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第18話 盗賊団との戦い①

 

 ――ウジャーピーク遺跡。


 くあー……っ。

 たっぷりと眠った満足感とともに目を覚ますと、目の前にはぶすっとした表情のエルフがいた。

 日光のもとでは彼女の髪はまぶしいほどに白く、そして薄紫色の瞳は花が咲いたように輝いてくれる。


 けれどもまあ、その表情なら目覚めとともに甘い言葉は囁いてくれなそうだ。少女の色鮮やかな唇が開くと、やはり非難めいたことを言われてしまう。


「もう、あんなにすぐ眠ってしまうだなんて! すごく続きが気になって仕方が無いじゃない」

「ふふ、楽しみは明日の夜にとっておこうよ。ええと……ああ、やっぱり凄い砂だなぁ」


 身体は半分ほど砂に埋まっており、身を起こすとぼすーっと零れ落ちてゆく。

 まあね、高台にいた僕らめがけて怪物が熱砂攻撃をしていたのだし、このような状況だろうと予想はしていたよ。とはいえ心地良い目覚めとは言えないねぇ。


「えーと、カバンは……あった。よい、しょっ……!」


 砂山からカバンの紐が見えており、それを掴んで引き上げる。こちらも砂が流れてゆき、オアシスのある地上へと撒かれた。続いて彼女のカバンも引き上げると、ようやく作戦準備は整ってくれる。


「うん、時間が無いしさっそく始めようか。それじゃあ作戦通り進めるとして、無理なときは大声で呼ぶからね」

「分かったわ。そのときは【旅路の案内者トレイン】で脱出ね。では、作戦を開始するわ!」


 きりっとした声と共に、彼女は精霊魔法を展開する。

 普通の魔術師よりも有利なのは、この精霊魔法まで扱えるところだろうね。精霊というのは直接的な攻撃手段は少ないし、環境によっては呼び出せないこともある。だがこのように……。


 きらりと宙が輝いたと思ったら、ゆっくりと面積を増してゆく。

 それは太陽を思わせる暖かさと明るさがあり、しばらく待つと人と同程度の大きさになった。


「私の身を隠して――【姿隠しインビジビリティ】」


 これは恐らく光の精霊であり、屈折させることで彼女の身を隠してくれるのだろう。ゆらゆらとマリーの姿は曖昧なものとなり、消えてしまうまで数秒もかからなかった。


「はあ、マリーが見えなくなっちゃった……そこにいるよね?」

「もちろんちゃんといるわ。これからゆっくり移動をするけれど、足跡や匂いまでは隠せないの。たぶん魔物には気づかれてしまうわ」


 なるほど。となると彼女が身を置ける場所は限られてくる。


「分かった。じゃあ僕も動くから、何かあったらすぐ呼ぶようにね」

「ええ、そちらも気をつけて。あと明日の夜にはちゃんと続きを読んでちょうだいね」


 分かったと手を振り――たぶん向こうも振り返してくれたと思うけれど――僕はオアシスへと動き出した。


 さーて、作戦開始だ。

 前回は襲撃を受けるときに何人もの視線を感じていた。予想では彼らが獣人を脅し、そしてあの怪物を呼ばせていたと思われるが……。

大まかな目標としては「子供の救出」「脱出」がある。ベストは彼らの殲滅だが出来るかはまだ不明だ。


 ならばまず目立たないといけない。

 彼らがどこに潜伏しているかはまだ分からないし、あの子供も見つける必要があるからだ。そのために水辺へと近寄り、現れた魔物を屠ってゆく。

 立て続けに放たれる魔物の悲鳴により、ようやく彼らも僕に気がついたようだ。


 かすかな話し声、そして視線がこちらへ集まるのを感じる。

 じっと気配を探り、ゆっくりと僕の顔は上へと向けられていった。すると崩れかけた建物の一つから、さっと男が顔を隠すのを目で捉える。


 ――ああ、いたいた。問題はあの子がどこにいるかだよねぇ。


 なぜ逃げたはずの僕が姿をまた見せたのか。そして一緒にいたエルフがなぜ見当たらないのか、きっと彼らは悩んだことだろう。

 だいぶ時間を空け、彼らは前回と同じ手を使うことにしたようだ。まあ、きっとそれしか手が無いのだろう。


 ずずずずず…………!


 足元からの振動は恐ろしげだけど、逃げ足が立派な僕にとって怖い存在ではないんだよ。

 怪物など無視をして、僕は崖を見上げている。そこには昨日の子がおり、やはり魔力触媒を輝かせていた。


「ちょっと距離があるなぁ……。よし、だいたい他の人の位置もわかったし、試しに行ってみようかな」


 もしも子供を助けることが無理なら、残念だけど諦めるべきという二人の結論だ。

 どおお!と大量の砂を巻き上げて怪物が姿をあらわした直後、両足で地面を踏み、そして僕のファーストスキル【道を越えてオーバーロード】を起動する。


 重量、移動距離、その他にもいくつかの制約はあるものの、こうして距離をつめるのにはとても重宝させられる技能スキルだ。

 ひゅんっとまずは壁際まで移動し、真上の建物を次の移動先に選ぶ。


 崩れかけた建物を踏みつけ、そしてまた飛ぶと怪物がゴオオオ!と威嚇の声を発していた。びりびりと大気を震わす声ではあるが、距離があればそう怖いものではない。

 崖下を見下ろし、その光景に思わず呟く。


「ああ……これってすごく便利じゃないの?」


 もうひとつ、マリーは精霊魔術師としてのメリットを活かしていた。

 密かにマリーが生み出していた精霊は既に5体ほどになっている。彼らへと魔術を渡し、発射できるのが精霊魔術士だと聞いているが、どうやら精霊はそれぞれ移動をすることも出来るらしい。いわば一発だけ撃てる戦車だ。


