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245.2話 江戸には高嶺の花が咲く①

\アニメ化決定しました!/

 はらりはらりと紅葉もみじの葉が落ちてゆく。赤いじゅうたんのように道を埋めてゆき、その先には純和風の景観が待っているものだからダークエルフはしばしなにも話せなかった。


 紅葉こうようという季節のなかにあって、紅葉もみじはひときわ赤い。まるで火のように赤く染まり、はらはらと落ちてゆくそれはどこか幻想的だ。


 そして第二階層を思わせる……いや、それよりもずっと発展した景色が「関所」と呼ばれる向こう側に広がっていた。


「んぎゃあああ~~っ! 来たああああ――っ!!」

「こ、こらこらイブ、落ち着きなさい。周りの子たちが見ているでしょう」


 そう慌てた様子のマリーに止められるが、無理だよ無理、こんなの絶対にテンション爆あがりしちゃう。だってだって来ちゃったんだもん。日光江戸村の世界に!


「んあーっ、すごいね! 前に行ったグリムランドだっけ。あそことはまた違うけど、変な生活感がある感じ。あ、見て見て、橋が丸いよ。行ってみない?」


 我ながらどうしようもないほど浮かれているのは分かっていたけど、遠くをピッと指さして、早く早くと誘ってしまうほどそわそわしてしまう。


 だけどこの世界だとカズ君はちょっとだけ大人っぽい。浮かれる私に「しょうがないな」と考えているようにクスリと笑い、そしてあたしの子供心をくすぐってくる。


「待って、イブ。あっちの建物で衣装に着替えられるんだ。やっぱりイブは忍者姿が似合うと思うけど、どうかな?」

「ンぎゃ@¥#%$~~~っ!(声にならない叫び)」


 あ、ヤバ、だめ、地面をごろごろ転がりそうなほど子供心がくすぐられてしまった。


 人里の暮らしにもすっかり慣れたし、所属しているダイヤモンド隊はアリライ有数の実力組織だ。山暮らしをしていたころから考えられないほど出世したのだが、いまのあたしは子供とそんなに変わらない。


「いいわね! 私は着物がいいかしら。ウリドラ、あなたは?」

「ふ、ふ、決まっておろう。わしは刀に目がないのじゃぞ」


 クイと鞘を持つような仕草に、彼女は絶対似合うだろうなと確信した。黒髪だし、背筋がしゃんとしているし、なによりも凛々しさのある美人なのだから。

 いてもたってもいられなくなり、こちらに伸ばされた手をがしりと掴み返すのだった。


 行ってらっしゃいと笑いかけてくるカズ君もなぜか印象的だったな。微笑ましいものを見つめるようなあの顔つきは、なぜか幼かったころの両親を思い出す。


 あのときの景色はもうない。あたしがダークエルフに変わったとき、すべて消えてしまった。だからなのかもしれない。彼の表情をもっと眺めていたい……などと、あたしらしくないことを思ったのは。




 しかしながらそんな思いは「時空」と呼ばれる衣装小屋で吹き飛んだ。


 黒髪をポニーテール状に結ぶウリドラは、まさに女剣士という出で立ちであり「かっこいい」という言葉以外は出てこない。

 竜を思わせる切れ長の瞳、整った目鼻立ち、そして腰には大ぶりの模造刀を差しており、たまらず周囲の婦人から熱い視線が注がれる。ハートマークが漂っていてもおかしくないほどに。


「ふ、ふ、なかなか様になるじゃろう」


 その言葉を聞いた名も知らぬ婦人たちは「お美しゅうございます」と言わんばかりの表情になるが、せっかく異国に訪れた旅行客の邪魔にはなるまいとでも考えているのだろうか。声をかけてくる様子はまるでなかった。


「いいねー! 黒の着物っていうのがまた似合う! それにしても……」


 ちらりと横に目を向けて、正直なところ「見なければ良かった」とあたしは思う。そこには艶やかな着物に袖を通すマリーがいて、まぶしさに目がくらみそうだったのだ。


 ぱちぱち拍手する様子は、まさしく「お姫様」そのものだ。宝石と見まごう紫色の瞳、たんぽぽの綿毛のような髪、そして妖精のような美しさはもはや現実のものと思えない。


「その点、あたしときたら……」


 そう言って己の身体を見下ろすと、夜に溶けてしまいそうな色の忍者装束である。金髪と青い瞳が少しばかり……いや、だいぶ目立ってしまうけれど、マリーに比べたら圧倒的なまでに華が足りないではないか。


「くっ、あんなに憧れていた忍者装束なのに!」

「なにを言う。十分似合うておるであろう。ほれ、手裏剣じゃぞ」


 わあーっ、手裏剣だーっ!

