【番外編】シャーリーと過ごす時間③
この迷宮を選んだのは正解だったかもしれない。
そう思ったのは、ダリスという名の節足獣を倒した時だった。毛むくじゃらのムカデという表現が近しく、大きさは幅1メートル、長さは二十メートルほどと巨体だ。
じゅわあ、と酸性の毒を撒き散らしているので僕は近づけないけど、シャーリーは魔物をまじまじと近くから眺めている。もちろん幽霊にそんな毒など効かないだろう。
「どうシャーリー、良さそうな魔物かな?」
遠くから声をかけると、指で小さな丸マークを作ってくれる。どうやら彼女の収集欲を少しだけ満足させたらしい。
迷宮での魔物の死というのは、大抵は粉状となり消えてゆく。いずれはまた姿を取り戻し、そうしてこの地で循環をするのだ。
しかし、彼女の指先に触れられると様子は異なる。
「ん、粉にトロみが出てきたね。水をかけた片栗粉みたいだ」
もう平気そうなので近づいて行くと、振り向く彼女から「カタクリコ?」と言うように可愛らしい顔で小首を傾げられた。
すぐ隣にたどり着くと、そんな疑問も消えてしまったのか青空色の瞳を笑みに変えてくれる。見て見て、と指先を魔物へ向けられた。
余分な酸素をぷくぷく吐き出しながら、その山は色を変えてゆく。どことなくシャーリーを連想させる白色に近づくのは、ひょっとしたら眷属なり配下になった証かもしれない。
魔物としての容姿も変わり、風が吹くと剛毛は真っ白いふわふわの毛へ、赤く染まった目玉はどこか丸みを増す。もおお、と牛のような声で鳴き、すぐにダリスは魔物図鑑へと収納されてゆく。
それが渦を巻き、収められてから彼女へと声をかけた。
「これ、放っておいたらいつまで酸を出していたのかな。魔物図鑑に何か書いてある?」
そう尋ねると彼女は身を寄せ、すぽりと腕のなかへ入ってくる。そして「どうぞ」と本を開いてくれたので、シャーリーと一緒に覗き込む。
明るい色の髪が触れ、すぐ近くに頬があって気恥ずかしい。けれど今は好奇心のほうが勝っている。
そこには色鉛筆で描いたようなイラストがあった。レベルとしては四十代半ばとさほど強くは無い。しかし死後に酸を撒く魔物というのは珍しい。
紹介を読んでいた僕は、とある一文に目を止めた。
「うわ、死骸は半日ほど酸を撒く!? やっぱり倒すと面倒なタイプだったのか。でも今日はシャーリーが一緒にいてくれるから大丈夫だね」
そう言うと、小さな力こぶを見せてくれる。任せて下さいという事だろうけど、見えないくらいの力こぶだから笑ってしまう。本人だけは気づいていない、という意味でね。
「じゃあ先へ進もうか、シャーリー。次も面白い魔物だと良いね」
掴みやすいよう肩を差し出すと彼女は喜んでくれる。機嫌良さそうにドレスの裾はふわりと宙を舞った。
気になるのは他の魔物たちだ。
いま捕獲したダリスと同種族の者たちは、尻ごみするよう暗がりへ隠れてゆく。
ふうん、ヤグドリスの迷宮に棲む魔物は頭が良いのかな。元階層主であるシャーリーに怯え、そそくさと逃げ出す様子に僕はそう思った。
あ、聞きたかった事があったんだっけ。
ふとそう思ったのは焚き火でサンドイッチを温め、昼食を摂っているときだった。藍色をしたこの迷宮は、下層に行くほど塵や埃は消えてゆく。天井はずっと高く、おかげで辺りの景色を楽しみながら美味しく食事を頬張れる。
正面に座る彼女は、もくりと片方の頬を膨らませながらこちらを見てくる。たぶん僕の視線に気づいたのだろう。
「シャーリー、いまは霊体のはずなのに、どうして食事を摂れるんだい? 普段もお茶を飲んでいるけれど、どうやって食べたり飲んだりしているのかなって」
そう尋ねると、彼女はしばし悩んでから手で招いてくる。おいでおいでと誘われるまま隣へ腰掛けると、さらに身を寄せる必要があったのか、彼女は背を預けてきた。
そして綺麗な指先をカップへ伸ばし、ごく自然にそれを持ち上げてくる。
半透明をしたシャーリーに運ばれ、すぐ目の前へとコップがやってくる。その向こうには「ちゃんと観察してくださいね」という楽しげな笑みをする彼女がいた。
「んんー? 普通のコップだけど……うーん」
まじまじと覗き込んでもよく分からない。