 術者から離れた位置へ精霊は潜み、そして散発的に怪物へ魔法が放たれると、これ以上なく僕という標的から目を逸らすことができた。


 これがそうだ。魔術師と差がつくのは、この状況に合わせて変化できる多様性に尽きる。おかげで今まで出来なかった方法を考えられる。


 ――これは応用が効きそうだなぁ。おっとそれよりも……。


 もう一度、建物から建物へ飛ぶと、先ほどの子はすぐ目の前にいた。

 汚い布を頭からかぶった子供は、びぐん!と身をすくませる。遠くでは分からなかったが本当に小さい。小学校の低学年くらいだろうか。


 おどおどと後ずさる様子は僕に怯えているのだろう。

 しゃがみこみ、目線を合わせてから僕は口を開いた。


「やあ、助けてほしいかい? もしそうなら僕は手を貸すよ」


 びくっともう一度、その子は震えた。今度は恐怖ではなく、かすかな希望を見出したかもしれない。なにしろ僕は、恐ろしく習得者の少ない獣人語を発していたのだ。


「え、言葉、分かるのデス? ボクらの言葉……」

「分かるよ、これは僕の趣味だからね。ゆっくり君と話しをしたいけれどあまり時間も無いんだ。さあ、どっちがいいかな。立ち去って欲しい? それとも……」


 がちゃりと鎖を揺らし、とても小さな手が僕にすがりついてきた。白と茶色の獣毛に包まれており、とても汚れきった毛並みをしている。


「お願いします、助けてクダサイ……っ! もう、こんなの嫌なのデス……っ!」


 ――分かった、と僕は呟いた。


 拝むように頭を垂れる獣人を前に、ざっと僕は立ち上がる。背後に迫る奴らこそ、この場で悪さをしていた者達だ。

 頭にターバンを乗せ、腰元には反りのある曲刀を差している。汚い身なりであるものの、いずれも高レベルな者達だと直感させられる。

 先頭に立つ頭領だと思わしき男が、黒い顎ひげを揺らして話しかけてきた。


「……よく戻ってきたなぁガキ。昨日、どうやってあの場から消えたのかようやく分かったぞ。お前は移動系に特化したタイプで、エルフを連れて逃げたんだろう。ここまで飛んできたようにな!」

「あー、うん、だいぶ近いね。それで、良ければこの子との【従属スレイブ】を解いてくれないかな?」


 ちらりと鎖を見ると、普通の鉄などでは無く契約により縛られていることが分かる。つまり物理的な破壊はできないのだ。ニヤけた男が手にしている、あの契約石がある限り彼は救えない。


「よおーし、取引だ。おまえのカバンを手渡せば、そのチビは解放してやってもいい」


 などと言われたが……ええー、そんな見え透いた嘘をつくの?

 僕はねぇ、外見は子供でも中身は社会人なんだよ。どうやっているのかは知らないが、あの獣人の子を使って旅人を襲っているのは分かる。そんな金ヅルを、お前たちがあっさり手放すわけ無いだろうに。


 ――では交渉決裂ということで。あ、交渉にもなってないか。


 剣をふりかぶった直後、僕は【道を越えてオーバーロード】を起動する。頭領の側面へと一気に移動をし、そして迷わず振りぬいた。


 きぃん……っ!


 澄んだ音を立て、契約石は斜めに断ち切られた。

 一歩前進……と思った直後、横合いから太めの男が突進をしてくる。どうやら彼は盾役タンクの役割をしているらしく、頭領を守るべく隙の無い構えで迫ってくる。


 押されつつも防御の隙間である腕や脚へと攻撃を与えているが、そう簡単には止めることは出来なさそうだ。はっと気がついたときには背後に崖が迫っていた。


「ははっ、落ちろこのクソガキがっ!」

「あ、はい。行ってらっしゃい」


 力任せの突進は、狙い外さず僕へとブチ当てられる……が、そのまま素通りをし、彼だけが崖下へと落ちていった。


 あんぐりと残りの賊たちが口を開いているのは、宙に浮かんだ僕がぐにゃりとゆがんでいたせいだ。突進を受けたところを中心に、絵が水に溶けてゆくよう乱れ、そしてふうっと消えてしまう。


 これが僕の最後のファーストスキル、【夢幻の如しファントム】だ。僕自身の幻影を生むことができ、実体は存在しない。たぶんこの技こそが夢幻剣士なる僕の職業名に由来しているのだと思う。


 ぼすーん、と土ぼこりを上げ、それがまた良い感じに怪物の目を引いたようだ。

 僕と賊たちが一緒に「あっ」と声を上げ、どろどろという地響きのなか巨大な怪物から盾役タンクは逃げ惑った。


 死なないように頑張ってねー。

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