈むを繰り返していると、既に日も落ちており、部屋の中は真っ暗になっていた。

ぼやける眼をこすりながら、また爺にどやされるなと思い、急いで自室に戻ろうとすれば、廊下の奥に広がる暗闇からカツン、カツン、と足音のような物が聞こえてくる。

女官か誰かが蝋燭に火を点けて回っているのだろうかとも思ったが、音の響きがいやに小さい事が気になり、横に座っていた体を起てて、普通に腰掛けるような形で音の主を待った。カツン、カツン、カツン。音は次第に近づいてくる。

姿を見ようと、めったにつけない横に置かれていた油式のランプを小さく灯すと、冷たい空気が頬を撫でていった。


すると、人間よりも幾分低い背丈の、動物のような物の影が床に落ちる明かりの中に入ってきた。

犬?それともオオカミか?羊ならば返してやった方が良いだろう。

そんな事を考えていると音の主が光の射程範囲に入ってきた。

「・・・レオパード?」

昔、家庭教師に見せてもらった絵を思い出してそう呟けば、豹は顔を上げた。

「ほう、良く知っているな」

感心した、というように豹は目を細めてみせた。それは老成したような、達観した笑みでありこの獣が長らく生きているのだと感じさせた。

「しゃ...しゃべった!」

しかも流暢に!思ってもいない反応に声を上げる。

「しゃべるとも。お前とならな」

「僕となら?君はなんなんだい」

光の中でやっと分かったが、その豹は輝く銀色の毛並みを持っていた。突然現れた美しい獣に僕は恐怖を感じつつも、好奇心の方が勝り問いかけた。

「私はお前の言う通りレオパードだ。そしてその”象徴”だ。名前はそのままレオパードと呼ばれているのでそう呼ぶといい」

威圧的にそう言ってくる”レオパード”に、僕はまた問いかける。

「して、レオパード、何か用かい?」

「私の契約者を探してここまで来た」

そう言われて僕は家庭教師の言っていた古い言い伝えを思い出す。

『この世界には紋章があります。貴方の御家にもございますねーーいえございましたね。その象徴には不思議な力がございます』

そう家庭教師が言うには、紋章に描かれている物には意味があり、それぞれが何か主張している。名家や王家は勿論のこと、最近ではただの金持ちも高い金を出して紋章を作るのが流行だそうだ。

そして昔話には続きがある。

『その昔、シンボルにはそれぞれ力があったそうです。古の王家の始祖達はそれぞれと契約をしてその力を分け与えてもらったとか。もっとも、これは伝説の類いなので今ではそんな力はございません。皆、見目の良い物や有名な紋章、名家との繋がりを主張する為にその家の紋章を真似をします。ただ、始祖達がしていたように契約をしている者もいるという噂です。どうやって見つけるのかは知りませんが...』

おいおい、見つけるどころか向こうからやってきたよ。記憶にツッコミながら今自分に起こっている現実を受け入れられない。


紋章の勉強をした覚えもなく、目の前の銀色の豹を眺めてから、まだ夢の中かと一度窓の外を見た。

「私の声が分かるという事は、お前が私の契約者のようだ」

こちらの狼狽えも関係ないと、淡々とした声でそう言われたので驚いてそちらを向けば、豹は僕の足下に”おすわり”をしていた。威圧的ではあるが、最低限の礼儀は持っているようである。

怖いのか人懐っこいのか何がなんだか良くわからないが、珍しい訪問客に、退屈していた僕は椅子から降りてからしゃがみ、目線を合わせた。

「我が契約者よ、お前の願いは何だ」

目の前の美しい豹は溜めるようにそう問うた。その目はエメラルドがはめ込まれたかのように美しい緑色をしていた。こんなに深い緑色はみたことがない。吸い込まれるような澄んだ色に僕が息を飲み込むのを、豹はじっと見つめてきた。


気がつけば窓の外では夜の帳が完全に下りていた。どうやら随分無言でいてしまったらしい。

意を決した僕はゆっくりと口を動かす。

「契約者というものがわからないがーー僕が君のそれなんだね」

豹はその言葉に、満足げにもう一度目を細めた。

「よし、それならしばらくはうちに居ると良い。名前はないようだから、そうだな....」

そう考えて先ほどの窓の外の光景を思い出した。

「ソーマラックでどうだ」

「どうとでも呼べ。私がレオパードである事は変わらない」

「よし、ではそろそろ夕食だ。ソーマラック、食卓へ行こう」

特に嫌がる素振りもなく受け入れられ、僕は思わず嬉しくなった。

そうして椅子から立ち上がり、謁見の間のランプを消してから、ゆっくりと夕食へと向かっていった。

短いです。

誤字脱字があれば、教えて下さい。

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