それが楽しいのか彼女の笑みはより深まり、ぱっと口を開けて笑われた。声は聞こえないけれど、これだけ可愛らしい笑顔を見せられたら嬉しい気になるね。
では、種明かしの時間です。
そう彼女の唇は動き、ゆっくりとコップは彼女の手から離れてゆく。まるで無重力になったよう空中を漂い、そして色づいた唇へと近づいてゆく。
ああ、なるほど。これは念動みたいなものか。動きが自然だから手に持っているように見えるけど、実際はコップを動かしているわけだ。
そして透明な液体も同様に漂い、わずかに開いた彼女の唇へと吸い込まれてゆく。
その吸収する様子を伝えてくれるのか、開いた唇をこちらへ寄せ、小さな歯、桜色の舌を見せてくれる。液体さえもごく自然に吸収され、そして閉じられた唇の向こうでは、ごくりと華奢な首は動く。
分かりましたか?と、楽しげに小首を傾げてくるけれど――分かっているのかな、こんな近くにシャーリーの魅惑的な唇があると困ってしまう事を。
こちらの表情に気づいてしまったのか、ぎしりと彼女の笑みは強張る。そして指先で唇を覆い、かあっと頬を赤く染めてゆく。
わっ、わっ、わっ、と恥ずかしげに震え、もう一度こちらを見上げた彼女は、本当に顔から火を吹きそうな涙目をしていた。
それからすぐに仮面をかぶり、こちらに背を向けて丸まってしまうから……元に戻ってくれるまでが大変だったよ。
さて、昼食を終えると魔物収集を再開することになった。
迷宮の中なので太陽は見えないけれど、この眠そうな顔であろうと体内時計は完璧だ。目覚めるの時までには余裕があり、シャーリーの興味を誘う魔物を仲間にしてゆく。
先ほど気恥ずかしい思いをしていたシャーリーも、図鑑が埋まってゆく楽しさに気が晴れたらしい。鎌の装飾をした恐ろしくも可愛らしい仮面を外してくれた。
そうしてようやく僕らは最奥部にたどり着く。
百人は優に収容できそうな広間は、やはりランプの必要も無い藍色に包まれていた。
かつんかつんと靴音を響かせ、僕らは歩く。
「やっぱり下層のほうが綺麗だね。空気もそうだし、床に塵も少ない。誰かが手入れをしているのかな」
酸素はどこか新鮮で、迷宮特有の息苦しさを感じない。
僕の肩に掴まり、図鑑を眺めていたシャーリーも周囲に視線を向ける。藍色の水晶に飾られた広間は、まるで深夜に散歩をしているような静謐に包まれていた。
はあ、と彼女は息を吐く。
僕は知っているけれど、彼女はとても夜が好きなのだ。
静まった空気、安らぎの時。しっとりとした夜気に包まれると、シャーリーの持つ雰囲気はまた変わる。まるで動物たちの夜を守っているようだ。
「綺麗なところだね、シャーリー」
お互いに分かっていることを口にする。
そうすると、ちょっとだけ互いに幸せになれるものだ。こくこくと頷きあい、それから「私もすごく好きです」という彼女の笑みを楽しめる。
かつん、と広間の中央に立つ。
静まり返り、落ち着いた世界はまるで夜のようだ。吐き出した息はわずかに白く、風に乗って流れてゆく。
そんな時に、奴は現れる。
闇のなかから姿を現し、関節から藍色の炎をあげ、吐く息は黒炎。身の丈3メートルほどと巨体であり、手にした獲物は双頭の刃。
頭上に見られる古代文字「ヤグドリス」という名称から、この迷宮の支配者なのだと分かる。
ぬるると音も無く動き、横へ横へとずれてゆく。
双頭の刃はレコード盤へ刺さる針のように地面へ触れ、ズズズと青い炎をあげてゆく。そうして広間は本来の姿、虐殺と絶望の間へと変わりゆく。
すごい強そうだ、などと燃え盛る炎を見て思う。
未知の世界へ果てしない興味を持つ僕は、地の底から響くような戦闘音楽さえも楽しめている。もしも言葉で今の感情を表すなら「やった、強敵だ!」だ。
時計回りにゆっくりと燃え盛る炎とともに、僕の高揚感は増してゆく。
しかし、それらは唐突にピタリと止まってしまった。
「ム、その気配はもしやシャーリーか」
そう遠くから悪魔語で話しかけられる。
こくこく頷き返す彼女に……何と言うか、非常にがっかりした。
この溢れる戦闘意欲をどこへぶつければ良いんだ。ストレス社会と言われている日本で働いているのだから、こういう場所でこそ発散しないといけないのに!