 などと子供のように浮かれてしまうのはあたしの悪い癖だ。いやー、でもさー、鉄の持つずしりとした重さがさー、またいい感じにあたしのテンションをブチ上げてくれるんだわ。


「イブ、こっちに来て。日本刀を差してあげる」

「えっ、いいの!? ひゃーっ、かっこいい! あたし、ニホントウってのに詳しくないんだけど、この鍔のところが模様みたいになっててチョーかっこいいね!」


 なんだか分からないけどうきうきしちゃう。

 布の衣装であり、とてもじゃないけど鎧などとは呼べない。だけど考えてみたら古代迷宮であたしはいつも薄着なのだし、もしかしたら彼らも動きやすさを優先しているのかもしれない。


 木で組まれた窓からは明るい陽が降り注ぐ。秋にしては暖かい気候とあり、この上ない観光日和と思われるが、ずらりと並ぶ衣装リストにイブの目は注がれる。


「わあ、衣装もたくさんあるんだね。ん? なんだろう、あれ」


 そう言い、とある衣装を指さすと二人の瞳も注がれる。


「あっはははは! 行商人! 農民まで!」


 身体を「く」の字にさせたマリーが、くったくなく笑う。

 まー、そんな様子も可愛いのなんの。艶やかな「お姫様」に扮したら、着付けの店員さんまで目を丸くしたほどの愛らしさとなってしまったのだが、その外見に合わないほどの爆笑っぷりである。引き締まった衣装のせいでなおさら息苦しそうだ。


「へー、でもこれカズ君なら似合うんじゃない?」


 そう口にすると、二人はカズ君が着ているのをもやもやと想像したのだろうか。秒の間を置いて、ブーッと一斉に噴き出した。


「あっははは! 似合う、似合うわ! 絶対に似合う! ねえ、彼を呼びましょう。そしてすぐに着替えてもらいましょう!」

「わっはははは! 腹が苦しい! なぜあやつはああも一般人の姿が似合うのじゃ! あれでも勇者候補を一騎打ちで倒した男じゃぞ!」


 むしろそんな外見だからこそ、敗れてしまったザリーシュの名声は地に落ちたのかもしれない。実際は高レベルに達した剣士であり、早々に敗れる男ではないのだが、周囲からは滑稽に見られることだろう。


 この場に本人がいれば「え、嫌だよ?」と言い、きっぱりと衣装を断ったかもしれない。しかしいないのだから仕方ない。


 そういうわけで数の暴力もとい多数決により「行商人」の衣装に着替えさせられた北瀬は、当たり前のように三人から爆笑された。


「ぎゃっははは! 腹がっ、腹が苦しいっ! ええい北瀬! その引きつった笑顔をすぐにやめよ!! 魔導竜であるこのわしを殺す気か!?」


 多数決で無理やりに決まってしまうのはかわいそうだし、なんと言っていいのかまるで分かっていないだろう様子も涙を誘う。


 だけどごめん。あたしの腹筋も崩壊しそうだ。おかしなくらいピクピク震えているし、笑いを懸命にこらえているだろうマリーの顔にふと気づいた途端、もう駄目だった。ブフッと互いに噴き出してしまったのだ。


「あっはははは! 苦しいっ! お腹が苦しいっ! 死ぬっ!」

「あははははは!! やだぁ、もうっ、いくらなんでも似合いすぎなのよ! もうちょっと考えて頂戴!」


 そりゃあね、なにも言えなくなっちゃうよね。ただ立っているだけなのに交際相手から好き勝手にいろいろ言われてしまうのだし。


 薬入れらしきものを風呂敷で包み、背負った様子は異常なまでに似合っている。もしかしたら前世は行商人だったのではと思うほどに。


 そんな風に周囲の注目を浴びるくらい騒いでしまったけど、なんでかな。あたしはすごく楽しかった。

 というかね、ずっと楽しいんだ。皆と友達になって、どこか好きなところに行って、わいわい騒がしく遊ぶのって最高なんだなって思う。


 まだお腹が苦しいし、涙まで出てきてしまったけれど、秋の暖かい陽射しのなかですっきりした気分になるあたしだった。

 ふう、マジで死ぬかと思った。危ない危ない。

みなさん、こちらのティザーPVでマリーちゃんと北瀬君がしゃべるし動きます!


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― 新着の感想 ―
[一言] すげ〜 ちょっと感動… アニメ化おめ〜
[一言] サンリオピューロランドにも、ぜひ連れてってあげて欲しい。 きっとマリーは萌え狂う事でしょうw
[気になる点] 我等が女神はやはり白装束を選択するのであろうか?ハレルヤ。
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