あああ、と僕は頭を抱えた。
「? そこの人間は、なゼ頭を抱えているのだ」
「あー……こんにちは、友達のカズヒホです。シャーリーの姿は以前と変わっているかもしれませんね」
気を取り直して振り返ると、悪魔も大きく姿を変えていた。
青い炎は装甲に変わり、身体は凝縮されるよう人体に近づく。双頭の刃を腰へ収め、彼は落ち着いた歩調でこちらへやってきた。
「なぜ人間と一緒に……と思ったが、貴様も少し空気が変だナ。国神に属しておらぬのか」
「え? 確かにどの国にも属してませんが――珍しいんですかね」
ほら、僕は基本的に旅人だからどこかの国に属したりしないんだよね。定住するなんて勿体無いし、移動先に制約のある夢なんてまっぴらだし。
そういう意味で返事をしたのだが、首を傾げる様子はどうやら意味が異なるらしい。
「まあ良い。それよりも貴様、悪魔語をどこで覚えた?」
「ええと2年くらい前ですかね。メジャス遺跡の最奥に気の良い方がいて、簡単な会話だけ教えてもらいました。まだちゃんと話せませんので古代語に変えていただけると助かります」
「オイラスの旦那か! あの老いぼれもまだ生きてたか」
はっはっは、と気持ち良さそうに笑われた。
悪魔ってのは絶対に信用してはいけない――のだけれど、殺されても平気な僕はぜんぜん気にしない。言語を古代語に変えてくれたので気の良い悪魔なのだろう。
だけどね、僕が求めているのは違う展開なんだ。
何故ならここは迷宮であり、ラスボスとの戦いは必ず発生しなければいけない。
今のように「こちらはカズヒホさんです」「どうもどうも」とシャーリーを介して紹介してもらうのは、まったく求めていないんだよ。
もっとこう、あるじゃない。ボスとして言うべきセリフがあるじゃない。
ここは人間が入って良い場所ではない。立ち去らねば殺す、とかさ。
その恐ろしい顔をした悪魔は、双頭の刃に手を重ねたまま、じいとこちらを見つめてくる。眼光は厳しく、剣呑な殺気を帯びつつある。
よし、言うんだ。君なら出来る、君なら言える。そうひっそりと胸の奥で僕は応援した。
「だが、ここは人間が入って良い場所ではない。我が広間にその血をブチ撒けてやろうか、人間よ」
来た! 強制戦闘イベントだ!
コキィと首を鳴らす悪魔に、僕はガッツポーズをしないよう懸命にこらえる。やあ、仕方ない。強制的な戦闘なら剣を抜くしか無いよねぇ。
しかし、その瞬間にズシンと来た。
重力が倍にでもなったような感触に、自分の肩を振り返ると……そこにシャーリーの手があった。
その氷のような冷たさに、ゆっくりと僕と悪魔ヤグドリスは視線を上へと向けてゆく。すると感情を失った瞳をする彼女がおり、ゆらりと半透明のドレスと髪は恐ろしげに揺れる。
湖が内側から凍るよう、空中には白い結晶が生まれてゆき、その冷たさへゾッとする。僕と悪魔ヤグドリスの2人がだ。
「シャーリー!? 落ち着いて落ち着いて!」
「待て待て、待つのダ! この奥には余の本体がある! 汚らしい人間を放置しておくわけにはいかヌ!」
何が気に障ったのか、あらそうですか、とシャーリーは笑う。
言葉を話せない彼女は、返事代わりに魔物図鑑を取り出した。風も吹いていないのにばららと勝手にめくれだし、冷気はさらに増してゆく。
ぞぉっとした顔を悪魔はする。
周囲はさらに一段階暗くなり、広間に鐘が鳴ったのだ。
ごぉぉおーーん
ごぉぉおーーん
ごぉぉおーーん
その定期的に鳴る旋律は、シャーリーの持つ独特な戦闘音楽だ。それは13回ほど鳴り響き、空気は内側から凍りつき、そっと肌を触れてくる気配に総毛立つ。まるで何かから触れられたようだ。
ずしっと増した圧力は、きっと彼女が何かを呼んだのだろう。
僕らは揃って「待って待って!」と手をパタパタ振るけれど、鎌の仮面をかむった彼女には見えないのだろうか。
何だ何だ、一体何を魔物図鑑から呼んだ?
圧迫されるような気配は、かなりの大物がこの広間に来たと分かる。しかし周囲は暗いため、どこに居るかも分からない。
「分かった、余は人間が大好きで……!」
ああ、それを言うのは少しばかり遅かったかもしれない。
広間の奥、石組みの階段からカツリと足音が響いたのだ。長い手足、翼のように広がった背中。シルエットとしては悪魔のものだが、瞳は異なる。
爛々と輝く二対の瞳。
純粋な溶岩を見たようであり、わずかに開いた口からはオロロと鳴き声を放つ。それはおどけるように首をかしげ、僕、そして悪魔ヤグドリスを見た。
金属音と共に指を動かし、何でも斬ってしまいそうな爪を微調整しながら――魔装カルティナは階段を降り始める。
がつ、がつ、と石組み階段を砕きながら、普段とは異なるその闇色の鎧に、楽しげなその気配に、ストレス発散どころじゃなくなったぞ、などと僕は思う。
「はは、これですか、姫の怒りを買った者は?」
いつの間にやら背後からシャーリーに抱きつかれていた。こくりとすぐ隣で彼女は頷き、仮面の内側では不機嫌そうに唇をとがらせている。
頷いたカルティナは、広げた手をゆっくりと天井へと向けた。
何をするのかと思ったら、周囲の闇色はさらに深まり、ズズと夜の津波のように広間が埋められてゆく。
隣の悪魔が「あっ」と声をあげたのは、先ほどまでの青い炎が黒色に変わったからだろう。
「分かりました、お任せください。苦しませるために広間を魔素で作り変えました。よし貴様、粉粒になるまですり潰してやるぞ。正々堂々とした一騎打ちを骨の髄まで楽しもう」
えいえいおーという動きは可愛いが、放たれる気配は極寒のそれだ。
よーし、やろうやろうとカルティナは軽快に階段を降り始める。しかし、とっくに悪魔の意欲は失せていた。ぶるると震える姿はまるで小型犬のようであり、救いを求めるよう彼の目はこちらを向く。
「……ええと、僕が何とかしましょうか?」
「そうしてくれ! カズヒホ君、とにかく早くお願い!」
裏返った声で、そう懇願されてしまった。
さて、武装を解いた悪魔と僕らは、扉の奥を進んでいた。
廊下には絵画や調度品とった芸術品がいくつもあり、しおれた花へヤグドリスは通り過ぎざまに指先で触れる。
ぴんと青い花は花弁を広げ、わずかに見えた横顔には笑みを浮かべていた。
悪魔とは思えない表情だなと思っていると、彼の青い瞳はこちらを向く。
「ここは余の家だ。ヤグドリスの迷宮と呼ばれているが、夜の時代を懐かしんだものに過ぎナイ」
そう言いながら、行き止まりの扉は内側から開かれる。
周囲の造りとまるで異なる岩肌の空間は、ぼんやりと青く発光していた。中央にある大きな水たまりには透明感があり、覗き込むとずっと奥までの深さがあると分かる。
同じように覗き込むシャーリーは、わあと唇を開いた。たぶん彼女のとても好きな夜色なのだろう。
しばらく待つと、水面へ何かが近づいてくる。それは大きな存在で、わずかに水面を波立たせてから浮き上がる。
「これは……スライムですか?」
「うム、余の本体だ。古代に失われた血は大地に吸われ、こうして集合をする。大きさや形を自在に変え、特定の色を有していない。噂になっているのは、たまに遊びに行ったところを見られたのだろう」
そうか、だからこの迷宮は地下から地上へ向けて伸びていたのか。
石油のように古代の存在は地中で集まり、時折こうして知性を取り戻す。そう彼は気前よく教えてくれた。
「だから君の魔物図鑑には載せられない。ただし、折角来てくれたんだ。少しくらいなら分離しても構わないだロウ」
そう言い、悪魔は手をかざす。
水面を漂う物体からは牛くらいの大きさが切り離され、それは色を変えながら近づいてくる。
「これは霊薬とも呼ばれる。最近になって価値が高騰しており、それを求めて無謀な冒険者らがやってくるわけだ」
霊薬という響きは、どこかで聞き覚えがある。
それは初めて魔石に触れたときだった。猫族のミュイから指先に霊薬を一滴垂らされ、エルフと共に契約をしたのを覚えている。
「あ、そのせいか。ええと――アリライでは魔石の精製をしており、霊薬の高騰につながっているのだと思います」
怪訝な顔を見せる悪魔へ説明すると、微かに彼は笑い「魔を滅するために魔を求めるとは愚かなことだ」と漏らす。
しかし、と何かに気づいたよう、もう一度彼はこちらを見た。
「霊薬トハ、夜の時代の名残だ。そこに善悪は存在せず、魔と人の区別もない。これが何のためにあるのか思い悩んでいたが、今は魔と人を繋ぐ役目を果たしているのだな」
そうひとり言のように、感慨深げに彼は漏らした。
空中を漂う存在に、シャーリーは瞳を輝かせて覗き込む。
そして指先を伸ばして触れ、それは虹色の波紋を広げる。色はもう少しだけ白色に近づき、導かれるよう魔物図鑑へと吸い込まれてゆく。
「とても珍しいスライムだね、シャーリー」
こそりと耳元へ囁くと、とても嬉しそうな顔をしてくれた。スライムなのか霊薬なのかは分からないけれど、希少な魔物を手に入れて喜んでくれたのだから良しとしよう。
さて、裏道を案内され、外に出るともう日が暮れかけていた。
雲はピンク色に染まり、東からの風にゆっくりと流されてゆく。遺跡とはまた異なる空気に、思わず僕らは深呼吸をした。
「ああ、たくさん歩いたね。疲れたかい、シャーリー?」
ううん、とかぶりを振られた。考えてみれば僕ばかり歩いていたのだから、確かに疲れは少なかったかな。
残された役目は、彼女を第二階層まで送るだけだ。懐にある魔石の感触を確かめながら、背後の彼女へ振り返る。
「それで、もしよければ第二階層まで送ろうか。夕暮れのなか、空の旅を楽しむのはどうだろう、シャーリーさん」
こっく、こっくと綺麗な子から頷かれ、悪い気をする人はいないだろう。
綺麗な水色をした魔石は、具現化すると翼を広げて空中へふわりと浮かぶ。背中に乗り、状態を確かめてから彼女へ手を伸ばすと、思いがけない事があった。
きゅうと指先を握られ、しばし僕は驚く。
柔らかく温かい体温に、そしてみるみるうち頬を赤くしてゆく彼女に、僕は笑いかけながら「どうぞこちらへ」と座席を案内する。
せっかくの不死である僕らだ。高いところを飛ぶのだから、肩ではなく特等席を楽しんでもらうべきだろう。
しかしそう思って案内したのに、なぜか彼女は高いところが苦手らしく、飛び立ってからすぐにわあわあと悲鳴を上げることになった。
ただ、悲鳴をあげるお化けというのも可愛らしくて良いと思うんだけどね。
そう思ったままに伝えると、夕陽を受けて彼女は真っ赤に染まった。
◆冒険の成果
【血だまりの水晶】
無数の死者や亡霊を支配する。従うものは命令を無条件で受け入れ、術者の力量次第で規模と効果が変化する。災厄級の事件を起こした過去があり、禁忌として保管されていたが盗み出されて以降、発見されていない。
【魔物図鑑への収納】
・ヤグドリスのかけら … 無形タイプ
主技能)霊薬、属性変化、体積変化 LV68
・ダリス …… 節足獣
主技能)突進、飛行、範囲への強酸、LV45
※他多数




